第2話 水攻め
今日は籠城初日、事前に準備した物はなく、ただトランペットで籠城し、充実した時間を過ごすことを願っている。だが朝起きると気づいたことがある。
それはお手洗いをどうするかだ。籠城するということは親が家にいる限り自室から出れないということだ。今の段階では、まだ籠城していることがバレていないから部屋から出ることは簡単だ。しかし、籠城がバレてしまえば部屋を出たと同時にゲームを確保される、または親に尋問を受けてしまう。つまり親がいない時間をいかに作れるかに勝敗はかかっている。
ゲームをしながら作戦を考えていると親が外出した。時刻が十時ということから、恐らくスーパーであると考えられる。その結果四十五分程度の猶予が誕生した。その間俺は考える。
まず親の休日の起床時間は九時、就寝時間は二十三時。つまり十四時間の外室不可時間がある。ただ幸運なことに、現在父は同僚と旅行でゴールデンウィーク中は家を開ける。だから母のタイムスケジュールさえ管理すれば良い。家では十八時に夕食を食べる。そして母は一時間以内に風呂に入る。つまり十九時ごろにトイレへ行くことができる。
一旦整理する。今俺がトイレに行ける時間帯は二十三時から九時と十九時。理想は十三時ごろに一度行ければ嬉しい。その時間帯に行くためには母を外出させるか手を離せない状態にする必要がある。俺はたくさん悩んだ。その結果一つの打開策を見つけた。それは籠城がバレていない今のうちに、動画配信サービスでドラマ等にハマらせることだ。
この作戦のいいところは二つある。一つ目は、ドラマ等にハマれば五日間ずっと同じ時間帯にトイレに行けるところだ。母は十二時半ごろに昼食を摂る。その時間は基本的に雑誌を読んでいるが、その時間にドラマ等を見せれば、周りのことを気にしなくなる。つまり母が家にいながらもトイレに行くことができる。
二つ目は母から好感を持たれるということだ。言い換えれば悪い印象を抱かれないということでもある。例えば「有名人が近くに来た」という嘘をついた場合、それが嘘と露呈すれば母から怒りを買ってしまう。
以上の二点より、俺はドラマ等を母に勧めることにした。
昼食前、
「母さん、このドラマ見てみて!」
俺は無邪気に話しかける。
「どうしたの?そんなに面白いの?」
母は少し困惑しながら尋ねる。
「うん、今途中まで見てるけどめちゃくちゃ面白いよ。あと母さんが普段から雑誌読んでるけど、毎日同じじゃいつか飽きちゃうかなぁと思って。」
俺は本音と事実を織り交ぜながら話す。
すると母が、
「そんなに言うなら明日から見てみるね。」
そう言ってくれた。
翌日試しに母がドラマを見ている間に、こっそりとトイレに行ったところ、母からの視線はなく成功という結果で終わった。
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