第14話 広がり行くウワサ


「あー、すいません。ちょっと見てないですねぇ」

「そうですか。いやぁ、こちらこそ。失礼しました!」


 「あのぉ、カードのチャージって」「あぁ、はいはい」 駅員は矢継ぎ早に話しかけられると、次の対応へと飛び去っていった。

 「ふぅ、収穫なしか」 俺はカバンを肩に下げ直すと、中から財布を取り出した。ジュースでも飲もうかと思ってね。『ボスはどうかな。つっても毎時間帯こんな人だかりじゃあ、見えるモンも見えねぇだろ』 雑踏は、増減なくヒシめいている。やんなっちまうよ。


「オ・レ・ン・ジ・ジュース。柑橘系は染みるからなぁ」


 俺は自販機の前に立つと、大体『100円』 の飲料水の中から、オレンジジュースを買った。その場所は壁一面に自動販売機が並べられ、もう自販機そのものが壁ってカンジだった。あと多分『未許可』 の屋台が出ている。「お~い、おでん食わねぇか」「いらんです。が、おっちゃん、昨日もココで屋台やってた?」「んや、昨日は年で唯一の休みや」『タイミング悪ぃ…』


「くくく、このままじゃボスにどやされるぜ。俺なりに責任感じてるから、許してほしいもんだがね」


 何と言っても、カネを失くしたのは俺だ。たまたま同じような被害が出てたから『ウヤムヤ』 扱いになっているけど、このまま調査が進んでいけば、俺個人に火の矢が向いたっておかしくない。『だからってあまりに進まないと、普通に俺がブン殴られるかも』 つまり、加減が大事。


『ぽルルルル』 そんなコト考えていると、ケータイが震えた。「ん、ハジメか」 高校の時の友達で、一緒にヤンチャやってた仲間だ。昔はワルかったんだぜ、俺。くくく。


「あい、もしもし。どったのこんな平日昼間に」

「あぁ、ターザン? いやね。ちょっと相談っていうかさ」


 ハジメは電話越しなのに、好きな人を言い合いっこする女の子みたく声を潜めて言った。


「パパラッチ・パンチパレード社ってさ。昨日聞いてきただろ? お前」

「ん。あぁ、聞いた聞いた」

「それ、何なんだよ」

「『何なんだよ』って、何なんだよ」


 俺は『カキリっ』 ペットボトルのふたを開けると、一発クイッっと飲んだ。


「昔メンツの間でさ、今話題だぜ? 電話一本で軽めの依頼を受けれて、どんな仕組みか次の日カネが届く。短期バイトの究極みてぇなモンだってさ。オレァ怪しいから手ぇつけてねぇケド…シャンとした会社なのか?」

「へっ、シャンなんてもんか! ジャンだぜ、オジャン」

「?」

「俺の信頼がオジャンってこと! ロクでもネェ。得体の知れない会社なんだよ!」

「お、おう。そうか。そこまで言うんなら、そうなんだろうな」


 「いいか! 得体の知れないからな!」 俺はクチを酸っぱくして(オレンジジュースのせいかも) 注意喚起すると、そのまま電話を切った。「次の日カネが届くだぁ? そのカネってば、俺のカネでしょうが!」 頭に血が昇る! けど、ふと妙案。


「次の日カネが届く…? 誰が届けてんだ、その金」


 『ピピーン!』 もし頭に電球が生えていたなら、フィラメントがブチ切れること請け合い! 『俺たちで依頼を受けてみて、カネを届けに来た奴をトッ捕まえれば、それで解決するんじゃないか?』 今日の俺は冴えていた。


「よし! 案が浮かんだだけでもマシだな。ボスと合流しよう」


 俺は取り急ぎオレンジジュースを飲み干すと、ゴミ箱にダンクして拳を鳴らした。

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