53話 山賊討伐3

「馬鹿な! 隊長! おい! 起きろ!」

と小男が叫んだ。


「隊長!?」

へび男も信じられないというような声を出した。


「てめぇ! 殺してやる!」

髭面の小男が、目の前のメイベルを無視し、巧に向かって走り出した。

そのスピードは速く、メイベルはとても追いつけなかった。

「ダメ、間に合わない。タクミ! 避けて!」


ダメージを負って、俯いている巧に向かう小男を見て、メイベルは自分の無力さを嘆いた。

小男が飛び上がって両方の短剣を上段から巧に向かって振り下ろす。

「ダメ! 止めて!」

メイベルは叫んだ。


だが、そこで巧から身体強化という小さな声が聞こえた。

そう、あの赤銅色の男に勝利した瞬間、身体強化のスキルが生えたのだ。

そして、巧は振り下ろされた2つの短剣を炎の魔法剣で受け止めた。

「ぐぅ。てめぇぇ」

小男は、熱くなっていく短剣に耐えられず、鍔迫り合いをやめ巧から離れた。

巧は、体を起こし剣を構えた。


初めて使った身体強化、その感覚に巧は世界が違って見えた。

映画で良く見るように、世界がスローモーションのように見えるのだ。

巧は、小男に向かって地面を蹴った。

そして、小男の手前で沈み込むと1回転して、剣を小男にブチ当てた。

小男は両手の短剣をクロスにして、巧の剣を受け止める。

だが、その威力は強く小男は浮き上がった。

「ぐぅ」

巧は、すぐさま飛び上がり上段から剣を振り下ろす。

小男は、着地し巧の剣を防御するために両方の短剣を持ち上げた。

ガキィ

小男は、なんとか巧の剣を受け止めた。

だが、ここから炎の魔法剣の真価が発揮される。

燃え上がる炎に小男の短剣が熱せられる。

小男は、両手の短剣で巧の剣を押し返し、短剣を手放し後ろに飛んだ。

熱くて持っていられなくなったのだ。

カランと短剣が地面に落ちる。


得物を無くした小男は、周囲を見渡した。

何か武器が落ちていないか探したのだ。

そして、後ろを見た途端、驚き、顔を青ざめさせた。

そこには、メイベルが鬼の形相で剣を振り上げていたのだ。


メイベルは驚く小男目掛け、冷静に剣を振り下ろした。

ズンッ

メイベルの魔法剣は、小男の体を皮鎧ごと切り裂いた。

恐怖を顔に張り付け、崩れ落ちる小男。


「これは潮時ですかね」

とへび男が小男がやられたのを見ると、するすると離脱し始めた。


「待て」

スージーは追いすがるが、へび男は奥へ奥へと走っていく。

そして、へび男は一番奥にある部屋に入り、鍵を掛けた。


ガチャガチャ

スージーは、ドアを開けようとした。

だが、鍵が掛かっており開けられない。

そのため、スージーは、体当たりでドアをぶち破る方に舵を切り替えた。

ドンッ


へび男は、ドアとは反対側の床付近にある窓を開けた。

奥の部屋にある唯一の窓だ。その大きさはとても人が抜けられるとは思えない小さなものだった。

犬や猫が出入りする、もしくはゴミなどを外に出すために作られたのだろうと思われる。

だが、へび男はその窓に近づくとゴキゴキと肩関節を外した。

そして、蛇のように窓を抜けたへび男は、肩を元に戻し山の向こうへ走り去った。


ドンッ

バキッ

ようやく体当たりでドアを開けたスージーは、部屋の中を見回した。

だが、人影は見当たらない。

そして、開けっ放しの窓を見た。

スージーは、とても人が入れそうもない窓から逃げたとは思えず、部屋の中を警戒しながら探す。

しかし、へび男を見つけることができない。


「まさか、この窓から?」

唯一外と繋がる窓を見て、信じられない面持ちでスージーは言った。

すると、そこに肩を押さえた巧とメイベルが現れた。


「敵は?」


「居ないわ」


「まさか、その窓から?」


「他に秘密の通路がない限り、ここからとしか考えられないわね」


そこに居る全員で、部屋をくまなく調査した。

だが、秘密の通路は発見できなかった。


「この窓から逃げたことは間違いなさそうだな」

と巧は言った。


「追いかける」

スージーが部屋を出て行こうとする。


「スージー待て。相手は実力者だ。それに罠を仕掛けられている可能性もある」

と追いかけようとするスージーを止めた。

そして、巧は痛そうな肩を押さえながら近くの椅子に座り背もたれに寄りかかった。

疲れと痛みで思わず、そうせずにはいられなかったのだ。


「それ、大丈夫?」

スージーは、斬られたとみられる肩を見て言った。

皮鎧の左肩の一部がブランと垂れ下がっていた。


「斬られてはいないけど、だいぶ痛みがある」

と巧は、痛そうにしていた。


「見せて?」


巧は、スージーに言われた通り皮鎧を外した。

するとその下には黒色の淡い光を湛えたTシャツのような服が現れた。


(何これ?)

スージーは、見たことのない服を見て思った。

その黒色のTシャツは、左肩に剣が当たったと思われる傷が少しあったが、ほぼ無傷だった。

(あれだけ皮鎧にダメージがあったのに、この服は無傷なんて、どうなってるの?)

とスージーは、常識外れの状況に理解が追いついていなかった。


そう、赤銅色の男の剣を止めたのは、テラがランクアップした時に出し、物理防御強化の付与術を施したケブラー防刃服であった。

ケブラーとは、結合力が極めて強い高分子の鎖からなる合成繊維のことである。

防弾チョッキにも使われる軽量、耐衝撃性、断熱性が優れる人工製造では最強の繊維なのだ。

その防刃服は、物理防御強化を施され、剣に対して絶大な効果を発揮したのだ。

しかし、使われている生地の薄さから衝撃を吸収する効果はそこまでではなかった、そのため剣が当たった衝撃が肩へのしかかり、そのダメージで巧は腕を上げられずにいた。


巧がケブラー防刃服を脱ぐと鎖骨辺りに大きな痣があり、左腕がだらんと垂れ下がっていた。

「これは、鎖骨の骨折ね」

スージーは、そう言うとメイベルに骨の位置を整えさせ、ヒールの魔法を掛けた。

「ぐぅ」

メイベルに触られている所の痛みに泣きそうになる巧。

だが、次第に痛みが取れていく。


「ふ~。これで良し。でも暫く安静にしておいた方が良いわね」

とスージーは言うと巧は無言で頷いた。


「所で、これは何?」

とスージーが黒色のTシャツを指さして聞いた。


「それは、何というか……特殊な繊維で作られた防具と言うか……」

巧は、ケブラー繊維ってこの世界でどう説明したら良いんだっけ? やっぱり魔法で片づける? などと考えていると、

「あの剣を受け止められるほどの防具なのね?」

スージーは、あの赤銅色の男の凄まじい剣を思い浮かべながら聞いてきた。


「衝撃は来るけど、概ねその通りです」

巧は、痛みと疲労から面倒な説明をする気力がなく適当に相づちを打った。


すると、部屋の中に3人の重傷者が運ばれてきた。

山賊の幹部3人に吹き飛ばされた3人だ。

3人とも生きていたが、3人とも刀傷や骨折があった。

スージーは、それを見ると3人を治療し始めた。


巧は、それを見ながらいつの間にか意識が無くなっていった。

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