第3話 ハンターギルドへ行こう
連合王国最大の国、デュオリス。
その中心にある噴水広場に着いた。ゲームを開始するといつもここから始まる。
モンスターを阻む城郭に囲まれた都市で、北の大門から伸びる大通りを南に歩けばこの噴水広場に着く。
ここから更に東西の門に伸びる大通りがあるが、南に伸びる通りは他の比にならない程に広い。なぜなら、二つの王城に伸びるメインストリートだからだ。
顔を上げると、天高く聳え立つ二つの王城が嫌でも目に入る。城の後方は、壁と広大な海に守られている。
向かって左側の城は、人族の王『クロディウス・ヒューメリア』の居城。
右側はエルフ族の女王『アレーゼル・シルフィード』の居城だ。
どちらか一方に権力が集中しない様に、二人の王がこの大国を治めている。
周辺には更に四つの国。五つの国に王が六人、『
ただ、GOD modeじゃない今行ったところで門前払いどころか、捕まるだろう。
北の大門へ向かって大通りを真っ直ぐに進む。
門に近付くにつれ、徐々に階層の高い建物が減る。が、大門の手前に五階建ての巨大な石造りの建物が現れた。
これが『
入口扉を押し開けると、屈強な男達が談笑している。女性も多くはないが、その輪に混ざっている。僕はなるべく目立たずに、コソコソと中に入った。
まずは
ライセンスがなければモンスターを狩猟してはいけないという訳ではないけど、ライセンスにはランクがあり、狩ったモンスターのランクやギルドへの貢献度等で決まる。
ライセンス所持者が討伐したモンスターの素材や魔石をハンターギルドが買取り、食肉、牙や爪、体皮などを各所に売り払う仲介をするのがギルドの主な仕事だ。
もちろん、ライセンスがなければ売却先を自分で探し、素材を売り払わないといけない。税金の手続きも必要だ。
そして何より、魔素溜まりから発生した『時空の裂け目』の中へは、ハンターギルドの依頼なしでは立ち入ることが許されていない。
受付カウンターには、金髪を自然に分けた若い女性と、黒髪メガネの女性が二メートル程距離を隔てて事務仕事に勤しんでいる。
後ろの方にも種族様々な男女が数人机に向かっているのが見える。
この世界で髪色をいじっているとは思わないけど、あの金髪女性は苦手なタイプだ……大学ですれ違う香水プンプンの派手な女子を思い出す。
黒髪メガネの女性は、中学時代の成績優秀な教師サイドの生真面目女子生徒を思い出す。
正直どちらも苦手なタイプだ……いや、正直に言うと、女性が苦手だ。
「すみません、ライセンスを取得したいのですが」
悩んだ挙句、黒髪の女性に声を掛けた。
女性は上目で僕を一瞥した後、綺麗な水晶の塊をカウンターに置いた。
「こちらに手のひらを置いて下さい」
AI音声の様な無機質な声でそう言う女性の指示に従い、透明な水晶の上に右手を置いた。
レベルを確認する宝珠だ。仕組みは知らないが、ステータスまでは測ることは出来ない。
黒髪メガネの女性の手が止まり、上目の視線が僕に突き刺さる。
「レベル1ですか」
虫ケラでも見るような目でそう言う女性に向かって、静かに頷いた。
僕の年齢でレベル1という事は、勉強も仕事も努力も何もしてこなかったという事だ。女性のこの軽蔑の目は、親のスネをかじって生きてきたニートに対するものだろう。
これは訳を言っても無駄だ。というより、良い言い訳が思いつかない。
「お名前は?」
「ケントです」
「少々お待ちください。番号でお呼び致します」
25番の札を受け取り、椅子に腰掛けた。
改めて周りを見渡すと、僕の様な華奢な男はいない。どう考えても場違いだ。
20分程待っただろうか。
「25番札でお待ちのレベル1の方、お待たせいたしました」
黒髪女性の声が響き渡った。
いや……レベルまで言うなよ。周りのハンター達の視線が痛い。クスクス笑われるならまだいいが、爆笑している一団もいる。
二度目のコールが掛かる前に急いでカウンターへ走る。
カードを受け取り券面を見ると、Eの文字が刻印されていた。これで晴れて、E級ライセンスの
この世界では、姓は拝領する物という考えの人が多いようだ。職人等は自ら名乗る事も多いけど、立身出世を目指す者は姓を敢えて持たない。
僕もこの世界で『タナカ』を名乗りたくはない。『ケント』はグローバルっぽくてまだ良かった。本当はキャラメイクと共に名前も考えていたんだけど。
「何かご質問はありますか?」
「いえ、今の所大丈夫です」
とりあえず分からない事があったら聞こう。
このカードには各個人の魔力が登録されている。さっきレベルを調べた時の宝珠で抽出した魔力だ。
このカードは身分証明としても役に立つ。魔力は指紋のように個人で違うからだ。
ここでの用事は終えた。
逃げるようにギルドを後にした。
僕は魔法の使い方を知らない。
学校で教えてもらわないと。
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