第24話「剥き出しの好意」


ニーザの療養が終わり数日後……。

ロキとドワーフ族の依頼で俺達は火山地帯にあるヴェルンドの村の近くに来ていた。来ていたのだが………、


「こら、アルシア。逃げようとしないの。」

「………………。」

「……どうしたの、アルシア?これから仕事なのにげんなりした顔して。」

「誰のせいだと思ってんだ……。」


そのげんなりした顔を俺の腕に自分の腕を絡めているニーザに向ける。

その姿は人化した時の本来の姿に戻っていたのだ。

ニーザは俺の腕に視線を移した後、きょとんとした顔でこちらを見る。


「恋人ってこうするものでしょう?」

「合ってるけどまだちげーよ!!」

「……ん、まだ?」

「………あ。」


口走った言葉を誤魔化すように咳払いをして口を開く。


「……ともかく、恋人ではないから一旦離れろ。」

「嫌よ。」


1秒も挟まずバッサリと返されて項垂れる。

まあ、そうだよな……。

ニーザは頬を膨らませてその黒髪の下の赤い瞳を据わらせた。


「何よ。私じゃ嫌ってこと?」

「いや、そうじゃねえ!そうじゃねえけど、その……当たってるというか……。」

「……ああ。当ててるのよ、って言えばいいのかしら?」

「ちっがうわ!恥じらいを持て恥じらいを!!」


わざと胸を押し付けてにんまりと笑うニーザにぎゃーぎゃー言いながら腕を外そうとするが、やはりと言うか離してくれなかった。

諦めて溜め息を吐く。大人しくするしかないようだ。


「ねえ。」

「……ん、何だ?」

「私といるの、そんなに嫌?私が出てくると、いつもこうだし……。」

「あ、いや、すまん!そうじゃないんだ。ただ……、」

「……ただ?」


不安げに見てくるニーザにどう返そうか思案し、覚悟を決めて口を開いた。

たしかに、出てくる度にこんな態度をされれば傷つくだろう。完全に俺の失態だ。


「その、やっぱ恥ずかしいというか、嫌いとかじゃないから尚更……。」


顔が赤くなるのを感じながらボソボソと言うと、一瞬呆気に取られた顔になったあと、ニーザはにんまりと笑って俺に抱きついてきた。


「あ、こら!抱きつくな!?」

「ごめんなさい。でも、アルシアが嬉しい事を言うからつい、ね。嫌われてると思ってたし。」

「嫌いじゃねえよ。ちっこい方だってその、可愛いと思うし、今の姿も綺麗……、だからどうしても剥き出しの好意ぶつけられると、戸惑う、つーか……。」


いよいよ恥ずかしさが限界になってそっぽを向く。

覗き込むようにニーザが身を寄せてくるが、更に首を動かして顔を見せないようにした。

恥ずかしいのもそうだが、正直後が怖い。

何せ、主導権が変わってるだけで普段の姿の方のニーザはこの会話だって知っているはずなのだ。

後で間違いなく気まずくなるのが分かるので、早々下手な事も言えないし出来ない。


暫くニーザは俺を楽しげに覗き込んでいたが、満足したらしく少しだけ離れてくれた。


「……もういいのか?」

「ええ。それだけ聞ければ今は満足ですもの。続きは今度、聞かせてもらうわね。」

「そうならない事を願いたいが………、離れる気は?」

「無いわ。ヴェルンドに着いてもこのままよ。」

「……そうだよな。」


相変わらず腕に抱きついたままのニーザを見ながら、俺は少しだけ肩を落としたのだった。

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