第5話「視線の先」
「さて、と。ちょっと大事な話があるから4人とも申し訳ないんだけど……、」
「分かっておる。妾達も魔族狩りに向かうから、時間的にも丁度よい。」
フェンリルの言葉に同意する様に俺達が玉座の間を去ろうとすると、ロキは「ごめんね。」と申し訳無さそうに両手を合わせて謝った。
そして、思い出したようにニーザの雷であちこち焦げた俺をロキが呼び止める。
「そういえばアルシア。何で今日、ここに来たの?」
「え?やべ、忘れてた。ニコライからこれを渡すように頼まれてたんだった。」
俺はファルゼア王国、宰相ニコライから預かった書状を収納魔法から取り出してロキに手渡すと、彼はそれを開いて目を通したあと、ジト目を俺に向けてくる。
「アルシア……。こういうのは早めに渡してくれないと困るんだけど……。」
「俺がここに来て早々、お前が戦おうとか言い出したから渡しそびれたんだろうが!!」
「………そうだっけ?」
「そうだよ!それで、中身は?」
「うん。今出てきてる暴走魔族の件だね。アルシア、レーヴィット君には後でこちらから返事を出すって伝えてもらっていい?」
「俺はこれから城に戻るからいいけど、そんなんでいいのか?グレイブヤード側で把握してる事を軽く伝えたりとかは……。」
ロキは収納魔法に書状をしまい、少しだけ考える仕草をしたあと、口を開いた。
「そっちはそうだね。こっちでも原因を探ってるから、それも含めて返事として返す、っていいうのも伝言で頼める?」
「ん、分かった。伝えてくるよ。」
それだけ返して、フェンリル達の後を追うように歩くと、ロキは「頼んだよー。」と手を振っていたので、俺も振り向きながらそれに返すのだった。
◆◆◆
「よし。待たせてごめんね、スルト。」
「ああ。そりゃいいんだけどよ、何だってアルシア達と戦ってたんだ?」
怪訝な顔をして首を傾げるスルトに、ロキは玉座に座りながら「模擬戦だよ。」と短く返した。
「模擬戦?」
「そう。そろそろ必要な時期だからね。アドバイスとか含めて用意したい準備の1つ。」
「用意って、ああ……。コイツか。」
腕を組んだスルトが自分達の足元をその鋭い瞳を更に細めて睨み、ロキも「そうそう。」と、地面を軽く何度か踏みながら、同じ様に視線を落とした。
地面を見る2人だが、その実、2人が見ているのはその先、グレイブヤードの奥底で海のように深く、広く溜まっている負の念の方だ。
ロキは凪いだ瞳で、その顔になんの感情を浮かべる事なく、呟く。
「ほんと、厄介なものを残してくれたよね。神界の神々もさ。」
戯神の言葉に反応する様に、負の念の海はゴポリ、と音を鳴らした。
―――――――――――――――――――――
第0章「ロキからの挑戦状」・完
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