第4話 モンスターを退治しよう


 北の大通りから路地に入ると、庶民的な店が軒を連ねている。肉を焼く香ばしい匂いに誘われて、屋台のおじさんに声を掛けた。


「1本ください」

「はいよっ! またよろしくな!」


 初日に見かけた露店の串焼きの肉は、下位ランクのモンスター、ワイルドボアの肉らしかった。モンスターには間違いないが、ほとんど獣の扱いらしい。 

 臭みもなく、初日にハマって以来もう6本目だ。安くてボリューミー、今日の食事代が残っているのはこの店のおかげでもある。

 

 腹ごしらえを終え、北門を抜けて外に出た。


 さて、どこに何がいるのかも分からない。

 上位モンスターの種類等は設定したが、他のモンスターはAIによって生み出されている為、どんなモンスターがいるのかも知らない。


 とりあえず、モンスターがいそうな所と言えば山だろう。周りを見渡し、誰も居ないことを確かめたうえで北の方向へ飛び立った。

 初日に注目を浴びてしまった。浮遊の術はあるけど、Eランクのハンターが扱う術じゃない。

 浮遊の方法は、GOD modeで飛び回る時と同じだった。どういう原理なのかは分からない。

 

 木々が増えたと思ってはいたけど、どうやら既に山の上を飛んでいるようだ。ふもとを超え、中腹辺りだろう。

 地上に降り立った。


 早速見た事のないサイズの鹿がいる。四足歩行にもかかわらず、角を引いても二メートル近くはあるだろうか。

 平たい刃物の様に鋭利な角はいくつにも分岐し、かなり立派だ。白っぽい体毛が神々しい。


「これ、絶対Eランクじゃないよな……」


 目の前の鹿は頭を下げてお辞儀の様な姿勢を取った。


 聞いたことがある、これは挨拶じゃない。

 お辞儀のような姿勢は鹿の威嚇行動だ。大きな鹿は、僕を敵と見なしたらしい。


 腰に携えたブロードソードを抜いた。

 もちろん持ち方なんて知らない。右手で持って正面に構える。


「ピィーッ!」

 

 鹿が首を上に振って鳴き声を上げたかと思えば、突然風の刃が飛んできた。驚きはしたが、それを目で追ったままスっと避ける。

 立て続けに風の刃を三度避けたところでふと思った。


 この動きは僕には有り得ない。ドッジボールの球すら避けられた事がないのに。

 この世界に閉じ込められてからも、何処かでこれはゲームだという思いがあった。ただ、僕はこの世界で食事もするし眠りもする。五感もしっかりと感じる。僕はこの世界で確かに生きているんだ。


 この動きは高いステータスに依るものだろう。僕はかなりのスピードでここまで飛んできた。

 思えば手に持ったブロードソードもおかしい。もちろん持った事はないが、鋼鉄製の剣を子供のプラスチックバットの様に振り回せるなんて有り得ない。


 そんな事を考えながら鹿の風魔法を避け続けている。そもそも、風の刃が視認できる時点で僕の理解の範疇を超えている。


「多分、僕は強いんだろうな」


 反撃だ。

 地面を強く蹴ると、軽い身体は一直線に鹿へと向けて飛んだ。そのスピードで剣を振ると、鹿の首は呆気なく飛んだ。


「僕がモンスターを……信じられないな……」


 鹿の胴体が音を立てて倒れた。

 立派な角が付いた頭も近くに転がっている。


 アイテムボックスについてもこの二日間で理解が深まった。

 出し入れするのにタップは必要ない。必要なのは「目視」と「意思」だ。


 ウィンドウのアイテム一覧の文字を目視すると濃く浮かび上がり、それを取り出すという意思を示すと出したい所に現れる。アイテムボックスに入れる時はその逆だ。


 足元に転がる巨体を目視し、アイテムボックスに収納する意志を示すと、鹿の死骸は角付きの頭諸共消えた。


 ウィンドウのアイテム欄には『ブレードエルク』の表示が追加された。さっきの鹿の名前だろう。


 街に戻ろう。

 空に飛び立ち、一直線にデュオリスを目指す。


 

 かなり手前で地に降り、歩いて北門を目指す。

 門衛にライセンスを提示して門をくぐり、ハンターギルドの入口を押し開けた。


 とりあえず解体業者への紹介は、受付に声を掛ければ良い。案内してくれるはずだ。


「あの、モンスターを狩ってきたので解体をお願いしたいのですが」


 黒髪メガネの女性は上目で僕を一瞥し、表情を変えずに口を開いた。


「狩ってこられたモンスターは外ですか?」

「あぁ……いや、どう言えば良いかな……特殊な方法で保管してます」


 女性は僕の前で初めて表情を変えた。

 それは凄く不快そうな表情だった。


「仰る意味が分かりませんが」

「んー、解体業者の所まで案内してもらえれば出せるんですけど、流石にここでは……」


 黒髪メガネさんは首を傾げて立ち上がり、明らかに疑った表情で歩を進めた。

 話は通じていないだろうけど、とりあえず案内はしてもらえる様だ。後について歩く。

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