第3話「ちょっと本気の戯神」
「じゃあ、行くかな。」
大穴の奥底、ロキが動き出したかと思った瞬間、その声は俺の背後から聞こえた。
「ぐっ!」
ロキの体術が俺達全員を襲い、吹き飛ばされる。
「………、
吹き飛ばされたニーザが受け身を取って、最初に仕掛けた。
だが、ロキは迫りくる堕天目掛けて再び千輝の礫を放ち、それらを迎撃した。
「…………、まだッ!!」
ニーザが再び堕天を装填し、再度攻撃を放とうとした時だった。
ロキはニーザではなく、空中に展開された破砕連装に狙いを定め、技を展開する。
「戯曲・天帝の封杭。」
ロキは高圧縮された雷で出来た杭を無数に生み出したあと、発射準備中の破砕連装目掛けてそれらを撃ち放ち、破壊する。
無数に花咲く爆炎の中からニーザが黒い翼を広げ、退避するのを見て、俺は咄嗟に叫んだ。
「ニーザッ!!」
「アタシは平気!でも、破砕連装を再構成するのに暫くかかる。その間はお願い!!」
後退しながら破砕連装を再構成するニーザを見ながら、俺は「分かった!」とだけ返し、再びロキに視線を向けつつ、フェンリル達と共にロキに迫る。
「殺す気で来なよ?」と微笑む様を見て、俺達は同時に準備していた技を解放した。
「崩天!」
「
「次元両断!」
無数の黒い焔の流星、圧殺の氷牢、次元を引き裂く斬撃が同時にロキを襲う。
しかしロキは動じる事なく、両掌を音を立てて合わせ、それら全てに対処する。
「戯曲・時女神の気まぐれ。」
俺とフェンリル、フレスの時間が放った技ごと、攻撃を仕掛ける前の時間に巻き戻される。
そして、ロキの時間が次の攻撃までの時間に進められた。
「戯曲――――、
ロキの頭上、炎で形作られた美しい尾の長い鳥がその羽根を羽ばたかせ、焔の波が拡散する。
「ちっ、厄介な…………!!」
腰からぶら下げたアダムの書を広げ、俺達全員に空間隔離を多重展開し、防御態勢に入った瞬間、焔の鳥は甲高い鳴き声を響かせ、平原全てを焼き払う勢いの神の焔を解き放った。
一枚一枚と、砕かれる結界を再展開しながら、ロキの方を見る。
ロキの持つ権能は「全権能・偽装展開」。
現存する全ての神の権能へアクセスし、その力を行使する事が出来る最強の能力だ。
本人曰く、本来の持ち主との技の撃ち合いでは絶対に負けるとの事だが、それ以外の技で戦えばいいだけなのだから、明確な弱点にはなり得ないだろう。
そのロキはと言うと、ここまで耐えきる俺を見て、感心したように微笑んだあと、手を叩く構えを取った。
「よく耐えるけど、これはどうかな?」
ロキが手をぱんっ、と音を立てて叩くと、焔を放つ炎鳥は再び鳴き、更に凄まじい勢いで焔を撒き、空間隔離の全てを砕いて俺達を吹き飛ばした。
俺は受け身を取ることも出来ず、地面を数度転がって倒れる。
俺はうつ伏せのまま、ばさりと背中の翼を羽ばたかせ、周囲に黒い羽根を撒くロキを見上げる。
「やっぱ強ぇ………。」
少しだけ本気になった瞬間、4人がかりで戦っても手も足も出ないロキを見て、自然と口から言葉が漏れた。
そう、本当に少しだけ本気になっただけなのだ。
技の出力だけは本気で、それ以外はまったくその気が無い。
賭けてもいいが、この状態のロキですら、大陸に住む全ての者達で総出で挑んでも勝てないだろう。
そう思いながらも、俺は無理矢理立ち上がり、魔眼に力を込める。
フェンリル達を見ると、彼女達も立ち上がって権能をフルに展開させて術を構築していた。
考える事は同じらしい。
残りの魔力量や体力から考えて、次の一撃でおしまいだ。
俺は両眼の火の魔眼に力を集中させて――、
上空ではギリギリ構築が間に合った破砕連装を駆使してニーザが赤雷を収束させて雷竜を――、
フレスが剣をかざして風と権能を混ぜ合わせた大鷲を――、
フェンリルが大量の氷霧を生み出して霧の狼を生み出す。
「準備が出来たみたいだね?」
ロキは3人の生み出した大技を見て、楽しげに微笑んで待っていた。
退避する事も邪魔する様子もなく、配下が生み出した力を眺めている。
(避ける必要もないって事かよ……。)
何れにせよ、攻撃を止めるつもりは無い。合図をするでもなく、俺達は同時にその力を解き放った。
「塵獄!!」
「葬送の嘴!!」
「
「
4つの力の奔流が同時にロキに迫る。
だがロキは避ける事もせず、手にした杖を指揮者の様に掲げて迎え撃った。
「戯曲・閉幕。」
瞬間、ロキに迫っていた俺達の技はまるで閉じられたかのように跡形もなく消滅する。
たまらず俺は叫ぶ。ニーザもだ。
「あ、汚えぞロキ!その技!!」
「そうよ!インチキ陰険男!!」
俺達が文句を言うも、ロキは楽しそうに笑うだけだ。
「あははははははは!そういう風に作った神様を恨みなよ。って訳で……っ。」
ロキはひと仕切り笑い終えると、右拳を地面に叩き込んだ。
轟音を立てて地面が迫り上がり、ロキを乗せたまま、それは山程の大きさの人型の岩塊に変わる。
それを見て、フェンリルとフレスがげんなりした様子で呟く。
「…………最悪じゃな。」
「ああ、全くだ……。」
2人の配下の様子に気付いているのかいないのか、巨人の肩に乗ったロキは再び神術を発動する。
「戯曲・終末巨神スルト。」
その名を告げると巨人の身体の全てが炎に包まれ、手には炎を纏った巨大な剣が握られる。
破壊の化身、終末巨神スルト……。
師であるスルトがかつて使う事が出来たというそれを見て、俺は息を呑んだ。
それと同時に、炎の巨人は手にした剣を振り上げる。
ロキが満足そうに口を開く。
「よし、それじゃあ突発模擬戦はこれにて終了。またやろうねー♪」
「やるかバカタレがあぁぁぁああああああっ!!!」
巨人の剣が振り下ろされるのと、俺が叫ぶのはほぼ同時だった。
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