第9話「騎士団詰所にて・前編」
リディアと別れて少し後……。
騎士団詰所にある研究室に行くと、そこには探していた人物、宰相ニコライ・レーヴィットと騎士団長アルバート・ミューラーがいた。
彼らは俺に気付いたあと、会釈をして再び目の前の検死台に目を向けた。
近付いてくる俺に顔を向ける事なく、ニコライは口を開いた。
「お疲れ様、アルシア。随分ご立腹だったようだな?」
「………バレた?」
微妙な顔をしながら聞くと、それにはアルバートが答えた。
「ここまでお前の魔力が届いたぞ。気付くなという方が難しいさ。」
「マジか、すまん。」
盗聴防止の魔道具を起動しながら詫びる俺に、アルバートは「問題にはなっていないよ。」と苦笑して返す。先程俺が謁見の間でやっていた様なやり取りではなく、お互いに肩の力を抜いた会話だ。
俺は魔道具を起動したまま、ニコライの隣に立って検死台に乗っている死体に目を向ける。
そこには下級魔族のゴブリンが横たわっていた。
見た目的には通常の個体より少し色が黒みがかっているが、それ以外に特徴に変化は無い。そう、見た目だけならば……。
「何か掴めたか?」と隣にいるニコライに聞くと、彼は1枚の紙を俺に渡してきた。
それには通常個体との比較データが書き記されていた。俺がそれに目を通していると、ニコライは口を開く。
「見ての通り、通常個体に比べて魔力数値が異様に高く、その数値もかなりデタラメだ。強さは基本的に通常のものよりも強力。そして……、」
「理性が無い、か……。」
俺は改めて、資料から目の前で横たわっているゴブリンに目を向ける。
ただの個体ではなく、最近になって姿が確認された、暴走魔族と命名された個体だ。
魔族の正体とは、死した生物の負の念だ。
ロキ達が統べる魔界・グレイブヤードはこのファルゼア大陸の生命を管理する場所であり、死んだ魂は一度そこへ向かう。
そこで、魂に存在する負の念だけを全て削ぎ落として、浄化した魂は輪廻の輪に加わる。
しかし、削ぎ落とした負の念は自然には消えない。削ぎ落としたら削ぎ落とした分、当然だが溜まっていく。
誰が見ても良いものではないそれをどう処理するのか?
それが魔族という存在に繋がる。
魔族はグレイブヤードの管理者、現在では魔界の王、戯神・ロキの力を核として、負の念をその核に纏わせる形で生まれる。
その際に下級から特級の個体に割り当てられ、強さや形、名前も決まるらしい。
何故そんな厄介で面倒なシステムを……、とロキに聞いた事があったが、大昔……、ロキが生まれる遥か昔に何かが起きたらしく、その対策の為にグレイブヤードの機構が生まれたのだとか。
アルバートがそこで口を開く。
「ロキ殿は、この件には何と?」
「向こうでも調査中、って言ってた。詳しい事は後日、追ってニコライの方に伝えるってさ。」
「お使いを頼んですまんな、アルシア。自分で行きたいところだが立場上、私も動く事が出来なくてね。何より、何の警戒もせず話してくれるのも、この王都では君くらいしかいない。」
ニコライが申し訳無さそうに詫びるのを、
「別に平気だよ。あそこは退屈しないしな。ただ………、」
俺が気になった事を思い出しながら言葉を紡ぐと、2人とも俺の方を見た。
「………フェンリル達は本当に知らないみたいだな。フェンリル達は。」
含みを持たせる様に、俺はその気になった事を口にした。
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