第4話「スルト到着」


巨神の放った一撃によって平原の半分以上が吹き飛ばされると、役目を終えたとばかりに巨人は纏っていた炎を消し、ガラガラと崩れ、その上にロキがふわりと降り立つ。


「うんうん。みんな予想より強くて安心安心。ボクは嬉しいよ。」

「そう思うならもう少し手加減せぬか、たわけめ……。」


纏めて吹き飛ばされたフェンリルがうつ伏せに倒れてぐったりとしながらロキに悪態をつく。

口にはしないものの、フレスやニーザ達も同じらしい。

それぞれ違う場所で倒れながらもロキを睨んでいた。

視線を受けたロキは不満そうに頬を膨らませる。


「ちゃんと最後は加減したじゃないか。直撃は避けたし。それよりも……、」


そこでロキはよろよろと立ち上がる俺に視線を向ける。


「あんまり無理しないほうがいいよ。すべて仮想空間の出来事とはいえ、そこまですると身体に響き――――、」

「……偽装召喚。」

「っ!?」


深い闇と黒い羽根を撒き散らす俺を見て、ロキは身構えるが、構わず召喚対象の名を告げる。


「戯神・ロキ……。」

「へえ……!」


擬似的とはいえ、自身の力を纏う俺を見て、ロキは先程まで違い、関心を込めた好戦的な笑みを貼り付けて右手をかざす。

俺もそれに倣い、両手をかざす。


「戯曲――――、」


2人の言葉が重なり合い、夜の様に深い闇が空間を埋め尽くす。

そして、同時にその力の名を口にした。


「―――常闇の帳。」


空間を埋め尽くした暗い闇の帳が同時にぶつかり合い、食い合おうとするその時だった。


「はい、そこまで!!」


「っ!!」


ぶつかり合う常闇の帳に巨大な破壊の炎、塵獄が直撃し、崩壊すると同時に仮想空間そのものも解除される。


場所は再び雲一つない星空の様に薄暗くも明るい領域、グレイブヤードに戻る。

仮想空間というのは本当で、そこには戦った痕跡すらも無い。

かなりのダメージを受けたが、それすらも初めから無かったようだ。

ただ、念の為と思って向こうで起き上がろうとしているニーザに駆け寄る。

ニーザは突然駆け寄ってきた俺にきょとんとした表情を見せた。


「ニーザ、大丈夫か?」

「え?う、うん……、仮想空間だし別に……」

「お前は破砕連装も壊されてるだろうが。壊されてるの見たことないし、平気なのか?」

「あ、えと、大丈夫……」


何故か真っ赤になってしどろもどろになるニーザに「本当か?」と顔を覗き込みながら声を掛けると、背後から楽しげな2つの声が聞こえてくる。


「そういうのも大丈夫だって。アルシアみたいに無理した訳じゃないし。恋は盲目って本当みたいだね。」

「おう、そうみてえだな。フェンリル達までいるのに真っ先にニーザに向かっていきやがったしよ。」


後ろからからかう様な言葉が聞こえてきたので、顔が赤くなるのを誤魔化すようにニーザのほっぺをつまみ、首だけ動かして元凶2人に怒鳴る。


「うるせえ!気になったから声かけただけだろうが!大体何しに来たんだ、スルト!!」


そこにはやはりと言うべきか、ロキの友人であり、俺の師でもある男、炎神スルトがロキと共にニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。


「何って、ロキに呼ばれたから来たんだよ。そうだよな?」

「そうそう。大事な話があってね、ボクが呼んだんだ。それよりも………、アルシア。そろそろ離してあげないととんでもない事になるよ?」

「ん、何が―――――」


だ。と言い切ろうとした時だった。


「あーふーひーあーー………っ。」

「あ。」


しまった、と思って急いでニーザの方を向くと、頬を摘まれたニーザは怒りの表情を浮かべていた。

焦って手を離すがもう遅い。


「この………、ヘタレ男ぉぉおおお!!」


怒号と共に落雷が直撃し、俺の悲鳴がグレイブヤード中に響き渡ったのだった。


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