災い起こしのアルシア〜終焉へのプレリュード〜

時計屋

第0章「ロキからの挑戦状」

第1話「じゃあ、始めようか?」


「それじゃあ、早速だけど戦おうか。」

「待てコラ。」


場所はグレイブヤード最下層、玉座の間。

楽しそうに笑いながら手のひらを合わせて、やる気満々の戯神・ロキに俺、アルシア・ラグドは即座にツッコむ。

用事があったからわざわざここまで来たのに、何が悲しくて神の戯れに付き合わにゃならんのだ。

見ると、彼の部下である3人の高位魔族も呆れたような顔でロキを見ていた。


「ロキ……。妾達だって準備というものがあろうに……。」


3人の高位魔族のリーダー格である銀髪の女性、フェンリルが額に手を当ててボヤいた。

そこに白髪の青年、フレスベルグが続く。


「全くだ。君が良くても私達は何も良くない。」

「フレスとフェンリルの言う通りよ、ロキ。大体、何かをするならしっかり準備をしてからにしろ、って、いつもアンタがアタシ達に言ってる事じゃないの。」


最後に黒髪赤眼の少女、ニーザことニーズヘッグが俺の持ってきたお土産のケーキを齧りながらジト目で文句を言った。

しかし、肝心のロキはと言うと………、


「そこはまぁ、ほら………。棚に上げるとして。」


「上げるなっっ!!!!」


惚けたように笑って誤魔化そうとするロキに俺達4人が同時にツッコんだ。

するとロキは、今度は開き直ってワガママを言い始める。


「いいじゃないか、別に!ボクなんか王様だからってずっとこんな薄暗いグレイブヤードの奥底で過ごしてるんだよ!?そろそろカビでも生えそうだよ!」

「うっ、それを言われると………、」


ロキは魔族を生み出し続けるグレイブヤードのシステムを管理する者でもある為、おいそれと外に出る事が出来ない。

退屈だと言われてしまえば、俺達は言い返すのも躊躇ってしまうのだ。


「可愛そうだと思うだろ?」

「うん、まあ………」

「戦おうって気になるだろ?」

「いや、せめて準備させろや!」

「………いる?準備?」

「いるよ!いりまくりだよ!何処に準備もせずに神に喧嘩売る馬鹿人間がいんだよ!!」

「ボクの目の前にいる。」

「はっ倒すぞテメェ!やる訳ねえだろ!!」


やった事もねえわ!とケタケタ笑ってからかうロキに文句を言うも、何がおかしいのか、更に大笑いを始めるだけだ。


「ひー、ひー……、あー、おかしい。」

「この野郎……、」

「それで、やらないの?」

「やらん。」

「どうしても?」

「ど、う、し、て、も、だ!」


尚も食い下がろうとするロキにきっぱりと言い放つ。

後ろでお土産のケーキを口に運びながら、フェンリル達が「断れよ?」と視線を向けているからだ。

言われるまでもない。

いくら俺が本気でやろうと、まず勝負にならないのだ。

負けるのが分かりきってるのだからやりたくもない。

(つーか、何で客人の俺がやってるんだよ。普通はあいつらの役目だろうが!)

そういう意味も込めてロキの肩越しにフェンリル達を睨むが、俺の飛ばす視線の意味を知ってか知らずか、それを無視して奴らはティータイムと洒落込んでいる。


すると、ロキは何を思ったのか俺の胸に人差し指を置く。

……何だろう。嫌な予感しかしない。


「…………ロキ?」

「準備が出来ればいいんだよね?」


ロキは相変わらず笑顔だ。


「いや、やるとは一言も―――――、」

「えい♪」

「ぐっ!?」


指先から低威力の風魔法が放たれ、吹き飛ばされる。

しかし、それだけでは終わらない。ロキは立て続けに風の衝撃波をいくつもこちらに放ち続けけた。

それを見て慌てた様子でニーザが止めに入るも、ロキは止まらない。


「ちょっと、ロキ!アンタ、何して……!」

「まあまあ。」

「まあまあ……、じゃないわよ!あんな事したら、アルシアが怪我して……!?」


ニーザが結界を張ろうとするが、残念ながら少しだけ遅かった。

イラッと来た俺はバフォロスを抜き放つ。


「グオォォオオオオオオッ!!!」


玉座の間に獣の様な咆哮が響き渡り、モヤがロキを襲う。


「おっと。」


ロキが余裕の表情でモヤの攻撃を躱すが、そこに俺がバフォロスの本体で斬りかかる。

突っ込んでくる俺を見て、ロキは楽しげに微笑んだあと、指揮棒のような杖を取り出して俺の一撃を防いだ。

ガンッ!と硬いものがぶつかり合う音が辺りに響くのと同時に、ロキはその口を開く。


「やる気になった?」

「……ハッ。引っ叩いてやる!」

「ワオ、それは楽しみ♪」


ロキが俺を弾き飛ばしながら背中に生える翼から黒い羽根を蒔き散らし、それを見たフェンリル達も渋々ながら臨戦態勢に入る。


「………はぁ。やっぱりこうなるのか。」

「……やるしかあるまい。アルシアにしては頑張った方だ。」

「……ロキの馬鹿。」


やる気満々な自身の王をげんなりとした顔で眺めながら、フェンリル達は同時に溜め息を吐いたのだった。


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