第10話「騎士団詰所にて・後編」


「魔王陛下は、何かを知っていると?」


勘の良いニコライが聞いてくるのに、俺は頷く。


「ああ。一応言っておくが、ロキの仕業とか、そう言うんじゃないぞ?」

「分かってる。それで?」

「……付き合いの長さから感じた気配だと、原因に心当たりがあるって感じだった。ただ、ロキにも対処出来なさそうな事態って感じでもあったよ。」

「魔王陛下でも、対処出来ない可能性……」


ニコライは俺が返した資料のある数値部分に視線を向けて考え込む。

それは魔族の知性や理性を表す数値だ。

どんな階級の個体でも、一部の種族を除いて、ここの数値は割と高めになっている。

個体によっては、それこそ言葉を話したり、魔族間で連携を取ったりなど出来るのだ。

しかし、この暴走魔族に関しては別で、その数値は異様に低い。

殆ど一桁台で、ここまで低いと魔族は理性を失い、暴走する。


そうならない様にグレイブヤードの浄化機構はロキの力を核として理性を与える訳だが、何らかの理由で、その核になる力が少なくなっているのだろう。

……。

俺が原因を推測していると、ニコライはある単語を静かに口にした。


………、か。」


その単語を口にしたニコライに、俺とアルバートは同時に視線を向ける。

大規模侵攻……。グレイブヤードの管理者が死亡する事によって発生する魔族の大量発生の事だ。

歴史上一度も起きたことが無く、それは神界、魔界、人界と、その三界の間で交わされた三界条約に書かれているだけの、本当にそんな事が起きるのか?と聞きたくなるような物だが、ここ最近起きている現象を考えると、それは嘘ではないのかもしれない。

その現象の1つとして………、


「…………お?」

「む?」

「また、地震か………。」


軽い揺れで、棚に乗ってるものがカタカタと小さく揺れる程度の物だが、地震が起きて、すぐに収まる。

今のは小さいからいいが、最近では大なり小なり地震がよく起きるようになっていた。

あまり細かい事は気にしない俺でも、ここまで色々と重なってくると、多少は不安になる。

それはニコライ達も同じようで、先程よりも表情に不安を浮かべていた。

少しの沈黙の後、俺は場の空気を変える為に口を開いた。


「取り敢えず、さ。何か俺の方でも分かったらその都度伝えるよ。俺も明日、サーダリア森林に向かわないとだし。」

「サーダリア………、エルフの依頼か。」


アルバートの言葉に俺は「うん。」と返した。


「俺個人に使い魔を通して依頼入ったのもそうなんだけど、実はロキからのお願いでもあってな。明日の朝、ルーリア平原でニーザと合流して向かう事になってる。」


「内容は言えないけど。」と舌を出して付け加える。

話を聞いている感じ、どうにも一筋縄ではいかない感じだったからだ。

それを聞いた2人とも、了解したとばかりに頷く。


「どういう理由があるのか知らないが、陛下が魔界含めて、亜人種達とも一方的に同盟を切ったせいで、そちらに兵士を動かせないからな。厄介な仕事を押し付けるようですまないが、頼めるか?」

「勿論だ。大船に乗ったつもりで報告を待っていてくれよ。んじゃ、またな。」


それだけ言って、俺は研究室を後にした。




―――――――――――――――――――――


第1章「国王と勇者一行」・完



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