54話 ケブラー防刃服

――次の日


巧は、朝目が覚めた。

側にはジョセフとスージー、メイベルが横になって寝ていた。

スージーが治療していた3人も居る。

巧は、鎖骨の様子を見るため腕を少し動かしてみた。動かさなければ痛みは無いが、動かすとまだ少し痛みが出る。

(暫く動かさない方が良いかもな)


すると、メイベル、ジョセフが起きてきた。

「勇者様、こちらは大変だったようですね」

ジョセフが昨晩の事を誰かに聞いたのか、巧へ労いの言葉を掛けた。


「幹部3人がことのほか強くて。しかし、1人は逃しましたが討伐完了です」


「やりましたね」

ジョセフと巧はお互いにサムアップをした。


「ですが、これはまだ第一歩です。この他に発生している大規模な盗賊、山賊を徹底的に潰していきます。そして、男爵軍は強いと認識させる必要があります。賊になりたくなくなるようにね」

巧は、そう説明した。


それから、スージー、部隊の全員が起きてきて、砦にある財産となりそうな物を集めていく。

この砦には、結構な量の金貨や銀貨、食料などが貯め込まれていた。

それらを全て砦の外に運び出していった。

そして、全てを運び出し終えると、巧は砦に火を付けさせた。再利用されないようにするためだ。


「我らの勝利だ!! それでは、帰還する!!」

ジョセフが勝利宣言をした。


「おおーー!!」

と圧勝した高揚感のまま部隊員達は応じた。


帰還する最中、

「勇者様、本当に要らないのですか?」

と聞くジョセフに、巧は要らないと返事をした。

山賊討伐の褒美に金銀の一部を渡すというジョセフの提案を巧は断ったのだ。

元は、この近辺の住人のものである。巧は、雇われた訳でもないのに、貰う謂れもないと思ったのだ。


物欲しそうな顔をするメイベルをよそに巧は、

「ジョセフさんのお好きなようにしてもらえれば良いですよ。借金の返済にでも充てて下さい」

と言った。


すると、ジョセフは

「それでしたら、今勇者様が着ている黒い服を50着購入させてください」

と申し出た。

ジョセフは、突入班たちの話により巧の着ている黒いシャツが、山賊のボスの剛剣ですら切り裂けない強靭な物だったことを話したのだ。

ガルバン軍は、身体強化を持つ人間が少ない。

そのため、重量のある金属鎧を身に付けられる人がいないのだ。

ケブラー防刃服を採用すればその状況を改善することができるとジョセフは判断したのだった。

ガルバン男爵軍は現在四十数名である。そのため、予備を含め50着欲しいとのことだった。


実は、照準器付きスナイパーライフルと銃弾、催涙弾とガスマスクは、ガルバン家が所有する魔道具と交換した物なのだ。

その費用は、スナイパーライフル20丁と銃弾、催涙弾数発とガスマスク20個で金貨25枚分である。

巧が、スナイパーライフルで見張りを倒し、催涙弾で敵を無力化した後、制圧するという作戦を提案した時、問題となったのがその費用であった。

その金額を聞いたジョセフは最初、とても無理だと話していた。

だが、魔法剣や魔道具でも支払い可能と巧が言った所、ガルバン家が所有している魔道具ではどうかと言われ、それを見に行ったのだ。

そして、その魔道具は、音楽を鳴らす魔道具であった。

以前、商人に借金をするときにも査定をしてもらったそうだが、小金貨1枚だったとのことで手放すことを諦めた経緯がある品だった。

巧は、その魔道具を査定してみた、するとその金額は2500万ポイントであった。

この魔道具は、趣味のための道具だが特殊な付与術が掛けられたアーティファクトだったのだ。

巧は、この魔道具で全てを賄えると話すと、ジョセフはその魔道具を手放す決心をした。

そして、巧はその魔道具をポイントに変え、作戦実行を可能にするアイテムらを出したのだった。

その時付与されたルピーが7万5千であった。

総ルピーが11万ほどになっていたことを巧は不思議に思っていた。

(あれおかしいな? 確かルピーは0.1%の付与率だったはず)

だが、実際に計算すると0.3%となることがこの時判明したのだ。

(もしかして、シルバーにランクアップしたからか?)

と巧は、ランクアップしたことで付与率が0.1から0.3%に上がったものと推測した。

そしてそのルピーを使って、魔力付与付きケブラー防刃服を購入することにした。

ケブラー防刃服は1着で銀貨4枚である。

魔力付与をするとルピーが1着につき100必要となる。

そのため、50着のケブラー防刃服の価格は、5千ルピー及び金貨1枚となった。

今回は、困っている人を助けるということもあり、ライフルなど既に支払ってもらった分でルピーも賄えるため金貨1枚のみを支払ってもらうことにした。


ガルバン男爵軍がグラッセの町に帰還し、ガルパン男爵家の屋敷で祝勝会が開催された。

久しぶりの勝利に沸く部隊員達。


それを、2階にあるセレーナの部屋の窓から見つめるアンジェラ。

「何かあったのですか?」

外の喧騒を聞き、目が覚めたセレーナがアンジェラに質問した。


「お嬢様、どうやら旦那様が山賊を討伐したようですよ」

アンジェラは、どことなく嬉しそうに言った。


「!!」

驚くセレーナ。


「お父様はご無事なの?」


「はい。ご壮健でいらっしゃいますよ」


「良かった」

安堵した様子のセレーナ。


「それを聞いたら少しお腹が空いちゃった、何か食べさせてくれる?」


「分かりました、お嬢様」

とアンジェラはにこやかな笑みを浮かべ、巧から貰ったリンゴの皮をむき始めた。


祝勝会の後、50着のケブラー防刃服を出した巧は、ジョセフに付与術を掛ける必要性を説明した。

「この服はまだ付与術が掛けられていません。このままでも強靭ですが、まだ完全ではありません」

と言う巧に

「分かりました。ならばすぐにでも付与術師を呼びましょう」

とジョセフは返答した。


そこで、巧は、

「恐らくこの服を見た付与術師は、驚いてどこから入手したか聞かれると思いますので、全部軍事機密と回答して貰えますか」

と依頼した。

ジョセフは、そうする理由が分からなかったが、何か理由があるのだろうと思い、そう回答すると約束してくれた。

巧としては、この現代社会が生んだ技術の塊をなるべく隠しておきたかったのだ。

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