第2話「グレイブヤードの王」


「さて、これでいいかな。」


戦う態勢になった俺達を見て、ロキはパン、パン、とその手を叩く。

それに合わせてグレイブヤードの景色が歪み、全く別の景色へと変わっていく。広大な平原と、遠くに見える山々、天高くそびえ立つ天蓋の大樹……。此処は……、


「ルーリア平原、か。」

「正解。仮想空間だから、地上と違ってフェンリル達はちゃんと全力で戦えるし、アルシアも戦いやすくなってるはずだよ。ついでに怪我もしないし。」

「たしかに、見てくれだけ外で、中身はグレイブヤードの様じゃな。」


ロキの言葉を受けて、フェンリル達が身体の動きを確認している。

俺も体内で魔力を動かしてみたが、たしかに普段よりも魔力が動かしやすい。

そんな感じで身体の感覚を確かめていると、ふと視線に気付いたのでそちらを見ると、ロキが意地悪く笑っていた。


「………なんだよ。」

「やるよね、勿論?」

「当たり前だよ。ぜってー引っ叩くからな。」


神殺しを起動し、バフォロスを右手に、空いた左手で鎖を薙ぎ払うように構える俺を見て、ロキは「そうこなくちゃ。」と笑うのだった。




◆◆◆


「戯曲・千輝の礫。」


ロキが手にした杖を上空に向け、その力の名を告げると、空に無数の光の礫が生まれ、俺達目掛けて降り注いだ。


召喚サモン、フレスベルグ。」


風の魔法によって作られた白い翼が背中に生まれるのを確認して、俺は手にしたバフォロスをロキに向けて、その本来の名を呼ぶ。


「――封印解除。起きろ、ベルゼブブ。」


封を解かれ、ギチギチと音を鳴らす虫の甲殻が合わさって出来たような剣を迫りくる無数の光のかたまり目掛けて振り抜く。

その瞬間、フレスベルグの力と混ざり合って生まれた強烈な振動の刃が不快な音を鳴らしながら拡散し、光を食い壊す。

全ては破壊できないが、俺達に当たりそうな分だけを壊せればそれでいい。


「ロキィィィィィッ!!!」


フレスの技の1つ、縮地を使って一気に距離を詰め、ロキ目掛けて斬りかかる。

だが、ロキは避けない。余裕の笑みを浮かべて俺の振り下ろす刃を


「なっ!?」

「神殺しで神衣かむいを突破出来るからって、過信しちゃいけないよ、アルシア。君はコレの本来の力を出し切れないんだから。」

「……いつも封印してるからかよ。」


「そう。」と相変わらず片手で難なくベルゼブブを掴んで止めながら、ロキは続ける。


「『暴食翁魔』……、グラトニーの爺さんは身体の一部とはいえ、自身の力と性質を無理矢理抑えつけられて不満そうだからね。アルシアは………、そうだね。いつか封印なんてしなくても使いこなせる様になるまで、今の戦い方を続けてけばいいかな?」

「……出来りゃあな。」

「アルシアなら出来るよ。っていう訳で、それ。」

「うわっ?!」


一通り話し終えると、ロキは素手で掴んだベルゼブブごと俺を軽々と放り投げ、追撃を放とうとする。だが………、


「おっと?」

「ちっ!」


フレスが縮地で背後に迫り、斬響が放たれるのをロキは上半身を前に倒して躱し、振り向きざまに杖をフレスに向けるが、フレスは鞘でそれを受け止めた。


「フレスは本当に厄介だよね……。純粋な剣技だからボクの力じゃあ権能は使えても技までは模倣出来ない。」

「そう言うなら軽々と避けないでほしいな。」

「そりゃあ、勝ち負けは別だから………ね!」


ロキは杖を持った手に力を込めて強引にフレスを払い除け、そのまま真横に結界を貼って、ロキ目掛けて射出されたフェンリルの槍、賢狼の牙槍ガルム・スピアを防いだ。

しかし、フェンリルは受け止められるのは計算済みだったらしく、反対側に周り込んで蹴りを放った。


「はああっ!!」

「ふっ!」


繰り出される蹴りに合わせるように、ロキも鋭い蹴りを放ち、そのまま体術での応戦を繰り広げる。

ロキがフェンリルの顔目掛けて拳を繰り出すも、フェンリルはそれを左手で防ぎ、今度はそのまま右手でロキに拳を放つが、ロキもそれを防ぎ、不敵に笑い合う。


「……体術は互角かな?」

「さて、どうじゃろうな。」


お互い同時に掴んでいた拳を離し、フェンリルが再び蹴りを放ち、ロキは腕を胸の前で交差させ、それを防ぐ。


「まだじゃっ!!」

「ぐっ!?」


フェンリルが繰り出した脚に強化魔法を掛けると、ロキは堪らずガードをしたまま、上空に打ち出される。

フェンリルが叫ぶ。


「今じゃ、アルシア!!」

「分かってるよ!!」


フェンリルにそれだけ返し、打ち上げられたロキにベルゼブブを握り直して肉薄する。


「斬…………響!」

「……………っ!!」


斬響は本来、フレスが「斬撃」の権能を乗せて高速で放つ居合の一撃だ。

当然、俺にはそんな技量は無い。俺の放つ斬響は、纏っている風と身体強化でただ威力に集中させた力の一撃だ。

肩越しに構えた剣を思い切りロキに叩きつけるが、ロキは手にした杖でそれを防ぐ。だが、それでも更に力を込めて押し込んだ。


「無駄だよ、アルシア。これじゃあまだ、足りな―――――、」


ロキが何かを言いかけたところで、俺は火の魔眼を起動しながら無理矢理片手を空けて、ロキの顔の前にかざし、待機状態の魔法を発動させる。


地嶽殲陣ちがくせんじん。」


瞬間、掌から広範囲に神殺しの黒炎を纏った鋭利な岩の刃が放たれ、ロキを飲み込む。

次々と生まれる刃の波を突き破って、ロキがその姿を現し、上空へと避難したのを見て、俺はほくそ笑む。

(上手くいったな………。)


「ふぅ、今のは危なかったかな?」

「まだよ、ロキ。」

「っ!?」


何処からともなくニーザの声が響き、何かに気付いたロキが空を見上げると、ぱきり、と硝子が割れる様に空が割れ、重力球を装填した500はあるであろう魔法陣と共に、メイスを掲げた竜の少女が現れた。

幻術である黒翼幻夢フォールスを使って攻撃の機会を伺っていたのだ。

少しだけ焦った様に、ロキが言葉を漏らす。


「ヤバ、黒翼幻夢か……。」

「その通りよ。堕天フォールアウト!!」


ニーザの言葉と共に、黒い重力球が高速で降り注ぐ。

ロキは結界を無数に貼るも、重力球はそれらを容易に砕いてロキを襲った。


「ぐっ………、しまっ……!!?」


過剰とも言える破壊の暴威が降り止んだ頃には、大地が大きく抉れ、その奥底ではロキが倒れていた。

本来ならばこれで終わりだ。

だが、俺達は構えを崩さず眼前のロキを見据える。


「あたたた……、今のはちょっと効いたかな。」


やはりと言うべきか、ロキは平然と立ち上がり、服に付いたホコリを払ったあと、こちらを見て、にこりと笑う。


「さて、と……。これでウォーミングアップは済んだし、ちょっとばかし本気で行こうか。」


(まあ、そうなるよな……。)

何分持ち堪えられるか………と、冷や汗をかきながら俺達は2戦目に備えるのだった。

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