第52話「響き渡る咆哮」
アルシアの腕が引き抜かれるのと同時に、エドワードの身体がドサリと重い音を立てて地面に倒れ伏す。
アルシアはそれに目を向ける事なく、腕に付いた血を払った後、地面に刺した魔剣を引き抜いてマグジールを見た。
「安心しろ、まだ死んでねえよ。」
「どうして……、アルシア。どうしてなの!?」
怒りと困惑を滲ませて、リディアが思わず叫ぶが、アルシアはつまらなげに一瞥した後、冷たく返す。
「つまらん事を言ってる暇があったら、手を動かしたらどうだ?コイツみたいに……、な!!」
「ちっ!!」
会話の途中で斬り掛かってきたマグジールの一撃を防いだ後、弾き飛ばしてマグジールにゲデを向ける。
マグジールは怒りのままに、手にした剣を構え直した。
「お前が……、お前がムスタとエドワードを!!」
「見ての通りだろうが。全員、動けなくしてから目の前で1人ずつ殺してやるから覚悟しとけ。」
纏った黒雷が呼応するように膨張し、周囲に撒き散らされる。
マグジールはそれに気圧されながらも叫んだ。
「僕達にこんな事をして……、どうなるか分かっているんだろうな!!」
「当たり前だ。お前らを殺した後はヴォルフラムとその一族だ。」
「なっ………!」
「嘘………、よね。アルシア………」
躊躇いなく一瞬で答えた目の前にいる少年に、思わずマグジールとリディアが言葉を失う。
しかし、アルシアは気にする事なく続ける。
「他人の事よりも自分の心配をした方がいいんじゃないか?二度と同じ事が起きないよう、死骸は王都に磔にしておいてやる!!」
展開されていたすべてのエレメンタル・ロンドが一斉に起動し、放たれる。
「……セイクリッド・メテオ!」
降り注ぐ魔法の嵐目掛けて、リディアは躊躇しながらも光の流星を放つ。
だが、その全ては落としきれず、残った魔法がマグジールとリディア目掛けて降り注いだ。
リディアは自身がアルシアに狙われているという事実に動揺しながらも結界を張ってどうにか身を守り、マグジールは構えた剣で切り払いつつ、回避行動を取る。
マグジールが魔法を捌き終え、息をついたそのタイミングで、今度は彼を覆うように光の暴風が巻き起こった。
「――――ホーリー・テンペスト。」
「が、ぐあぁぁぁああああっ!?」
雷を孕んだ光の暴風がマグジールを襲い、彼は堪らず悲鳴を上げる。
「マグジールッ!!」
暴風に身を刻まれるマグジールを見たリディアは、咄嗟に結界を無数に展開してマグジールをホーリー・テンペストから守った。
光の嵐が消え、リディアがマグジールに駆け寄ろうとした時だった。
逆手にゲデを構えたアルシアの口から、再び魔法が唱えられる。
「シャドウハウリング。」
アルシアの頭上から雫の様に闇が零れ落ち、人、蝙蝠、犬、猫、熊、竜、鹿、妖精、と……次々と闇が形を成していく。
「………まずいっ!!」
本能的に危機を察知したマグジールが剣を盾の様に構え、リディアが最大級の結界を張った刹那、グレイブヤード中に無数の闇の塊から放たれた咆哮が響き渡った。
暗黒の咆哮は展開された結界に食い込み、じわりと染み込むように朽ち果てさせていく。
「浸食魔法か……!?」
「駄目、防げない?!」
「畳み掛けろ……!」
アルシアがゲデに更に魔力を押し込み、勢いを増した咆哮が衝撃となって崩れた結界内にいるマグジールとリディアを同時に吹き飛ばした。
「きゃああああ!?」
「う、ぐぅううっ!」
「……大口叩いて、揃いも揃ってこの程度か。」
呻きながら倒れ伏す2人を、アルシアは冷たい目で見下ろしていた。
その目にはやはり、同胞に向ける情などは無く、ただ強く、濃い殺意のみが込められているだけだった。
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