50話 奇病2
昔から美しいと評判だったセレーナ。
そのセレーナが14歳になったばかりの頃。
隣の領を運営する男爵からセレーナを側室に迎えたいと要望してきた。
「どうするの?」
とイリーナがジョセフに聞いた。
「まさか、相手は45だぞ。14歳のセレーナを嫁に出せる訳がないだろう」
とジョセフは言った。
「貴男がそう判断してくれて良かったわ」
ジョセフが断りの手紙をその男爵に送ると、その後事件が起き始めた。
「何? 山賊が二シールの村を襲っただと?」
ジョセフは、直ぐに自ら50人の部隊を率いてその村に向かった。
だが、そこには既に略奪の限りを尽くされた無残な姿が残っているだけだった。
そこかしこに村人が倒れている。
「惨いですな」
ジョセフに昔から仕えている男が言った。
「うむ。だが、これは山賊ではないな」
「では、誰が?」
「それは分からん。だが、山賊という人種はここまでやらないものだ。また襲えなくなるからな」
ジョセフは、村人を弔い屋敷に戻った。
それからというもの、時々山賊の被害が発生するようになった。
また、それ以降、近隣の貴族や裕福な商人から求婚がひっきりなしに来るようになる。
――セレーナが15歳になった日
「なんだと! 今直ぐ借金を返せだと?」
ジョセフは、今まで襲われた村に復興代としてお金を渡していたが、それを町の豪商にお金を借りて払っていた。
今まで数多くの村が被害を受けていたため、ジョセフには多額の借金があった。
その借金を全て返せと言ってきたのだ。
「馬鹿な! 期限はまだずっと先だったはずだ!」
「それが、急に必要となりましてね」
とその豪商が言った。
「そんな直ぐに返せるわけがない。それに村の復興に使われるなら喜んで貸しましょう。返却はゆっくりで構わないと言っていたではないか!」
ジョセフは、この商人だけはセレーナに求婚してこなかったので信頼したのだった。
「情勢が変わったのですよ」
と平然と言い放つ豪商。
ジョセフが苦虫を嚙み潰したような顔をしていると。
「ですが、たった1つだけ借金をタダにする方法があります」
といやらしい顔で豪商が言った。
「何だ?」
と冷たく返答するジョセフに豪商は、
「セレーナ様を頂ければ借金を免除いたしましょう」
ジョセフは豪商を睨みつけた。
「それでは、良いお返事を」
と言い残して豪商は去っていった。
ジョセフは、騙されたかと一人呟いた。
その一部始終をセレーナは見ていた。
セレーナは、ジョセフがセレーナに届く数多の結婚話を全て断っていることを知っていた。
そして、ジョセフが自分の出世よりも娘の幸せを強く望んでいることに気付いていた。
だが、父の苦悩を見る度に自分が犠牲になればという思いが強くなっていく。
「私、お父様の悩みが解決するのでしたら、お嫁に行きます」
とセレーナが言った。
「セレーナ、見ていたのか。だけどね、私達はお前の幸せを望んでいるんだ。だから気にする必要はないんだよ」
だが、ジョセフは、次々と来る嫌がらせや事件の多さに次第に疲弊していく。
そして、その様子を見てセレーナは思い至る。
(そうだ。私が結婚できない体になれば良いんだ)と。
それからセレーナは、突然1日に1時間程しか起きれない状態になってしまう。
――3日目
巧達だが、今日は外へ出ずに屋敷に居た。
薬屋の婆さんが言っていたことが気になったからだ。
生気がなくなった原因があるはずだと、その調査を始めたのだ。
巧は、初めに執事に話を聞いた。
「そうですね。やはり求婚が多く来ていたことを悩んでおられた風に思います」
と執事は、その当時を思い出して言った。
巧は、次々とメイドや使用人に聞いていくが、大体同じ意見であった。
「やはり、結婚が嫌だったのかな?」
「モテモテの人生も辛いのね」
と自分も美人のくせに他人事の様に言うスージー。
「私もセレーナ様と同じ運命を辿るのだわ……」
と何故か自分とセレーナを重ね合わせるメイベル。
巧は、2人に突っ込んで良いのか、悪いのか悩みながら無言を貫いていた。
そして最後に、セレーナの部屋を訪問した。
セレーナ付きのメイドに話を聞きたかったからだ。
巧が、コンコンとノックをすると、ドアを少しだけ開け、前回対応したメイドが顔を出した。
「何か御用ですか?」
そのメイドは、巧を睨みつけるような目で質問した。
「はい。実は貴女にお伺いしたいことがありまして」
と巧が言うと、そのメイドは少し驚いた顔をした。
「私にですか?」
「はい」
そのメイドは、手を叩いて他のメイドを呼び出すと、少し外すので変わって欲しいと言い部屋を出てきた。
そして、近くの部屋に入ると椅子を並べて巧達に勧めた。
巧達が椅子に座ると、そのメイドは切り出した。
「どんなことをお聞きになられたいのでしょうか?」
「えっと、お名前は?」
と巧は、ぎこちなく名前を聞いた。
なんだか目が怖かったからだ。
「アンジェラと申します」
とそのメイドは冷たく言った。
「実はアンジェラさんに、セレーナさんがこの病気に掛かる前のことをお聞きしたいのです。セレーナさんがこうなる前、何か事件はありませんでしたか?」
「いえ、特に思い当たる節は……」
「セレーナさんは、結婚するのが嫌だと思っていたと聞きましたが?」
「お嬢様は、旦那様がお悩みになっていることを大層気にしておられました。それに、結婚が決まれば嫁ぐ覚悟をお決めになられているようで、嫌だとは思っていなかったように思います」
「ふむ。ジョセフさんは、何に悩んでいたのですか?」
巧は、ちょっと話が変わって来たなと思いながら質問した。
「その当時は、今もですけど、山賊の発生や、領の治安の悪化、それに商人達の嫌がらせなどに悩んでおられたと思います」
「なるほど……。お話しありがとうございます。あっ、因みにリンゴはどうでした?」
と巧はリンゴはどうだったかを聞いてみた。
「大変おいしくて……。あっ」
とアンジェラは途中まで言いかけて顔を青ざめさせた。
贈り物を食べてしまったことを言ってしまったと思ったのだ。
「美味しかったですか? それは良かった」
と巧は笑顔を見せた。
「怒らないのですか?」
と恐る恐る聞くアンジェラ。
「リンゴも腐りますからね。セレーナさんが食べられないなら食べてもらって構いませんよ」
と巧は言う。
ほっと安心した様子のアンジェラ。
「お嬢様も2切ほど食べたご様子でした」
とアンジェラは少し顔が解れた様子で言った。
「そうですか。まあ食べてくれたなら良しとするか。ああ、それなら」
と巧は言い、懐からリンゴを5個出した。
そして、それをアンジェラに手渡した。
「これもどうぞ、メイドの方々も食べてみてください。あと、足りなくなったら言って下さい」
と言い巧は退出した。
アンジェラは巧の行動にあっけに取られ固まっていた。
今までここに来た貴族や商人達は、自分達が送った品をセレーナ以外の人間が触るのさえ嫌がったというのに、あの方は嫌がるどころか私達にくれるとはと驚いたのだ。
そして、肝心の巧は次の目的地、ジョセフの元へ向かっていた。
ジョセフは、自室に籠り政務を行っていた。
巧は、ジョセフの部屋の扉をノックした。
するとジョセフが、扉を開け驚いた顔を向けた。
「勇者様、どうされました?」
と聞くジョセフに、巧は少し話がしたい旨を話した。
ジョセフは、少しお待ちをと言い、自室を出て応接室に向かった。
巧も、それに続く。
応接室の椅子に座り、巧は早速質問した。
「セレーナさんが、この病気に掛かる前に起きたことをお聞きしたいのですが」
「はい、どんなことでしょうか?」
「セレーナさんが病気に掛かる前、何か事件が起きませんでしたか?」
「事件ですか? 特には……」
「突然山賊の被害が発生したり、商人の嫌がらせが始まったと聞きましたが?」
「それは……」
「起きていたんですね? それが起き始めたのは求婚を断ってからですか?」
「!!」
なんで? という顔で巧を見るジョセフ。
「1年以上前からセレーナさんへの求婚が絶えなかったそうですね。そして、それらの求婚を断ってから事件が起こり始めた。正しいですか?」
ジョセフは黙って頷く。
「聞くところによると、セレーナさんはジョセフさん、あなたが悩んでいるのを大変気にしていたそうです」
「で、ですが、セレーナには心配するなと」
とジョセフは言った。
「なるほど。セレーナさんの病気の原因は、それかもしれませんね。その言葉を聞いたセレーナさんは、自分の無力さと自責の念を強く感じた。
そして、自分が原因で貴男が苦しむのをこれ以上見ていられなくなった。だから、自らをあの状態に追い込んだ……」、
「……」
黙り込むジョセフ。そして、暫くして嗚咽が聞こえ始めた。娘に良かれと思って行った行動が、逆に娘を追い詰めてしまったのかと自責の念を強く感じたからだ。
「これから、私はどうしたら良いのでしょう?」
「この事件が始まる前、全てを初めから話してもらえますか?」
と巧は、嗚咽を続けるジョセフに語り掛けた。
涙を流しながら、話しを終えたジョセフは溜まっていたものを吐き出したせいか、心なしか少し明るい表情をしていた。
だが、逆にジョセフの話を聞いた巧は、セレーナを手に入れるために行われた様々なあくどい罠や権謀術数の数々、それに詐欺話を聞き、セレーナって傾国の美女なんじゃと怖くなってきていた。
「も、もし、それが病気の原因だとしたら、セレーナさんの懸念、つまりジョセフさん、貴男の心配事を無くすこと、それが唯一の治療法です」
ジョセフはハッと巧を見た。
「なので、最初にやるべきは山賊討伐ですね」
「勇者様。以前、我々も討伐に向かったのですが、敵のアジトを攻略できず討伐できなかったのです。セレーナに求婚して来なかった周りの貴族達にも援軍要請をしたのですが、音沙汰もなく……」
「ふむ。それなら考えがあります」
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