第5話 解体してもらおう


「こちらです、どうぞ」


 五階建てのギルドの一階受付から裏口へ移動して外へ出た。複数施設がある中で、少し離れた平屋の中へ案内された。


 黒髪メガネさんはポケットからハンカチを出し、口と鼻を塞いだ。頑丈な扉を開け中に入った瞬間、その理由を理解した。


「なるほど、獣の臭いがしますね。ここが解体所ですか」


 血なまぐさい独特な臭いが漂っている。しかし、換気がなされているんだろう、我慢できない程ではない。


「おう、モンスターはどこだ? 外なら手伝うぞ」


 ドワーフ族の背の低い男性が声を掛けてきた。黒髪メガネさんはハンカチで顔半分を覆ったまま、僕に振り返った。


「では、あなたの言うモンスターを出していただけますか?」

「えっと、ここに出したら良いんですかね?」


 特に台座の様なものは無い。

 天井から何か器具がぶら下がっている。おそらくあれで吊るして移動させるんだろう。


 アイテムボックスから大鹿を出した。


「「はぁ!?」」

 

 二人には床面に突然大鹿が出現したように見えたんだろう、目を剥いて驚いている。


「これ……ブレードエルクですよね……? Cランクモンスターですよこれ……お一人で仕留めてきたんですか?」

「はい、仲間もいないので。これCランクだったんですね」

「あなた、レベル1でしたよね……?」


 それを聞いて解体業の男性が更に声を上げて驚いた。


「その歳でレベル1って……今までどんな生き方してきたんだよ。そんな事よりよぉ……レベル1のハンターがなんで異空間生成なんて使えんだよ……闇の上位魔法だぞ……?」


 アイテムボックスって勝手に呼んでたけど、これ闇魔法なんだ……でも、ウィンドウと連動してるから別物のような気はするけど。


「まぁ……モンスターを狩るのは初めてですが、色々訓練を受けてますから……」

「だから何で訓練受けててレベル1なんだって」


 小さい頃からゲームだけは人一倍してきた。まぁ、訓練には違いない。ここは一応ゲーム内だ。


 黒髪メガネさんは、ハンカチで鼻口を覆う事も忘れて呆然としている。

 ドワーフの男性も気を取り直して仕事をしてくれるようだ。


「まぁ……とりあえず解体させてもらうわ。こんなに綺麗な状態のブレードエルク初めて見たな。こいつの一枚皮なんてなかなかお目にかかれないぞ」


 普通は数人で狩り、その場で部位ごとに分けて持ち帰る為、皮は途切れ途切れになるらしい。一人で狩った場合は、一番高く売れる角と魔石を取り出して、後は諦めざるを得ないようだ。

 確かにこんなに大きな鹿をそのまま持ち帰るのは大変だろう。


 角、体皮、食肉、あとは魔石の質と大きさで価格が決まる。ギルドの仲介料と税金を10%づつ差し引いた額が収入だ。


「では、また明日お越しください。報酬をお渡ししますので」


 黒髪メガネさんはいつもの無表情でそう言った。


「え……明日ですか!?」


 困る。

 だって、泊まるお金が無いのだから。


「すみません……今日の宿代も無いんです……どうにかなりませんか?」

「Cランクを一人で仕留める人が何で……分かりました、私がお貸ししましょう」


 メガネさんは呆れ顔で僕を見たが、ため息混じりに財布から1万ダル札を出して渡してくれた。


「ありがとうございます! この御恩は忘れません!」

「まぁ、明日には確実にお金が入りますもんね。借り逃げは無いでしょうから構いませんよ」


 少し口元を緩めてそう言った。

 僕は恭しく両手で札を受け取り、何度も礼をしてギルドを後にした。



 まだ昼過ぎだ。

 お金の問題は解決だ、とりあえずおやつにしよう。路地に入るとカフェがある。


 アイスティーを受け取り、オープンテラスの席に座った。

 とりあえずステータスを確認してみよう。



【ケント Human Lv.6】


 体力 : 12000/12000

 魔力 : 9000/9000

 腕力 : 1500

 知力 : 1200

 俊敏 : 1200

 頑丈 : 1350


 〈アビリティ〉

   全属性適性


 〈スキル〉

   念思



 おぉ……倒したの一体なのにレベルが5も上がってる。さすがはCランクのモンスターだ。


 やっぱりレベル1上がるごとに初期値の十分の一づつ上がっている。僕の1レベルアップは常人の10レベルアップに相当する。

 今の僕は、常人で言うところのレベル150の状態だ。


 チートだなこれは。

 でも、早くこの世界から出ないといけない身としてはありがたい。どうすればいいかは分からないけど、とりあえずの標的はマルコスに設定するしかない。

 自分が口走った事以外に手掛かりが何もないからだ。


 レベルはトントン拍子に上がるだろう。

 問題は技術だ。適性はあるらしいが魔法が使えない。剣も持ち方すら知らない。


 教わると言えば学校だ。

 この国には魔法と剣術の学校がある。


 いや、学校と言うよりは教習所に近いだろうか。数年単位で通う訳ではなく、お金を支払って各属性ごとに教えを受ける形だ。


 早速入学手続きをしに行こう。

 アイスティーを飲み干し、席を立った。

 

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世界の創造主が地上に降り立ったら帰れなくなりました ~仕方がないのでチート級ステータスで無双します~ 久悟 @hisago0625

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