第3章「エギルの村の暴走魔族」

第23話「2人の密談」


グレイブヤード中層階。

最下層に向けて降りながら、ロキとスルトは会話をしていた。


「まさか、インドラ翁が狙われるとはね……。」


困った様に呟くロキの隣をスルトが歩いている。

こちらもやはり、困った様に顔をしかめていた。


「アルシア達は?」

「アルシアは軽症。ニーズヘッグは重傷だったから、今日まで安静にしてもらってるよ。グレイブヤードにいれば、傷の治りは早くなるしね。」

「そうか。それなら安心したよ。」

「グラトニーの爺さんが出てくれなければ危なかったね。まあ、アレには先手を打たれちゃったけど。」


階段を降りながら、げんなりした顔を負の念の海に向ける。

ここ最近の日課の様になっているのが本当で嫌で仕方ないという顔だ。


「計画が少し狂ったな……。」

「そうだね。インドラにも手伝ってもらう予定だったけど、それは叶わなくなった。まあ、力をアルシアに託してくれたみたいだから、そこだけは助かったけどね。」

「上手くいかねえもんだな……。」


下層階まで降り立ってから、一度立ち止まってスルトも最下層の先を睨む。


「お前じゃ勝てねえのか、ロキ。零落もしてないお前なら、或いは………、」


「無理。」と短く答えてロキはかぶりを振った。切れ長の瞳が黒髪の奥底で細められる。


「何もなければギリギリ勝てるかもだけど、どうにもボクを殺して身体と力を奪い取る事に力を特化させてるみたいなんだよね、アレは。今は解けかけた封を補強して時間を稼いでるけど、それが完全に無くなったらボクは真っ先に殺される。全人類どころか、ファルゼアに存在する全ての生命を犠牲にしていいなら勝てるけど、それじゃ負けみたいな物だし、やらない。」

「たしかに、そりゃ論外だな。」

「だろ?大分劣化して弱体化してるとは言っても、後2手3手足りない。」


再び歩き出して階段を降りる。

盗聴防止の結界を張りながらの会話とはいえ、最下層の玉座の間に辿り着くまでには会話は終わらせておきたい。


「……予定を早めるか?」

「そうだね。数日中にトートへ向かおう。そこで今後の方針を固める。あそこなら盗聴の心配は無いし、何があってもトートは生き残るだろうから、そういう意味でも問題無い。」

「俺も狙われるかね?」

「可能性としては。一応、警戒だけはしておいてくれるかな。ファルゼアにいる神はもうボクと君だけ。そして、器として耐えきれる強度を持ってるのもボク達だけだ。」

「了解。まあ、寝床と周辺には厳重に結界を張ってる。維持は巨人族にも頼んでるから、簡単には破られんだろうがな。気を付けてはおく。」


それだけ言って、2人は会話を終わりにした。

場所は既に最下層、玉座の間だったからだ。

階段を降りてすぐ、2人は玉座のある方を見たのだが………。


「…………すぅ。」


玉座に座って静かな寝息を立てるアルシアを見て、2人は困った様に笑った。


「どかすのも可哀想なんだよね、あれ……。」

「お前はアルシアに甘すぎなんだよ。ちょっと待ってろ。」


スルトがそう言った時だった。

近くにいたフェンリルが近寄ってきて、玉座で寝ているアルシアの頭に拳骨を落とす。


「起きろアルシア!寝るなら汝が持ってきた寝具でも使って寝れば良かろうに!!」

「いってえ!?何しやがんだ、ムチムチ脳筋オオカミ!!」

「やかましいわエロガキが!毎回毎回玉座で昼寝しおって。貴様、グレイブヤードは宿じゃないぞ!!」


ぎゃーぎゃー言いながら取っ組み合いのケンカを始めたが、身体強化をかけようが相手は高位魔族なので、いつもの様にアルシアは負けて顔を胸に押し付けられて息苦しそうにジタバタ暴れていた。


「これ見ると、毎回真面目に考えるの馬鹿らしくなるんだよね。」

「ハッ、そうだな。あと、いい加減気づかねえのかね、あのバカ坊主は。」


2人揃ってケタケタ笑いながら、視線をずらす。

そこには「また始まったか……。」と、最早完全に諦めたように本を読み始めるフレスベルグと、嫉妬して頬を膨らませたニーズヘッグがいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る