第18話 怪奇! オカルト倶楽部!
怪奇オカルト倶楽部。それは、七海原高校に存在する伝説のクラブ。
活動内容はハチャメチャなのに部活動費が出ている、なぜか校長先生が直々に顧問を勤めている、そのくせ部室はB棟の4階でカビ臭い。など、もはやクラブそのものがオカルトと化している。
そんな部活に入ってるんだから、部員も相当なものだった。何かといえば、基本的に学年で最下位を取るような奴は、引き寄せられるように在籍していた。
「一学年最下位!
「二学年最下位!
「三学年最下位!
3人は今日も今日とてクラスでは鳴りを潜め、放課後になると水を得た魚を食う鳥のように、部室でのオカルト談議に花を咲かせていた。
「なぁ、『パパラッチ・パンチパレード社』 って知ってるか?」
鷹が口を開いた。『知ってるか?』 と問われたので、孔雀は「知りません」 と返す。羽鴉は無言のまま、手元のメモをメガネで追っていた。
「最近ウワサだぜ。何でも電話一本で依頼を受けれて、不思議なことに翌日にゃ金が届くんだ。ヤベェだろ。ウチのクラスにやったって奴がいたんだけど、部活の朝練前にポスト見たら、もうとっくにカネが入ってたらしい」
「すごい…僕もやってみようかな」
「鷹、それは」
羽鴉が目の動きだけで鷹を見た。「どんな依頼が来て、いくらぐらいの金が貰えるんだ?」 肩は「へい」 と舎弟のような口調で返事し、「羽鴉さんのゴッツい掘り下げには頭が下がります」 と言って、実際にそのボウズ頭をごっつ下げた。
「皮肉はよせ。癖なんだよ。日夜オカルトと戦うためには、真偽を見極める必要も有るワケだからさ。その為には掘り下げってどうしても必要じゃん? 仕方ないじゃん?」
「分かってますって。まぁ聞いてください。依頼は受ける人間によってマチマチみたいで、クラスの奴は箱詰め作業って言ってました。そんで時給はピタリ1000円やったそうです」
「うーん、適正ですね。普通の即日バイトみたいです」
「どうして依頼がマチマチだって分かる? ソイツしか受けた人間いないんだろ? それに箱詰めって何を詰めたんだ? ドコで?」
「やーかーらー、最近のウワサなんですって。そのウワサを合算するとバイト内容はマチマチってことです。箱詰めは、詳しいことは分からんです。オイも盗み聞きしただけなんで」
「ふぅん」 羽鴉は口先だけで返事すると、再び読んでいたメモに目を下ろした。「部長、あんまり魅かれてないみたいですね」「部長は生粋のオカルトマニアだからな。多分ゴーストとか UFOみたいな未確認感が無いとダメなんやろ」 羽鴉は独特の、標準語と方言が入り混じったような口調で言った。
「前の『殺人ビデオを生業にする撮影スタジオ』 やら『地下で行われる非合法ファイトクラブ』 について調査しようって案、最後にゃ却下されたやろ? 人間には興味ないんよ」
「でも、次の日突然おカネが届くってのは、未確認感あると思います」
「じゃろ? それにな、ウワサでは依頼の方もキナ臭いらしくてな。4時間所定の場所に立っとけやら、とある荷物を駅から駅に運べやら、挙句の果てに…おぉ! こっからは恐ろしくて言えん!」
羽鴉が、己の身を抱きしめて震えた! 「先輩、大丈夫ですか!」「はぁん! 孔雀くぅん、あっためてぇん」「ホントに大丈夫ですか?」 『ガタッ』 その時、羽鴉が立ち上がった。『流石にキモすぎたか?』 鷹は身構える。
「ふふ、諸君。そうやって遊んでられるのも今のウチだぞ」
『キタ…!』 2人は思った。羽鴉が『遊んでいられるのも今のウチ』 だなんてセリフを吐くときは、確実に次のターゲットが決まった時だからだ。羽鴉はメガネをギラっと光で反射させ、持っていたメモをぺぇん!と古机に叩きつけた!
「『十号公園に潜む謎の河童!』 それから『デッシャーソープ駅に存在する幽霊喫茶店!』。今月はこの2つを重点的に調査する!」
「河童やら幽霊やら…な? 言った通りやろ?」
「ですね」
孔雀は頷きながら言った。しかし、なぜだか首が降られるたびに、顔色が悪くなっていった。
「でも十号公園って、『子供がマンションから紙クズ投げつけられた』 とか…そ、それに。変な女の人がたまに現れるとか」
「変な女の人?」
「何か、まるで地獄の唸りのような声で喋るんですって。僕の叔父さんがジョギング中に会ったらしいんですけど、ビックリしてすぐ逃げたって」
「前日にカラオケでも行ってたんちゃう? んで喉ガラガラ」
「いや、河童の仲間かも」
「そんなバカな!」
「てか、治安の悪さで行ったらデッシャーソープも負けてないぜ」 鷹はなぜか誇りっぽく腕を組んだ。鷹はデッシャーソープ駅の近くに住んでいるので、地元の荒み具合を自慢したい年ごろなのかもしれない。
「俺の学年にさ。2年ね。有名なスケバンちゃんがいるだろ? それがこの前駅でビラ配りしててさ」
「わぁ、ちゃんと働いてるんだ。偉いなぁ」
「そうそう。そんで感心しながら見よったら、なんとそんなスケバンに絡んでいく酔っぱらいがおったんや!」
「へぇ、それはトンデモナイな」 羽鴉はクイッと、メガネを上げた。「まぁ、確かにあの辺りは治安が悪い。俺も一度、5歳くらいの子がタバコ吸ってるのを見た」
「激ヤバですね」
「うぅん、そう考えると…」
羽鴉は自分の叩きつけたメモを見返した。「調査するってことは、そうゆう人たちにも聞き込みしなきゃイケナイってことだろ? 俺は部長という立場上、君たちを危険に晒すワケにはいかないんだよなぁ」「部長…正直に、臆したって言ってください」「ガウッ!」 部長が吠えた!
「あの辺りは『チルトットグループ』 の縄張りだと聞く…鷹の言ってたパパラッチなんたらってのも、そこのフロント企業とかじゃないか?」
「うげ、無くはないですね。やっぱ得体の知れないバイトはダメ」
「そんな危険地帯に君たちを連れていくことなど…俺にぁできなァい!!」
羽鴉は『ドン!』 手を机に叩き落とした。かなり演技くさいし、孔雀と鷹は今までに何回も見ていた。「うぅ、分かってくれ皆の衆」「へいへい」「へーい」 この寸劇に対しては、返事さえ貴重に思える。
「ってことは何ですか? またAさんの大学に遊び行くんですか?」
「でもAさんの研究室って、何かスゴい発見して忙しいんじゃ…」
「あぁ、大丈夫だ。手柄は全部教授にパクられて、今やとってもヒマらしい。ここはオカルトクラブ後輩一団として、励ましに行くべきだろう」
3人はお互いの顔を見て「うん」 頷くと、『バッ!』 円陣を組んで手を出し、重ね合わせた!
「レッツゴー! オ・カ・ル・ト・バンザーーイ!」
この円陣こそ、オカルトクラブに3人しか人がいない所以だろう。本人たちは気づいていないが、グラウンドまでバッチリ聞こえている。『お、もうそんな時間か』 外にいた野球部部長が思った。
「じゃ、ラーメン行きますか」「そうやね。あーあ、ハラ減った」「やはり俺たちほど知的にもなると、会話だけでお腹が空くね」 窓を閉めたり、帰る準備をする。
「あ、そういえば」
最後に部室を出て鍵をかけた時、孔雀が口を開いた。
「さっき話題に出てたスケバンの人。ここに来る途中見たんですけど、男の人と校門で喋ってました」
「むむ、まさか彼ピッピ?」
「カーッ! ビラ配ってて偉いなって思った矢先にコレ!」
孔雀、鷹、羽鴉。3人はガールフレンドという存在の超常性に頭を悩ませながら、とぼとぼラーメンへと羽ばたいていった。
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