51話 山賊討伐

――5日後


山賊アジト


「隊長! ガルバンのヤツが隊を率いてこちらにやってきます!」


「馬鹿野郎! ここでは隊長じゃねぇ。ボスと言え!」


「すみませんボス。で、どうしましょう?」


「門を閉め防備を固めろ。それに、魔術師3人と弓部隊を配置に付けさせろ」


「了解しやした」


山賊のアジトは木のない小高い丘の中腹にあり、木造の大きな2階建ての建物であった。

2階部分は、総面積の2/3が屋上となっており、侵入されないよう柵が設けられていた。

そして、その柵には弓や魔法を打てるよう穴が開いていた。

更に2階部分の真ん中には見張り台が設けられている。

到底、山賊の稼ぎだけで作られたとは思えないような堅牢な建物であった。


「あれが、山賊のアジトですか?」


「はい」


巧は、アジトが見える所まで来ていた。

2階の見張り台では、2人の見張りが周囲を警戒していた。

見張り台には、ベルが備え付けてあり、異常が発見され次第すぐに危機を知らせることができるようになっていた。


「あれは、山賊のアジトというより、小規模な砦ですね」

巧は、双眼鏡を見ながらゴクリと唾を飲んだ。


「そうなのです。あれに近づくと魔法や弓が山のように飛んできて、とても近づけないのです」


「なるほど……」


――その日の夜


山賊のアジト


「警戒を怠るなよ?」


「大丈夫ですぜボス、あいつら陣を作ってから一向に動く様子がありませんぜ」


「前回、全く歯が立たなかったことを思い出したんじゃね~か?」


「「ガハハハ、そうに違いない」」


――真夜中


「「「ぐっ」」」

ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ 

ゴツイ照準器を取り付けたサイレンサー付きスナイパーライフルを持ったジョセフが、暗闇の中、寝ころびながらライトの魔法で処分完了の合図を巧に出した。

流石に夜襲を警戒したのかアジトの見張りは4人に増強されていた。

今の練度で大丈夫だろうかと思いながらも、巧とジョセフは作戦の決行を決めた。

というのも、男爵軍狙撃班はまだ訓練を始めて間もない、そのためそれほど命中率が高くはなかった。

そのため、20人にスナイパーライフルを持たせ、誰かが当てるだろうという数撃ち作戦をするしかなかったのだ。

巧は、ダメなら撤退するつもりで、作戦を開始した。

一応、1人1人の狙撃先は決めた。だが、ちゃんと狙い通りに当たったかはだれも分からない。

そんな状況であったが、なんとか4人の見張りを倒すことができた。

カッコよく敵が倒れる所から始まったが、実の所たった4人の見張りに、20人のスナイパーが寄ってたかって攻撃していたのだ。


タタタタタ

ザザッ

「こちら突入班。了解した。これから突入する」

という合図をライトの魔法が使えるメイベルがジョセフに送った。


「見張りは処分した。向こうは今、無警戒だ。行くぞ」

魔法ランタンが煌々と灯る正面扉を目指して巧達20人が静かに移動していく。

そして、巧達突入班20人は、あっさり山賊のアジトの正面扉にたどり着いた。

巧は、その扉をどうやって静かに開けるか考えていると、

「開けたわよ」

とメイベルが扉を前後に動かした。


「あ、ああ。それじゃあ開始するぞ」

巧は、なんで開けられるんだと思いながら、作戦開始の合図を出した。

そして、テラで催涙弾を出して手に持ち、扉を開けて中に2個投げ入れ、突入班20人全員にガスマスクを装着させた。


ヒュ~ン

コンコンコロンコン

プシュー、プシュー

2つの催涙弾は、1Fの大広間に転がっていき、真ん中あたりでガスを放出し始めた。


「「ぐわ~~~、目が目が~~!!」」

「なんだこれっ!! ゴホッゴホッ」

「どうした? ぐおー、目が染みる」


「突入!!」

巧は、突入の号令掛けた。

20人が一斉に山賊のアジトへ突入していく。

大広間には山賊達が大勢おり、皆目と口を押さえている。


「敵、ゴホッゴホッ!」

巧達を見た山賊の1人が声を上げようとした。

だが、催涙ガスがその言葉を詰まらせた。


「てやっ」

催涙ガスによる効果により動きが止まった敵の隙を突き、スージー、メイベルが容赦なく敵を倒していく。


「ふっ」

巧も剣を振るう。

敵は、目も見えず息もしにくい状況で、まともに戦えない。

突入した20人は、面白いようにバッタバッタと敵を倒していく。


周囲にいる全ての敵を倒した巧達は、周囲を見渡した。

催涙ガスもすっかり霧散したようだ。


巧は、かぶっていたガスマスクを外した。

「ふ~~。全員倒したかな?」


スージー、メイベルを含む19人も次々とガスマスクを外していく。


「全員倒したみたいね」

とスージーが言った。


「こんなあっさりと制圧できるとは……」

と付いて来た突入班17人の兵達は驚いていた。


すると、遠くから声が聞こえた。

「見慣れない顔だな、新顔か? 」

「確かにあの3人は、私も見たことがありませんね~」

「うへへ、女だぜ」


巧達は、その声にビクッとして声のする方を向いた。

すると3人の男達が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

どうやら、遠くからガスが消えるのを待っていたようだ。


「あれが山賊のボスです!」

突入班の1人が3人の真ん中を指さした。


山賊のボスは、赤の短髪に赤銅色の体、その逞しい体を鉄の鎧が覆っていた。

そして、右手にはその男の体格に相応しい大き目のブロードソードが握られている。

左側に居る細身の男は、女と見間違うような紫の長髪に、へびのような顔をしている。体には蛇皮のような鎧を付け、何やら怪しい装飾が施された細い剣を目の前に掲げていた。

右側にいる髭面の小男は、上半身だけ皮鎧を付け、軽業師のように両手で2つの短剣を弄びながら笑っている。


「全滅か。やってくれたな。こりゃ~流石に怒られるかもな。でもまあ、お前らを殲滅すれば許してくれるだろ」

と赤銅色の男は、そう言うと鋭い目つきに変え戦闘モードにスイッチを入れた。

「そこの人達、そういう訳です。我らのために死んでください」

へび顔の男は、獲物を狙うへびのような顔つきになった。

「あそこの女は俺が貰う、邪魔するなよ?」

髭面の小男は、メイベルに顔を向け嫌らしい笑みを浮かべた。


それぞれ自分の思惑を言うと3人は、身体強化を施しこちらに突進してきた。


「スージー、メイベル、応戦だ!」

巧は咄嗟に指示を出した。

スージー、メイベルは身体強化とホーリーサークルを掛けて応戦の準備を整えた。


山賊達3人は、自分達の近くに居た3人を吹き飛ばすと、巧達3人に切り込んできた。


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