世界の創造主が地上に降り立ったら帰れなくなりました
久悟
第1話 世界を創造しよう
ここは母なる大陸ティエラ。
無限に広がるかのような広大な自然は、長い年月をかけて一匹のドラゴンを産んだ。
イシュタリアから漏れ出た魔素が、大陸を吹く風に攪拌され世界を覆い尽くす。濃度を増した魔素はやがて形を造り、モンスターとなった。
中には知能を持った個体が現れ、彼等は種族となり争いを始めた。
人族、獣人族、エルフ族、ドワーフ族。様々な種族が国を形成し、争いは激化した。
そこでイシュタリアは立ち上がる。
自らが先頭に立ってモンスターを率い、彼等の前に立ちはだかった。各種族は突如訪れた脅威に対抗すべく、互いに手を取ってこれを退けた。
それからおよそ二百年。
全ての種族が共存する豊かな国、セイスレイエス連合王国。
変わらず世界は魔素に溢れ、人々の生活を脅かすモンスターの活動も活発になっている。それぞれの種族は自らの長所を生かし、共にこの脅威を退ける。
ここは連合王国の中心国であるデュオリス。
二人の王の善政は周りの四ヵ国をも豊かにし、長きに渡る平和を築いていた。
「っていう設定なんだ」
とある商業施設のカフェでアイスティーを飲みながら、数少ない友人との時間を過ごしている。
「へぇ……また中学生が考えた様な設定だな。で? ワールド……なんだっけ」
「ワールドクリエイションだよ。当選して良かった」
VRゲーム『
僕はその世界の創造主、言わば神だ。
「で、どんなゲームなんだ?」
「その名の通り世界の創造だよ。かなり細かい設定が出来るから面白いんだ」
「それで、何すんの?」
「ん? 基本的には見てるだけだけど」
「……は? 面白いのかそれ……?」
ワールドクリエイションの楽しみ方の一つが、創造した世界を見回る事。
自在に世界を飛び回り、世界の成り行きを楽しむ『GOD mode』が僕のお気に入りだ。
「キャラメイクして自分の分身を作って遊ぶ『PLAYER mode』もあるんだけどね」
「いや、絶対メインそっちだろ」
「んー、僕は介入せずに彼らがどういう風に世界を生きていくのかを見たいんだよなぁ。ただね……」
世界の成り立ち、国や都市の名前、存在する種族や時代背景などを設定すれば、後はAIが世界観に合わせて時代を進行してくれる。
僕はこの世界に生まれる人々には関与しない事にした。全てAIが生み出した人々だ。僕が作った世界『ティエラ』では、魔法の概念を入れている。その道の天才が出てくるのは当然だ。その天才の一人が危険な男だった。
男の名は『マルコス・フェルトマン』。
メキメキと力を付け、あろう事かモンスターを従え始めた。
「へぇ、面白いじゃん。そろそろ神であるお前の出番だろ」
「まぁ……そうか。そろそろ違う側面からゲームを楽しんでみるのもアリなのかな」
明日は一日家に篭もるつもりだ。
スーパーで買い出しをして家路に着いた。果物類がおつとめ品で安かったから、明日の朝食はスムージーで決まりだ。
◇◇◇
次の日の朝、カーテンを開いて陽の光を部屋に入れる。
田舎から都会の大学に進学し、ワンルームに一人暮らし。
夏休み中で今日は8月10日、盆前だけど実家に帰る予定はない。バイトをするくらいなら勉強しろという事で、親からは十分な仕送りを貰っている。友達も少なく、やる事と言えば勉強とゲームくらいだ。
ここ十年程でVR技術は驚く程の進化を遂げた。大きなグラスを着ける必要は無い。カチューシャの様な器具を頭に着け、意識をそのままVR世界に投影する。ベッドに寝たままでいい。
「さて、キャラメイクだな。これまた大仕事だ」
僕はかなりこだわるタイプだ。世界の設定もかなり細部までこだわった。
昔から、キャラメイクだけで一日を費やす事もザラにあった。
僕は華奢だ。
身長は170cm程だけど、細い。筋肉質な体型に憧れはある、でも運動が苦手だ。せめてゲームの中だけでもカッコイイ身体でいたい。
カチューシャの様な器具を頭頂部からモミアゲに沿って装着した。
「あぁ、そうだ。スムージー作らないと」
氷を入れたミキサーに、おつとめ品のリンゴ、キウイ、バナナをぶち込んだ。そうだ、冷凍ミックスベリーも入れてみよう。
少しの水を入れ、スイッチを入れた。
出来上がったスムージーを飲み干し、ベッドに寝転んだ。
「よし、平和を脅かすマルコスを倒さないとな」
あ、マルコスのフルネームってなんだっけ。
確かスマホのメモに残してたような……。
「あった。そうそう『マルコス・アウスリゴル・フェルトマン』ね。よし、もう忘れないぞ」
こめかみ辺りのボタンを長押して電源を立ち上げた。目の前に現れたウィンドウには『World creation』のロゴ。
その下にある『PLAYER mode』の文字をタップすると、一瞬激しいノイズが走った。
「えっ……?」
と声を上げた瞬間、僕はティエラの世界に居た。こだわりたかったキャラメイクをすっ飛ばして、街の中心にある噴水前に立っている。
人や獣人、エルフやドワーフ、様々な種族が大通りを行き交っている。
「あれ、間違えてGOD modeタップしたかな。まぁ、少し飛んで回るか」
世界を見て回りながら、自分のキャラクターについて考えを纏めよう。
そう思い直し、空中に飛び立……つ事が出来なかった。
あれ、何でだ……?
その場でジャンプを繰り返していると、周りの人々の視線が僕に集まった。
首を傾げて冷たい目で見ている大人達や、指を差して笑っている子供達。
GOD modeはその名の通り、神の様にこの世界を見て回るモードだ。世界の人々から視認される事は無い。
視線を落とし、自分の腕や身体に目を移した。
麻の様な質感のシャツに
「あれ……何が起きてる……?」
奇怪な行動に独り言。僕に対する人々の視線は逸れない。
耐えきれず、逃げる様に走り去った。
噴水から四方向に伸びる大通りの一本を走り抜け、人ゴミの中に紛れる。
大通りの端に寄り路地に入ると、屋台が目に入った。串に刺した肉を火で炙っている。調味料が焦げた香ばしい匂いが食欲をそそる。
あれ……匂い?
匂いなんてする訳がない。何せこれはゲームだ。
人混みを避ける為に細い路地に入る。
建物の合間の薄暗い場所でウィンドウを開いた。
「あれ、いつもと画面が違うな」
やっぱりGOD modeではないようだ。
【ケント Human Lv.1】
〚クラス ―― 〛
体力 : 400/400
魔力 □□□□□□□□□□
腕力 : 80
知力 : 80
俊敏 : 80
頑丈 : 80
〚アビリティ〛
全属性適性
混成
銘記
〚固有スキル〛
――
〚スキルセット〛
――
――
――
――
――
僕のステータスだろう。
ウィンドウの左上に目を移す。
「GOD PLAYER mode……?」
今まで見た事のないモード名が目に飛び込んできた。
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