第6話 素材を引き取って貰おう
女性と並んでこんなに長く歩いたのは、小学校の遠足以来じゃないだろうか。
ララノアさんは明るい女性だ、僕は聞き手に回っている。
「魔法は小さい頃から得意だったんだ。イシュタル教が身近だったからね、だから初期クラスに聖職者を選んだんだ」
イシュタルとは、性愛と戦の女神だ。慈母龍イシュタリアの元ネタにした。
ただ、イシュタル教は僕が設定したわけじゃない。
「へぇ、なるほど。僕は装備がこれしか無かったから何となく戦士を選びましたね」
「そうだ、アタシ一緒に狩りに出るような仲間いないんだよね。ケントさぁ、また一緒に狩りしてくんない?」
これは願ってもない申し出だ。ソロの効率の悪さは嫌という程に感じた。
魔力の管理をしてくれる聖職者はパーティーに必須だろう。
「もちろんです、僕でよければいつでも。ただ、まだ属性を理解してなくて。明日から訓練学校に通うんです」
「そっか、またハンターギルドに伝言しといてよ。また待ち合わせして狩りに行こうね。アタシも魔法の練習しとこかな」
ララノアさんは満面の笑みを僕に向けた。
思わぬところでパーティーメンバーが出来た。しかも可愛らしい女性で、口下手な僕に気を使わずに喋ってくれる。
「歳もそんなに変わらないでしょ? 敬語なんていらないって。ララノアって呼んでよ!」
「えっ……あぁうん、分かったよ」
北門を潜り、ハンターギルドに着いた。
素材の売却は受付に声を掛ければ良い。
「やほー! リザちゃん、素材と魔石持ってきたよん」
黒髪メガネさんは上目で僕達を一瞥し、表情を変えずに口を開いた。
「あぁ、ララノアさん。こちらで受け付けます」
彼女はリザと言うらしい。
この鉄仮面女性にまでこの馴れ馴れしさ。凄いなこの子……。
黒髪メガネさん改め、リザさんの前にアイテムボックスからジャッカロープの素材と魔石を出した。
「えっ! 異空間生成じゃん! 良いなぁ、闇属性適性者なのか」
え、アイテムボックスって勝手に呼んでたけど、これ闇魔法なんだ……でも、ウィンドウと連動してるから別物のような気はするけど。
「あ、
「あぁ、そうなんだ」
へぇ、また教えてもらわないとな。
ララノアも背負ったリュックから素材を取り出し、カウンターに並べた。
「アタシの分は折半でよろしくね」
「え? いいの?」
「当たり前じゃん! 助けて貰ってるんだから」
牙や角、体皮や食肉、あとは魔石の質で価格が決まる。ギルドの仲介料と税金を10%づつ差し引いた額が収入だ。
「では、少々お待ちください」
20分程待っただろうか。
カウンターに呼ばれ、内訳と報酬を受け取った。
【ジャッカロープ】
・角 5万
・肉 7万
・魔石×2 20万
・計 32万
・仲介料 △3.2万
・税金 △3.2万
・合計 25.6万ダル
ジャッカロープはFランク、ララノアが提出したワイルドボアはEランクのモンスターだった。
訳せばただの野生のイノシシなんだけど。大きさは結構大きかったな。
ワイルドボアの素材は、肉の塊と魔石。
「はい、半分の20万ね」
合わせて45.6万ダルの収入だ。
「結構貰えるんだね……」
「うん、これで十分生活出来ちゃうよね。死にかけたけど」
良かった……何とか生きて行けそうだ。
「明日から訓練学校って言ったよね? アタシだいたい午前中に一回はここに寄るからさ。リザちゃんにでも伝言言付けといてね! またねー!」
ララノアは手を振りながら帰って行った。
確実にララノアの方がレベルが高い。しっかり勉強して足を引っ張らないようにしないと。
さて、お金は出来た。
この世界に来てからずっと同じ安ホテルに宿泊している。一泊3000ダルだが、一ヶ月泊まるとすれば9万ダルだ。
賃貸物件を借りた方が安いんだろうけど、契約金もあったりするだろう。何ヶ月もここに腰を据えるか分からない。
悩んだ挙句、いつもの安ホテルに泊まることにした。当面の生活費はあるし、懐が寂しくなったら狩りに行けばいい。
荷物は全てアイテムボックスに入っている。安いとはいえ部屋は汚い訳ではなく、シャワーも完備している。現実世界の安アパートと住み心地で言えば変わらない。にもかかわらず、毎日掃除にベッドメイクまでしてくれる。
これで月9万は安いのかもしれない。
それと服だ。
北の大通りから路地に入れば安い服屋はいくらでもある。僕は特に着るものに拘らない。
服と下着は上下一着づつ買い足したが、もう少し増やそう。ホテルの洗面所で服を洗ってアイテムボックスに入れておけば勝手に乾く。二着あれば良いけど、初日に着ていた麻の服が合わない。やっぱり肌触りは綿のシャツが良い。
今は暖かい時期だけど、朝晩は涼しくなってきた。季節で言えば夏の終わりだろうか、そろそろ長袖も買っておかないといけない。
下着と靴下、半袖シャツと長袖シャツ、スボンを数着づつ買い足してアイテムボックスに収納した。
本当に便利な能力だ、現実世界に戻った時が怖い程に。
もう夕方だ。
おじさんの串焼き屋の前を通ると、やっぱりその匂いに釣られて欲してしまう。秘伝のタレの味はこの店でしか味わえない。
いつもは少し並ぶが、列はない。
「おう、ケント! よく来てくれるな」
「今日は二本下さい!」
「はいよっ!」
もう名前を覚えられるほど毎日通っている。
「ほんと美味しいですね、この串焼き」
「そう言ってくれると嬉しいよ!」
今日仕留めたモンスターは肉を落とした。このタレで焼いたら美味しいんだろうな。
また頼んでもいいかもしれない。
「おじさん、もしモンスターの肉を持ってこれたら、このタレで焼いて貰えますか?」
「お前が? モンスターの肉を? ハハッ、そん時はいくらでも焼いてやるよ!」
「ホントですか? また持ってきますね!」
秘伝のタレで焼き上げた豚肉二本を平らげ、大満足でホテルに帰った。
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