第47話「墓所にて煌めく凶刃」
「………さて、こんなものかな。」
玉座に座り、こちらを見る自分を眺めて、シギュンとなったロキはどこか不思議な気分になる。
この身体で動く時は本体である身体は休眠状態になっているが、今回はマグジール達と戦わなければならない関係で、一部感覚などを共有している。
こんな使い方をする事自体は初めてだ。
上から誰かが来る気配を感じて、シギュンは姿を消す。
マグジール達で間違いないだろう。
この身体は表に出てきた悪神に組み付いて吹き飛ばすという役割がまだ残っている……。
悪神が出てくるまで自分は隠れてなければいけないので、予め用意していた隠し通路に向かう。
その途中でシギュンは一度立ち止まった。
「これで、ボクの身体ともお別れか……。」
もう二度と見ぬであろう自身の身体を尻目に、しかし惜しむでもなく、シギュンはその場を後にした。
◆◆◆
フェンリル達3人の高位魔族、力を移し替えたロキが去った後、招かれざる客であるマグジール達が玉座に足を踏み入れる。
彼らは自身にとって未開の地である空間にどこか言いようのない不安を覚えるも、視線の先にあるこの領域の主の姿を見て、その不安を押し殺し、武器を構え歩み寄った。
そんな彼らを、玉座に座る神は静かに、けれど何の感情を浮かべる事もなく見据える。
「ようこそ、全ての命が立ち寄る場所、グレイブヤードへ。私に何か用かな?」
「…………っ、」
ロキの醸し出す雰囲気に、マグジール達はたじろぐ。
(どういう事だ……?)
アルシアがぽつりと漏らした事が一度だけあったが、聞いていた性格とまるで違う。
こんな、無機質な性格ではないはずだ。
自分達を敵と認識してこういう態度なのか、とも思ったが違う。
まるで、初めから感情など存在していなかった、と言われても信じられる。
そんな雰囲気なのだ。
「……お前が魔王ロキで間違いないな?」
動揺を隠すように言葉を絞り出すと、目の前の無機質な存在は首肯する。
「いかにも。私がこのグレイブヤードを守護、管理する者だ。それで、重ねて聞くが要件は?」
熱の無い言葉で肯定され、問いを返される。
「……お前を倒し、人の世に真の平和をもたらす。覚悟はいいな?」
マグジールが手にした剣を眼前の王に突きつける。
本当のところ、マグジールにとっては他人なんてどうでもよかった。
折角今の地位に上り詰めたのだ。
ヴォルフラムに仕えるだけで自分の人生は確約される事は確定している。
自分に白い目を向け、蔑む人間達なんて、もう相手にする必要も無いのだ。
野心と保身を内に秘めつつ建前だけを述べるマグジールに続いて、エドワード達も武器を手に、その想いを口にした。
「覚悟しろよ。お前を倒せば俺達も国では英雄なんでな!」
大槌を構えながらムスタが叫び、エドワードとリディアがそれに続く。
「大規模侵攻なんて起こさせねえ。お前を殺したら、次はあの高位魔族の連中もやらせてもらうぜ。」
「貴方達はアルシアを狂わせた。貴方の死骸を彼に見せてあげれば、少しは自分がおかしな事に気付くかしら。ええ……、きっとそうなるわ。」
「…………ふっ。人の世に真の平和を、覚悟しろと来たか。」
「な、何がおかしい!!」
呆れも込めて、自分達の想いを鼻で笑う魔王に、マグジールは思わず声を荒げて詰め寄った。
内心を見抜かれた、そんな気さえしたからだ。
そこで初めて、無機質な王はその顔に薄い笑みを貼り付ける。
「その仮初めの気持ちで、本当に後悔はしないと言えるか?その剣と心に、世界を背負う程の覚悟は、本当にあるのかな?」
「な、何を――――――、」
(背負う覚悟、だって………?)
命乞いなのか?自分達がここを去った後に、大規模侵攻を起こすつもりではないか?
或いは、ここで彼を討てば、本当に取り返しの付かない事になるというのか?
マグジール達の表情が一瞬にして動揺に染まるが、魔王は気にする事なく続ける。
「マグジール・ブレント。君の事は知っている。人の為に戦う者。寄せられる期待に応えてきた勇敢だった者、としてね。」
「…………だった?」
聞き捨てならない言葉を聞いて、抱いていた困惑が怒りで塗りつぶされ、剣を握る手に力が更に込められる。
しかし、それを気にする事なく玉座に座る王は更に続ける。
「ああ、そうだ。ある時から君の、いや、君達の話を全く聞くことはなくなった。人間の残り香である魂からも、魔族の残滓からも。一つ聞こう。君のその想いは誰の為の物なのか、と。」
「………れ。」
「……ん?」
「黙れと言ったんだっ!!」
怒号と共に握られた剣が魔王の身体を一閃する。
斬られてよろめきながらも、王は悲鳴さえ上げない。
マグジールはその胸ぐらを掴んで、玉座から引き剥がし、更に叫んだ。
「誰の為だと?勿論、みんなの為だ!揃いも揃って僕らの事をバカにする愚かな連中の為に!!お前を殺して、いずれ起きる大規模侵攻を防げば皆、平和に暮らせるだろう!そうすれば、少しはあのバカどもだって僕らに感謝するだろうさ!アルシアなんて得体の知れない奴に信頼を向けるのがどれだけ愚かだったのか、とその時に知るだろうよ!!」
嘘も交えながら滅茶苦茶な事を叫びつつ、掴んだ胸ぐらを離して2度3度と斬りつけ、マグジールは後ろで動揺している仲間に声を掛ける。
「やるぞお前ら!ここが僕らの運命の分かれ道だ!!」
鬼気迫り、狂気に染まるリーダーであり、仲間である男の顔を見てエドワード達は動揺を隠せないながらもマグジールに続いて武器を振るう。
玉座から引きずり降ろされ、あっけなく血溜まりに沈んだグレイブヤードの王を全員で見下ろしていた時だった。
「ロキィッ!!!!!!!!」
自分達が忌まわしく思う、もう一人の男の声が響いたのは。
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