第48話「戯神の死去」
血溜まりに身を沈めながら、私は静かに目を閉じる。
(これでいい、計画通りだ。)
予定通り、肉体的な意味でロキは死んだ。
あとは計画通りスルトがここに訪れてこの身体を回収、封印すれば最終防衛機構の起動によって力を失った悪神が器とする物は存在しない。
悪神を倒す事は充分可能な筈だ。
身体を動かす為に最低限残されたこの仮初めの命が停止し、スルトがここに来るのを待つだけ、そう思った時だった。
「ロキィッ!!!!!!!!」
遠くからこの場に
すべてを斬り裂くような鋭い、人の子である友人の声が響いた。
予定よりもずっと早く到着したアルシアに、ロキは感情の殆どを失いながらも「何故?」と困惑した。
そして、この状況を隠れて見ていた本体のロキと、彼の肉体を殺した勇者達は知る事になる。
我を忘れるほどに激昂した彼が、どれ程までに恐ろしいかを。
◆◆◆
平原を駆け抜け、天蓋の大樹からグレイブヤードへ向かい、到着するや否や全身の皮膚が切れていくのも構わず、俺はフェンリルの力をフルに稼働させて遥か地の底にある玉座の間に向かう。
普段ならば階段を降りるところを、途中から階層を飛び降りて落下する勢いも利用して、更に加速を付けて下へ、下へ。
「どうしてだ………!」
どうして、ロキがマグジール達なんかに負けている?
どうして、こないだみたいに手も足も出ない程の力を見せてやらない?
「どうして………!」
何故、フェンリル達が近くにいない?あいつらならば、そんな事を許す筈がない。
落下途中で近くの階層を蹴り飛ばして、更に落下速度を上げて落ちていく。
「バカか俺は………っ!!」
弱っていくロキの気配を肌で感じながら、自身へ呪詛を吐き捨てる。
どうして、自分はロキならば負けないと楽観視をしていた……!
何故、万が一の可能性を俺は想定していなかったのだ!!
後悔の念に押し潰されそうになりながらも、ただ力任せに加速して降り続けていくと、漸く最下層が見えてきた。
そして、見えた光景に全身の血の気が引き、心臓が止まったのような錯覚を覚える。
そこには、考えうる限り最悪な光景が広がっていたのだから。
◆◆◆
「………倒した、のか?」
「ああ……、間違いない。」
あまりにも呆気なく倒す事が出来た魔王を少し離れた所から見て、冷静になったマグジールが恐る恐る口を開き、エドワードがそれに答えた。
そして、2人の肩に腕が回される。嬉々とした表情を浮かべるムスタだった。
「やった……、やったんだよ!俺達は!これで誰も文句なんて言えねえぜ!!」
「そうよ。凱旋と行きましょう。立派に任務を終えたのだもの。誰も文句は言えないはずよ?」
3人を安心させる様にリディアが微笑み、マグジール達が笑いかけた時だった。
「ロキィッ!!!!!!!!」
聞き覚えのある声が響き渡り、何かが上空から落ちてきた。
それを見て、マグジール達は全員頷き合い、武器を再び構えた。
(終わりだよ………、ここで。)
ヴォルフラムから許可は下りている。
魔王に与する者は殺して構わないと。
目の上のたんこぶで、目障りだった彼を殺す事の出来るまたとない機会だ。
「さあ、アルシア。君の慕う魔王ロキはここで死んだ。今度は君の番だよ。」
醜悪な笑みを貼り付け、手にした刃を同胞に突き付けながら、マグジールは静かにそう告げた。
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