第8話 授業を受けよう
「まずは、この世界の歴史から魔法を理解しましょう」
学長はそう言ってテキストを見るように指示した。
「わたくし達の祖先は、慈母龍イシュタリアから漏れ出た魔素溜りから生まれました」
えっと、僕が設定した事を淡々と教えられるのかな……知ってるんだけども……。
「あなたはハンターライセンスを持ってますね? 魔法を扱うモンスターはいましたか?」
「いえ……あぁ、急加速するモンスターは見ました」
「そうですね、それも風魔法を使ったスキルです。そのモンスターは魔法を誰から教わったと思いますか?」
誰から……?
「親から……でしょうか」
「繁殖したモンスターならその可能性はありますね。では、魔素溜まりから生まれたモンスターは誰から魔法を教わるのでしょう?」
歴史の授業かと思ったら、突然問答が始まった……難しいな。
「では、モンスター以外の話をしましょう。蜘蛛は教わりもしないのに巣の張り方を知っています。鳥は教わりもしないのに大空を羽ばたいて飛び回ります。何故でしょう?」
学長は変わらず笑みを浮かべて、僕の目を真っ直ぐに見つめている。テキストを見る振りをして目を逸らした。
「何が言いたいのかというと、わたくし達は教わらずとも魔法の使い方を知っています。いや、知っていました」
「……僕も魔法の使い方を知ってるって事ですか?」
学長は静かに頷いた。
「えぇ、順序立ててお話しましょう」
学長の話では、モンスターは教わらずとも魔法の使い方を知っている。各種族は教わらずとも魔法とスキルを使い、争っていた過去があった。
慈母龍イシュタリアの前で全ての種族が共闘し、それを退けてから二百年と少し。戦う必要のない人々は魔法を使わなくなった。
技術は進歩し、魔法具が開発された。
モンスターの魔石を動力とし、さらに魔法を使う必要がなくなった。
「そして、人々は魔法を使う方法を忘れていったのです」
なるほど、平和な世では武器を持つ必要がない。人々は魔法という
「でも、モンスターの脅威がありますよね?」
「えぇ、モンスターの排除は誰がしていますか?」
「王国軍の兵士と、ハンターですかね」
「そう、魔法を捨てた人々は違う道でこの国を支えています」
各種族にはそれぞれ得意分野がある。
人族は想像力と創造力で、技術の発展に貢献している。
獣人族は自然との調和に優れ、畜産と農作物でこの国の食を支えている。
エルフ族は知能の高さから世界の様々な事象を研究し、学問として他種族の知識の向上に貢献している。
ドワーフ族はその手先の器用さで、建築や加工等、様々な物作りに貢献している。
「誰しも戦いたくはありません。命を落とす可能性が高いからです。ただ、誰かが戦わねばなりません」
僕は平和主義者だ。
ケンカもしたことがないし、口ゲンカすら嫌いだ。よく分かる。
「王達が懸念したのは、将来に渡る王国軍人の減少と能力の低下です。国が脅威に晒される回数は多くない。言い方を変えれば、平和ボケの状態が長く続いていくでしょう。そうすれば、いずれこの国は滅びます。それがモンスターの襲来によるものなのか、敵国の侵略によるものなのかは分かりませんが」
そうか……僕は漠然と異種族が手を取り合って平和に暮らせる世界を創ったつもりだった。
平和ボケか、確かにそうだ。今の日本が敵国に攻められたら戦える人いないもんな。
「そこで王達が設立したのが、
学長の講義は続く。
ハンターギルドで、魔法やスキルを扱える人々に仕事を与える。ハンターランクを付与することで競争を促し、その数を増やす。
戦闘技術訓練学校を置く事で、王国軍の将校や高ランクハンターへの憧れを持った人々が、魔法を覚える機会を与える。
結果として、ハンターの増加により王国周辺のモンスターは減り、モンスターの素材や魔石で国が豊かになった。
ハンター達が名を上げる事で王国軍人の危機感を煽り、訓練に身が入った事で軍の戦力が向上した。
訓練学校修了生達が王国軍、ハンターギルドの両面で活躍する。人々は更に憧れを強くし、魔法やスキルを扱う人が増えた。
「こうして、王達の懸念は薄れてきています」
凄いなAI……僕、そこまで考えてギルドと学校置いてないんだけど……。
「と、これがこの世界の歴史と魔法の関係です」
ギルドとこの学校の設立は王の指示なのか。
なら、学長はかなり偉い人なんだろうな。
「学長は国王軍の将校とかですか?」
「いいえ、私は軍人ではありません」
学長は笑顔を僕に向けて話を続けた。
「わたくしは、アレーゼル・シルフィード女王陛下の
想像を超えてきた……学長は王族らしい。
「では、これからが本番です。魔法の講義に入りましょう」
僕はこの世界の上澄みしか知らなかったんだな。深く知る必要があるみたいだ。
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