第4話 学校へ行こう


 いつもの噴水広場まで戻り東へ進むと、大通り沿いに一際大きな石造りの建物が見えてきた。


 フライハイト戦闘技術訓練学校。

 

 鉄柵の門は開け放たれ、正面玄関まで石畳が伸びている。ハンターギルドより低い四階建ての建物だけど、規模が違う。正面から見てもかなり大きい建物で、奥行もある。


 玄関をくぐると、カウンターの向こうでは多くの職員が事務作業で忙しそうだ。


「あの、すみません」


 声を掛けるとエルフ族の女性が気付き、カウンター越しに腰掛けた。


「どのようなご要件でしょうか?」


 茶系ショートヘアのエルフ女性は、満面の笑みで僕の顔を覗き込んだ。直視されると緊張する……目線を少し右に逸らして答える。


「あの……魔法を学びたいんですが、まずは授業料を教えていただきたくて」

「かしこまりました! ハンターライセンスがあれば手続きが楽なんですけど、お持ちですか?」

「はい、あります」

「では、手続きの時に提出お願いしますね」


 そう言って、女性は正方形の板状の物をカウンターに置いた。


「では、こちらに手を置いていただけますか? 各属性の適性を確認させてください」


 笑顔が眩しい。

 黒髪メガネさんとは真逆な女性だ。


 赤、青、緑、黄、紫の五色が円形に配置された板だ。その真ん中に手のひらを置くと、適性のある属性の色が光るらしい。


 そっと手を置くと、五色全てが発光した。


「……えぇっ!? 全属性適性オールマイティ!?」


 女性の声で、玄関ホールの人達と全事務員が手を止めて僕に注目した。一瞬の静寂の後、ザワザワし始めた。


「えっと……珍しい事なんですか?」

「珍しいも何も……学長以外で初めて見ました。世界でも数えるくらいなんじゃないですかね……」


 一身に注目を浴びる中で、入学に際しての説明を受けた。

 一属性あたり10万ダル、複数属性受講する場合は机上学習分が値引きされる。一属性10万、四属性7万づつ、合計で38万ダルかかるらしい。


 とてもじゃないけど支払えない……だってホテル代もないんだから。


「実はお金が無くて……初期クラスの取得にはいくらかかりますか?」

「こちらで魔法の受講をされる方には、初期クラスのスキルブックであれば無料で差し上げています。あと、ハンターライセンスをお持ちなら分割払いも承ってますよ?」


 おぉ、初期クラスなら無料なのか。

 しかも分割払いまで。希望が見えてきた。


 ・戦士

 ・魔術士

 ・聖職者


 初期クラスとは全てのクラスの入口で、様々な派生クラスがある。

 例えば、戦士の派生クラスで取得した固有スキルは、魔術士にクラスチェンジした場合は全て消失する。

 だから、余程の事情がない限りクラスチェンジはしないのが普通だ。


 戦士はスキルセット次第で、アタッカーもタンクもこなす。

 魔術士は主に魔法アタッカーで、聖職者はヒーラーなどの補助だ。

 

 持っている武器と防具だと、戦士一択だ。

 全属性適性があるから魔術士の方がいいのかな……でも、装備を買うお金が無い。

 

「では、戦士でお願いします」


 そう伝えると、戦士のスキルブックを渡された。見た感じ、ただのくたびれた本だ。


【スキルブック 戦士】

 必要レベル : なし

 腕力 20%↗

 知力 20%↘

 俊敏 20%↘

 頑丈 20%↗


 スキルブックによりステータスの増減がかかる。それを事前に確認する事ができる。


「えっと……どうすればいいんですかこれ?」

「え? あぁ、スキルブックを胸に押し当ててください」


 本を胸に押し当てると、光を発した後に消えた。


「おぉ……消えるんだ」

「では手続きを致しますね。ハンターライセンスをお預かり致します」


 支払いは後日。

 ハンターライセンスを提示しないと仕事も出来ない。指名手配でもされようものなら日常生活もままならない。だから踏み倒す事は出来ない。


「それでは、明日の午後1時にお越しください。机上講習からです」


 最後に渾身の笑顔を受け取って鉄柵の門を後にした。

 いやぁ、可愛かった。あんなに真っ直ぐに笑顔を向けられると、勘違いしてしまう……。




 お腹が鳴って気が付いた、もうお昼時だ。

 そういえば朝食も食べていない。


 北の大通りから路地に入ると、庶民的な店が軒を連ねている。肉を焼く香ばしい匂いに誘われて、屋台のおじさんに声を掛けた。


「1本ください」

「はいよっ! いつもありがとな!」


 初日に見かけた露店の串焼きの肉は、家畜の豚の肉らしかった。モンスターの肉は貴重で、高級店でしか食べられないらしい。

 初日にハマって以来もう6本目だ。安くてボリューミー、今日の食事代が残っているのはこの店のおかげでもある。


 串を一本受け取り、周りの縁石に腰掛けた。

 スキルブックを取り込んだけど、何か変わった感じはない。


 ステータスを開いてみる。


 

【ケント Human Lv.1】


〚クラス 戦士 0/50〛⁡

 体力 : 400

 魔力 □□□□□□□□□□ 

 腕力 : 96 +20

 知力 : 64

 俊敏 : 64

 頑丈 : 96 +25


 物理攻撃力 : 128

 魔法攻撃力 : 64

 防御力   : 121


〚装備〛

 ブロードソード

 鉄の盾

 ワイルドボアの革鎧 


 

 クラスの取得でステータスが変化した。

 クラスの横の数字は熟練度だ、経験値とは別に上がっていく。

 

 腕力のプラスは武器の効果だ。そのままの数値が物理攻撃力になる。知力の数値が魔法攻撃力だ。

 頑丈の数値に防具の数値を足したものが防御力で、物理攻撃にも魔法攻撃にもこの防御力が適用される。

 


 次のページは。


〚アビリティ〛⁡

 全属性適性

 混成

 銘記

 

〚固有スキル〛⁡

〈アクティブスキル〉

 強撃

〈パッシブスキル〉

 攻撃力上昇 Lv.1


〚スキルセット〛⁡

 強撃

 ――

 ――

 ――

 物理攻撃力上昇 Lv.1



 アクティブスキルは自分のタイミングで発動するスキルで、パッシブスキルは自動発動スキルだ。


〚強撃〛⁡

 最大魔力の20%を消費し、物理攻撃力の150%のダメージを与える。


〚物理攻撃力上昇 Lv.1〛⁡

 常時、物理攻撃力を10%アップする。


 

 僕の物理攻撃力は、武器を含めて116。

 パッシブスキルでこの数値が10%アップし、スキル【強撃】を発動すると192まで上がる。


 計算式は簡単なものを採用した。

 攻撃力÷2-防御力÷4に少しの補正が入る。

 スキルを発動し、攻撃力200で防御力100の敵に攻撃したとして。


 200÷2-100÷4=75

 75前後がダメージとなる。


 

 とりあえず、モンスター退治でもしないとお金がない。

  

 よし……外に出るか。

 

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