第2話 現実を受け入れよう


「何だこのモード……」


 とりあえずゲームを終了しよう、考えるのは後だ。しかし、何処を探してもゲーム終了の文字は無い。


「マジかよ……終われないじゃん」


 何が起きてるんだ。

 とりあえず落ち着こう。


 バグでも起きたのだろうか。だとしたら運営から何かしらアナウンスがあるだろう。

 サポートの文字もない、こちらから不具合を上げることも出来ない。


 ウィンドウを隈なく調べる。

 アイテム欄の中に武具があるけど僕は手ぶらだ。ブロードソードの文字をタップすると、突然手元に剣が出現した。


「うぉっ!」


 思わず声が出たが、咄嗟に剣を握った。

 アイテムボックスのたぐいだろう。


 お金は1万ダルある。

 ダルはこの世界の通貨だ。ドルっぽくしてみただけで特に意味は無い。分かり易い様に貨幣価値は日本円と変わらなく設定している。


 とにかく、何か動きがあるまでこの世界で過ごす他ない。クローズドβテスト中だ、不具合もあるだろう。まぁ、仕方のない事だ。



 ◇◇◇



 あれから安ホテルに二泊し、見慣れない天井を見つめている。カーテンを開けて朝日を浴び、一度伸びをした。

 目を覚ますと現実のワンルームマンションにいる事を期待したけど、状況は変わらない。

 

 相変わらずウィンドウにはゲーム終了の文字はなく、運営からのアナウンスもない。街の中に現実世界に通ずる場所があるのかもしれないと歩き回ったが、勿論そんな場所は無い。街の人達にも聞いてみたが、皆首を傾げるか変な目で見られるだけだった。

 この二日間の発見と言えば、この世界の料理が美味しいという事くらいだ。

 

 今日で三日目、これは本格的にゲーム内に閉じ込められたと見ていい。

 お金も今日の食事で底を突くだろう。宿代はもう無い。


 どうすればいい……。

 何かを達成しなければ出られないと言う事なんだろうか。とは言っても、ミッションも何も無い。思い当たる節と言えば……。


「マルコスを倒すって口走ってたな……」


 それが条件だとすればアウトだ。

 僕みたいな陰キャが、モンスターと仲良くなって大国にケンカを売ってしまうような陽キャに立ち向かうなんて有り得ない。

 そもそも、僕と共に戦ってくれる仲間が出来るとは思えない。


「独り言の多さが首を絞めたのかな……」


 兎に角だ、この世界で暮らしていく地盤を固めなくてはいけない。その為にはまずはお金儲けだ。


 ウィンドウを開き、初日に見たステータスを確認する。


 

【ケント Human Lv.1】


〚クラス ―― 〛

 体力 : 400/400

 魔力 □□□□□□□□□□

 腕力 : 80

 知力 : 80

 俊敏 : 80

 頑丈 : 80



 クラスとは、戦士や魔術士などの戦闘スタイルだ。

 体力と魔力はいわゆるHPとMP。魔力は数値化されず、10マスのゲージで表されている。

 腕力は武器と合わせて物理攻撃力に。

 知力は頭の良さという事ではなく、魔法具と合わせて魔法攻撃力に、俊敏と頑丈は素早さと防御力だ。


 各種族毎に『基礎値』を設定した。人族は最も平均的なステータスに設定している。


 エルフは知力が高く、腕力と頑丈が低い。

 ドワーフは腕力、頑丈が高く、知力と俊敏が低い。獣人はまちまちだが、基本的に俊敏が高い。

 幼少期から徐々に数値が上がり、15歳で基礎値の上限に達する。その数値を元に、レベルとクラスによって補正が掛かる仕組みだ。

 訓練や自己鍛錬、武具作成や建築、勉強や研究など、勤勉、努力などで多少はレベルが上がる。

 ただ、それで上がるのはレベル10まで。それ以上にレベルを上げる為には、クラスの取得とモンスターの討伐が必要だ。


 レベルアップする度に基礎値の10%づつ増えていく。人族で言えば、レベルが1上がる度にHPは40づつ、他は8づつ増える。

 


 次のページは……っと。


 

【ケント Human Lv.1】

 

〚アビリティ〛⁡

 全属性適性

 混成

 銘記


〚固有スキル〛⁡

 ――


〚スキルセット〛⁡

 ――

 ――

 ――

 ――

 ――


 

 アビリティの『全属性適性』の文字。

 アビリティは各個体が生まれ持った能力だ。

 

 この世界には魔法が存在する。

 火、水、風、光、闇の五属性を設定した。どうやら僕は全ての属性を扱う適性があるらしい。

 魔法の概念や発動方法などの細かい設定はしていない。だから僕は魔法の使い方を知らない。


 で、混成。

 なんだこれ。


 

〚混成〛⁡

 いくつか混ぜ合わせて作ること。


 

 あ……スムージーの事かなこれ。

 って事は、全属性適性ってもしかして、入れた果物類の色って事かな……。

 赤いリンゴ、緑のキウイ、黄色いバナナ、紫のベリー。

 水属性は……あぁ、水と氷入れたな。


 全属性適性は嬉しい。

 でも混成って何に使うんだろう。  


 

 後は、銘記。

 めいき……? 何だろうか、これもタップしてみる。


 

〚銘記〛⁡

 心に深く刻みつけて忘れないこと。


 

 これも意味だけだ。

 あ、まさかマルコス・フェルトマンのフルネームを忘れないって事かな。

 いや、確かにそう言ったけど……何のアビリティだよ。


 固有スキルは、その名の通りクラス固有のスキルだ、クラスチェンジすると上書きされて消える。

 スキルセットは、各職業の固有スキルをセットして扱える様にする。今の所は五つだが、レベルアップする事で枠が増える。

 


 早くこの世界から出たいのに、チート能力も無いのか。GOD PLAYER modeとは……?

 あるとすれば全属性適性だけだ。


 武器も防具も最低限はアイテムボックスに入っている。ポーションやエーテルもあった。


 ちまちま働いていてはこの世界から出る糸口は掴めないだろう。お金稼ぎの方法は一つしかない。気が進まないけど……。


「とりあえず、狩猟者協同組合ハンターギルドに行ってみるか……」


 頭には金属プレートが付いた額当てを結び、革製の鎧と籠手こて、脛当てを装備した。全てアイテムボックスに入っていた初期装備だ。

 

 二日間お世話になった安ホテルをチェックアウトし、街の中心部の噴水広場に向けて歩き始めた。

 

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