第53話「魔法の起源」


「ぜ、だ……。」

「………?」


立ち上がろうと身体に力を込めるマグジールに俺は怪訝な顔を向けるも、奴は息も絶え絶えに喚き出す。


「何故……、アーティファクトを…使わないっ、気でも使ってるつもりか……!」

「ああ……。」


納得して、思わず声が漏れる。

相変わらず的外れな事を言う。誰がお前達などに気を遣うものか。

掛ける気遣いも無いと、俺は嫌悪を込めてその答えを告げる。


「アレは俺が託された大切な物だ。たかだかお前達に……、それも私怨でなんか使う訳が無えだろ。」

「……ふざけるなあぁぁあああっ!!」


今まで受けたダメージの蓄積でよろけながらも、憤慨したマグジールは咆哮し、剣を頭上に掲げる。大気中の魔素が急速に光と化して集まり、刀身を包み込んだ後、マグジールの手には光の刃が握られていた。


「ディバイン・ブレードか……。その魔法を生み出した魔法使いも嘆くだろうよ。こんな俗物が、くだらない理由で使うんだからな。」

「黙れっ!陽の光を二度と見ぬまま、朽ち果てろ!!ディバイン………ッ、」


俺は避けない。どうして纏っているかも分からない神衣を抑え込んで、来るであろう攻撃をつまらなげに眺めた。

(あの様子じゃ、恐らく知らないんだろうな……。)


「ブレェェェエエエドォッ!!!」


神衣まで無理矢理引っ込めたのを挑発とでも受け取ったのか、マグジールはその顔に更に怒りを滲ませて、全力で光の刃を振り下ろした。

膨大な量の光の波が襲いかかるが、別に結界を張るでもなくそれを受けると、ディバイン・ブレードの一撃は何の被害を生むことなく、ただ通り抜け消えていった。

自身が持ちうる中で、最強であるはずの技を受けても傷一つつく事なく立つ俺を見て、マグジールの目が大きく見開かれた。

ただリディアだけは、まるで知っていたとでもいうように顔を俯かせていたが……。


「バカな………。どうして………、」

「薄情な仲間だな、どいつもこいつも。」

「何だ……っ、何の話をしている!?」


怒りよりも呆れが上回り、思わず嘆息すると、マグジールは狼狽えた様子で問いかけてきた。

多少哀れに思い、俯いているリディアに目を向ける。


「リディア。その様子なら気付いてたんだろ。教えてやらなかったのか?」

「………………。」

「何が仲間だ。呆れて笑えてくる。そこで転がってる奴らも何も教えてやってないんだろうな。」


気絶してるエドワードではなく、夥しい量の脂汗をかいているムスタにも目をやると、奴は呻きながら顔を反らした。


「ムスタ?リディア……?どういう事なんだよ……?何を隠してるんだ……。」

「マグジール、それは………、」

「サーダリア遺跡での戦いで、お前の放った技は誰よりも弱かった。今みたいに、何もしなくても防げる程にな。」

「………っ、アルシア!!」


言い淀んだリディアに代わって答えると、彼女は責めるように俺を睨んだが、構わず続ける。


「もう一度使ってみろよ、マグジール・ブレント。お前の背負ってるとやらが、どれ程の物か見てみればいい。」

「なんだよ……っ、何なんだよっ!!ディバイン…………、え?」


苛立ちを吐きながら剣を構えるが、マグジールは掲げた剣に目を向け、気の抜けたような声を漏らした。

そこには、刀身が少し伸びた程度にしか光が集まっていなかった。

あの様子では寄せられた想いどころか、自分の技にすらロクに目を向けなかったのだろう。


「………俺達が生まれるより遥か昔。まだ魔法というものが曖昧な存在だった時、ある男がそれを魔法という確かな概念へと昇華させた。全ての魔法使いの始祖であり、偉大なる賢者。ノル・ヘクサがな。そんな彼でも、出来なかった事がある。」

「出来なかった、事……?」

「新たに神術を生み出す事だ。例外を除き、俺達が使うほぼ全ての魔法は彼の研究の過程で生まれた副産物に過ぎない。」

「その話が今、僕になんの関係があるっ!!!」

「……だが、彼は1つだけ、威力だけなら神術に迫る魔法を開発出来た。人々からその人物に寄せられる希望の全てを力とし、剣とする魔法を。」


それを聞いたマグジールが魔法を宿したままの自身の剣を恐る恐る見つめる。


「…………まさか。」

「お前の使うディバイン・ブレードだ。それを王国に託した賢者も浮かばれないだろうよ。

いずれ神術に迫る可能性の種として当時の国王に託したというのに……。

ヴォルフラムの飼い犬に成り下がり、ギルド時代にやってきた人々の為に戦うという事すら捨て去って、出世だけに目を向けたお前程度がそれを使うんだからな。」

「くそぉっ!!」


図星を突かれ、顔を赤くしたマグジールが叫び、手にした剣を構えてこちらに向かってくるが、その動きは単調そのものだった。手にした二振りの魔剣で払うか避けるかし、上段に構え振り下ろされたそれを、スプリガンで根本の方で砕く。

砕かれた剣を見て呆けたマグジールの胸板に、身体強化をかけた全力の蹴りをそのまま叩き込んだ。


「ぐ………、あ、あぁぁぁああ!?」


見た目からは想像できない程の威力を込めた蹴りに、マグジールが堪らず悲鳴を上げ数メートルは吹き飛ぶ。俺はそれに歩み寄って、ゲデにヒート・ブレードを纏わせながら無造作に振り上げた。


「まずはお前からだ、マグジール。」

「止めて!アルシア、お願い、お願いだからっ!!」

「頼む……っ、止めてくれ!俺が……、俺達が悪かったから!!!?」


リディアと両手足を切断されたムスタが懇願する様に叫ぶが、無視してマグジールにゲデを振り下ろそうとした時だった。

手首が誰かに摑まれた。


「そこまでだ、アルシア。」


手首を摑まれたまま振り返ると、そこには険しい顔をしたスルトが立っていた。

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