55話 ケブラー防刃服2

ガルバン男爵領の隣にあるクロン男爵領

その領主であるロングの屋敷


「ロング様」

山道を通ってきたからか、服に草があちらこちらにくっ付いている状態のへび顔の男が言った。


「ムラーナか、報告があるそうだな。どうした?」

ロングは、その太った体を揺らしながらへび顔の男の方を向いた。


「はっ、ガルバン男爵領にある砦が男爵軍の襲撃により全滅致しました」


「な、なんだと?! 全滅?! ラオールは?」


「はっ、敵方の大将と一騎打ちの結果、討ち死にしております」


「ば、馬鹿な! あやつに勝てる者がガルバン側に居るというのか?!」


「そういうことになります」


「何という事だ! それでは我が計画が台無しだ! し、しからば……」

ロングの目は狂気を帯びていた。


そう、クロン男爵であるロングは、セレーナを手に入れるため、策を弄していたのだ。

ロングは、ガルバン男爵領内の自分の領地近くに砦を作り、自軍の者を山賊の幹部に仕立て上げた。

そして、近隣の村を襲撃し、被害を拡大させていく。

当然、最も近くに軍隊を持つロングに討伐の協力要請が来るだろうと想定してのことだ。

そして、協力要請が来たときの報酬としてセレーナを要求するというのがこの計画の要旨だった。

だが、ジョセフはロングに疑念をもっており、一向にその要請がロングの元に届くことはなかった……。


そして、ロングは、この計画が失敗に終わったことを、砦の全滅により漸く悟ることとなる。

だが、セレーナに執着するロングは、次の策を実行に移し始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


――祝勝会が終わった次の日


ガルパン男爵の屋敷に1人の付与術師が呼び出された。


「男爵様、ご機嫌麗しゅう」

と白髪の爺さんが言った。


「うむ。ローレルよ、よく来てくれた。そなたに1つ依頼があるのだ」

とジョセフは言った。


「どんなことでしょう?」


「これに物理防御強化を施して欲しいのだ」

と言い、ケブラー防刃服をローレルと呼ばれた爺さんに渡した。


「どれどれ」

とローレルは、ジョセフから渡された服を手に取った。

すると、

「まさか!! これは……」

と巧が予言した通り、その付与術師は驚きに目を見張っていた。

それは、魔法物質以外で魔力が付与されているからであった。


「男爵様、これをどこで?」


「軍事機密だ」


その一言で全てを察したのか、ローレルは押し黙った。


「ですが、何故儂に?」


「信用できる者に任せたいと思ってな」

とジョセフは言ったものの、実情はこの町に付与術師は1人しかいないからだった。


「ジョセフ様……。分かりました。このローレル、人生最高の仕事をしましょうぞ」

どうやら、ジョセフが言った一言がローレルのやる気を刺激したようだ。

ローレルは

(これは、男爵様が秘密裏に開発した素材で作った物。そして、この試作品に付与術が掛けられるか試したいのだ)

だと思った。


「依頼は、ここにある服全てに物理防御強化を施してもらうことだ。そして、費用はこれで頼む」

とジョセフは、山賊が残していた金銀で支払うことにした。


「分かりましたぞ」

とローレルは、男爵からの大口で機密性の高い依頼にやる気満々の様子で去っていった。


その後、騎士団調査隊の3人とジョセフ、巧達3人の計7人が集まっていた。

調査隊の3人と話し合うためだ。

そこで、巧は聞き取り結果と状況証拠、それを分析して導き出された結論を調査隊に話した。


「確かに、お嬢様の婚姻の話は聞いていましたが、そんなことが起きていたとは」

調査隊の隊員の1人が驚いていた。


「そういう事ならば、調査期限も近いことですし我らは帰還します。我らは医療、魔物、魔法痕跡の調査が専門で武力は得意ではありませんので」

と調査隊の隊長が言った。


そしてその日の午後、調査隊は王都へ帰還していった。



――それから3日後


ローレルが再度、ジョセフの元を訪ねてきた。

物理防御強化の施術が終わったからだ。


「こちらが、依頼の品です。しっかりと物理防御強化を掛けておきましたぞ」

ローレルは、50枚のTシャツを取り出した。


「ご苦労だった。これはその代金だ」

とジョセフは金貨を渡した。


「ありがとうございます。ですが、これは糸のような、そうでないような不思議な品ですな」


「悪いが答えることはできん」


「申し訳ございません。詮索が過ぎましたな。それではこれで」

とローレルは、帰っていった。


ローレルが帰った後、ジョセフと巧達3人はケブラー防刃服の性能を確認することにした。

この製品の性能を知っておくべきとスージーが主張したからだ。

ジョセフもその主張に賛同したため、性能評価を実施することにした。

巧は、訓練用に木で作られた案山子にケブラー防刃服を取り付けた。


最初は、普通の鉄の剣から実験を行う。

「では、お借りした鉄の剣で、行きます」

と実験を行うのはスージーだ。


スージーは、体を斜めにして、剣を振り上げた。

そして、一歩踏み込み案山子を袈裟切りにした。


カチィ

やはり、剣は防刃服を切り裂くことができず、防刃服の所で止まった。


「おお~、凄い!」

とジョセフは手を叩いて喜んだ。


「次に、切れ味強化を施した魔法剣、行きます」

スージーは、同じように案山子を袈裟切りにした。


ガチィン

「なっ、止められた……」

スージーは、驚いていた。

流石に切れ味強化を施した魔法剣なら切り裂けると思っていたのだ。

それを見たジョセフは、喜びを爆発させていた。


「最後は、全力で行きます」

スージーはそう言うと、深呼吸をして身体強化、ホーリーサークルで自身を強化した。


「てやーーー!!」

スージーは、完全に断ち切るつもりで案山子を全力で斬った。


ガッチィィィン

ドガッンッ

案山子はスージーの攻撃に耐えられず根本から折れて吹っ飛んで行った。

巧が、吹っ飛んで行った案山子からケブラー防刃服を剥がして、皆の元に持ってくる。


そして、斬ったと思われる場所を示した。

「「う、嘘」」

ケブラー防刃服は、その姿をいささかも変えずにいた。

それを実行したスージーはおろか、ジョセフを含むそこに居る全員が絶句していた。


巧は、改めてケブラー防刃服を詳細に検分した。

「いや、ここに傷が付いてる」

と1筋の傷を示した。

黒いためパッと見では分からなかったが、確かに1筋の傷が付いていた。

だが、巧の行為は、ケブラー防刃服の凄さを誇示しただけだった。


「あれだけの攻撃で、傷がちょっと付くだけ?」

それは、あの悪魔の防御力を大幅に超えるモノだということだ。


「だけど、案山子が吹っ飛んだということは、衝撃は受けているということだ」

と巧は、自分の経験を元に弱点を指摘した。


「確かに……、ということはこれでは爆発や打撃は完全には防げないということですね」

とジョセフはこのケブラー防刃服の性能を理解したようだ。


次に魔法の耐性を見てみた。

だが、当然ながら魔法の耐性は無かった。

しかし、火に強く、電気も通さないという元の特性があるため、火や電撃の魔法にもある程度の耐性が確認された。

また、酸には弱いなどの弱点も判明した。


「勇者様、ありがとうございます。これで我が部隊もだいぶ強くなります。少なくとも剣が効かないとなると心強い」


ジョセフは、次の討伐戦でこのケブラー防刃服を試すつもりのようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る