52話 山賊討伐2
山賊幹部達との戦いが始まった。
――メイベル対髭面の小男
「うへへへ。俺好みの女だぜ」
髭面の小男が短剣を両手に持ち、気持ち悪い顔でメイベルの懐に入ろうとする。
メイベルは、咄嗟に懐に入られないよう小男の太もも目掛けて剣を振るう。
「おっと、あぶねぇ」
小男は笑いながら、突然加速しメイベルの剣を避けた。
どうやら髭面の小男は、相当メイベルが気に入ったらしい。
逃さないように入口を背にする位置を取っていた。
キィン
数回の攻撃をメイベルに防がれた小男が
「おめぇもなかなかやるじゃねぇか」
と言いながらも、速度でメイベルを翻弄していた。
身体強化を持っている者同士、かつ速度で敵を翻弄する戦いが得意な者同士の戦いであった。
しかし、実力は髭面の小男がメイベルを上回っていた。
(この男、捉えたと思っても突然加速する)
メイベルが斬ったと思っても、不可解な動きで避けられていることが何度かあった。
(何か別のスキルを持っているはず)
だが、髭面の小男は、メイベルを殺すことを初っ端から除外しているような戦い方をしている。
メイベルはそれを数分の戦い中で勘付いていた。そのため、それを逆手に取ろうと考え始める。
だが、メイベルは焦っていた。
自分達が早く目の前の敵を倒さないと巧が危ない。
あの山賊のボスはヤバいと勘が言うのだ
そのため、頭を回転させ自分を上回るこの男の攻略方法を模索していく。
メイベルは、足を止めウォーターの呪文を唱えて小男の足元に向けて放った。
「おいおい、そんな初級のウォーターなんて放ってどうするつもりだ? こんな遅い魔術なんて効かねえぞ?」
メイベルは、数発のウォーターを小男の足元へ向けて放った。
「へへへ。こんなのに当たる馬鹿がいるか」
小男はメイベルが放ったすべての魔法を横へ素早く走って避けると、突然方向転換しメイベルに向けて突っ込んできた。
「いい加減諦めろ」
小男は、2メルテまで近づくと突然加速しジャンプした。
「くっ」
メイベルは、小男の突進をなんとか避ける。
「もう一丁行くぜ」
小男は、すぐさま反転し加速ジャンプで突進してくる。
メイベルは、それを横に飛んで回避する。
実は、メイベルは、罠を仕掛けていたのだ。
小男に向けてウォーターを放つ傍ら、自分の近くに水滴をばら撒いて床を濡らしていた。
そうして、小男がスリップすることを期待したのだ。
だが、小男はあれだけのスピードでジャンプしながらも滑る様子がない。
何故だろうと、メイベルは小男の踏み込んだ場所を見て驚いた。
足跡ではなく、波紋のような何かが破裂したような跡だったのだ。
(まさかこの男の突然の加速の秘密は……エアーボム)
その方法とは、足で床を蹴る瞬間に足底の少し下からエアーボムを出すのだ。
そうすると、足と床の間でエアーボムが破裂し推進力が得られる。
だが、タイミングと位置調整が難しい上に、威力の調節が必要だ。
それを、床に残った波紋の大きさで凡その威力を推測したメイベルは、踏み出す時に足でエアーボムを出してみた。
「きゃっ」
いきなり1メルテほどの高さに飛ばされたメイベルだが、態勢を整えてジャンプ斬りに切り替える。
「何?」
意表を突かれた小男は、上空から振り下ろされるメイベルの剣をを両手の短剣で受け止めた。
「アブね」
小男は、両手の短剣でメイベルを押し返し後方へ跳んだ。
それから、メイベルは持ち前の器用さを発揮して、エアーボム加速を急速にモノにしていく。
ガキィン
メイベルの加速からの剣戟に短剣で迎えうった小男は、
(こいつ、突然加速しやがった。まさか、俺のエアーボムを……)
カキィン
(くっ、動きが早くなりやがった)
それからはメイベルと小男の戦いは、互角となっていく。
――スージー対へび男
「全く、僕はいつも残り物ですね……。ですが、今回は運が良い。貴女のような美人を相手にできるんですから」
と細身の男は、口を三日月にした。
スージーはそれを見た瞬間、背筋をゾッとさせた。
そして、反射的に嫌悪感を感じ、斬って捨てようとした。
ガキィ
「おっと、危ない」
細身の男は、三日月状の笑みを浮かべながらスージーの剣を受けた。
「ふふっ。貴女もなかなかお強いですね~」
細身の男は、何合か剣を交えて楽しそうに言った。
こちらも身体強化を持つ者同士の戦いである。だが、その様相は普通とは異なっていた。
スージーは、フローク王国剣術を幼い頃から習っていた。
この剣術は長い歴史の中で洗練され、対人、対魔物とどんな敵でも対処できるようになっっていった剣術だ。
その幅広い対応力でも、対応しきれないほど変則的な戦い方をするのが、この男であった。
(この男、奇形剣術にも程があるわ)
スージーが剣を振っても、このへび男はぬるっと避けるのだ。
それは、まるでスージーがどこを攻撃するのかが分かっているようだった。
(まるで蛇のような剣術ね、顔もだけど)
スージーは、蛇のような顔をした男に嫌悪感を抱きながらも、剣を振るっていく。
だが、当たったと思っても、ぬるっと避けられてしまい、当たる感じがしない。
「くっ」
それでもスージーは、フェイントを入れたりしながら相手を崩そうとする。
それをへび顔の男は、笑いながら避けていく。
――巧対赤銅色の男
ガキィ!!
「ほう、お前はちょっとマシなようだな」
赤銅色の男は受け止められたブロードソードを上から更に押し込んだ。
巧は、それを押し返そうとするが、重くて押し返せない。
「ぐっ、強い」
剣を挟んでのにらみ合いが続く。
ふと赤銅色の男の剣が離れた。
「ふんっ!」
ガキィ
中段から横薙ぎで振るわれた剣をなんとか受け止めた巧は、この男、強いと思った。
明らかに、身体強化を持っている者の強さだ。だが、どうも遊ばれているようにも思える。
巧が剣を受け止めると、相手の力に押し負けて態勢が崩れる。
だが、そこを追い打ちしに来ないのだ。
前の講師であったアルベルトは、それを見逃さなかった。
そして、態勢を崩されきって負けるのだ。
なのに、この男はわざと態勢が回復するのを待っているように感じられた。
実際の所、赤銅色の男は巧との闘いを楽しんでいた。
(こいつ面白い。身体強化を使っていないのに俺の攻撃を捌いていく)
身体強化は、発動すると体が淡い色に光る。だが、巧の体からはそれが見えない。
身体強化を施してはいないことは明らかだった。
(だが、力が足りてないな。俺の攻撃に押し負けている。惜しいな。こいつが身体強化を得たら強くなっただろうに……。だが、ここで俺に出会ったのも運命。悪く思うなよ)
赤銅色の男は、巧の実力を測り終えると攻勢を強めた。
(来る!)
巧は、赤銅色の男が攻勢に出ることを感じ取り、精神を集中させ、魔法剣の付与術をONにした。
剣から炎が燃え上がる。
「ほう、炎の魔法剣か。厄介だな」
それから赤銅色の男の戦い方が変わった。
むやみに剣を当てなくなったのだ。
赤銅色の男は、炎の魔法剣との闘い方を知っていた。
(鍔迫り合いになると、炎が剣を焼き、熱が伝わって剣を持てなくなる。だから、なるべく剣を当てず、当ても短時間というのがセオリーだ)
「行くぞ!」
赤銅色の男は、1段ギアを上げた。
巧は、押されていた。
赤銅色の男の攻撃が、激しさを増したのだ。
どれも一撃必殺と思える攻撃だった。
「くぅ」
「おらぁ」
赤銅色の男は、上段斬りを繰り出して来た。
巧は、咄嗟に剣を合わせる。
その攻撃は今までになく重く、巧は両手で押し返そうと必死に抗らう。
だが、そこで突然剣への圧が消えた。
巧は、剣を押し返そうと勢い余って足が伸びきってしまった。
「しまっ」
赤銅色の男は、しゃがんだ。
「終わりだ。スキル”獅子の顎”」
そう叫ぶと赤銅色の男は、下から剣を巧に向け振り上げた。
ブロードソードが大きくなったように見え、威力の増した剛剣が迫る。
巧は、両手で必死に剣を防御に向けた。
ガキンッ
なんとか間に合わせたものの、赤銅色の男の剣の威力により、巧の両手と剣が弾き飛ばされてしまう。
「ぐあっ」
と声を上げる巧。
巧の魔法剣は、巧の手を離れ空中を回転していった。
赤銅色の男は振り上げた剣を頭上で止め、獅子の顎の口を閉める2撃目、袈裟切りの構えを取り剣を振り下ろした。
巧は、それをスローモーションで眺めていた。
赤銅色の男は、勝利を確信した。
剣が巧の皮鎧の左肩部分にのめり込んでいくのが見えた。
(このまま皮鎧ごと叩き斬る)
剣は、皮鎧ごと黒髪の男を真っ二つにするだろうと思われた。
だが、剣は皮鎧を切り裂いた所で止まる。
「がっ」
剣の衝撃を肩で受け止めた巧の苦悶の声を出した。
「何?」
赤銅色の男は、己の剣が止まったことを疑問に思った。
ふと、引き裂かれた皮鎧の下に黒い服が淡い光を湛えているのが見えた。
(なんだあれは?)
そこで小さい声が聞こえた。
「査定」
赤銅色の男の剣を何とか受け切った巧は、己の手を離れて床に転がっている炎の魔法剣を”査定”した。
そして、直ぐにキャンセルする。
キャンセルした後に出現させる場所は、勿論自分の右手だ。
そうして、炎の魔法剣を己の手に取り戻した巧は、目の前にある赤銅色の男の腹に力いっぱい剣を突き刺す。
付与術で強化された魔法剣は、鉄の鎧をあっさり貫通した。
スシュッ
「ぐふぅぅぅぅぅ」
赤銅色の男は、自分の腹に刺さった炎の魔法剣を見て何故という顔をした。
黒髪の男の剣は確かに弾き飛ばしたはず、それがいつの間にか黒髪の男の手に戻っている。
しかも、皮鎧の下にあったあの黒いのは何だ?
皮鎧は、切り裂いたがあの黒いのは切り裂けなかった。赤銅色の男は、皮鎧よりも弱そうな服に剣が止められたことが理解できなかった。
見たこともない、不思議な現象に赤銅色の男は巧を見た。
巧は、必死の形相で赤銅色の男を見ている。
そして、赤銅色の男は、腹に突き刺さった魔法剣を腹から抜き取り、腹を押さえふらふらと数歩後退した。
「実力を見間違えたか……。お前の名は?」
「タクミだ。あんたは?」
「赤獅子のラオール」
と言った所で後ろに倒れ、大の字になってこと切れた。
巧は、がっくりと片膝を床に落とした。
ラオールから受けた剣のダメージがかなり大きかったのだ。
だが、同時に不思議と力が湧いて来た。
「なんで?」
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