47話 ランクアップ
巧は、次に背負い袋を購入し始めた。
100個ほど購入した所で、ランクと書かれた所にあるブロンズという文字がシルバーに変わったのに気付いた。
「あれ? シルバーに変わってる」
購入額が大きかったからだろうか、ランクがアップしたようだ。
巧は、早速シルバーを選択しランクメニューを見てみた。
まずランクメニューの利用可能ルピーが、10090となっていた。
ルピー上がり方からすると買った額の0.1%がルピーになっていく感じだった。
更に”ルピーを使う”を選択すると、魔力の付与という項目は変わらなかったが、付与できる範囲が変わっていた。
今までは、記載なしだったのだが、それが全てという表記に変わっていた。
「全てということは、購入できる全ての物に付与できるということか?」
巧は、背負い袋を出すことも忘れて、実験を開始した。
以前はダメだった、中世の平民のようなコスプレ服を購入しようとした。
(ちょっと待った。これに魔力を付与しても意味ないな)
と思い直し、テラの中を見回した。
すると、1つ面白そうな物を見つけた。
巧はそれに魔力を付与して購入した。
以前は、付与をONにした状態だと服は購入出来なかったが、今回はあっさり購入できた。
費用は高めの100ルピーだった。
服が出現する。
その服は、やはり淡い光を纏っていた。
巧は、それを見てニンマリすると、リオが帰ってくるまで棚に仕舞っておくことにした。
そして、背負い袋の購入を再開した。
工房の半分が背負い袋で一杯になると巧は背負い袋の購入を止めた。
「ふぃ~~~。これで500個か。意外に1000個って多いな」
背負い袋を一か所にまとめ終え、疲れた体を休めていると
「ただいま~」
とリオが帰ってきた。
「お帰り。リオ、これを見てくれ」
と巧は先程出した服をリオに見せた。
リオは驚愕に目を目一杯見開いた。
「嘘!! こんなこと有り得ない!!」
リオが見た服は、形状が明らかに巧の世界の服である。
つまりアーティファクトではない、それなのに魔力が付与されている。
それが意味することは……
「どうやったの?」
巧はその言葉を聞いて、リオが巧の仕業だと気付いたことを確信した。
「スキルがランクアップしてできるようになった」
「!!」
その言葉を聞いたリオは、巧をマジマジと見つめた。
そして、この人は本当に勇者なのかもしれないと思った。
「リオ、この服に付与術を掛けて欲しいんだ」
と巧は言った。
「良いけど、どんなのが良いの?」
「魔法防御とか物理防御強化とかかなぁ。あるかは知らないけど」
「物理防御強化ならできるよ」
とリオが言った。
「じゃあお願いして良い?」
「分かったわ。やっておくね」
「お願い。あと、これから防御系の付与術を掛けてもらいたいからなるべく沢山の防具系付与術を覚えて欲しいかな」
と巧はリオに要望を出した。
「分かったわ。ミルトとリリーにもお願いしておくね」
とリオは巧の意図を理解して言った。
「ありがとう。助かるよ」
そこで唐突にリオは、右手の手の平を上にして突き出した。
何か欲しいのだろうか?
「お金?」
と聞く巧にリオは
「練習材料」
そう言われた巧は、魔法鉄ストローを90本出した。
「1人30本に、防御系の付与術を掛ける仕事をしてくれたら、制服代はチャラにすると言っておいてくれ」
「ありがとう。それで説得しておくわ」
リオは、その提案に巧の本気度を感じた。
きっとこれから必要になるのだろう思った。
――次の日
巧は背負い袋を1000個出し終え、背負い袋が溢れかえる程になった工房から出た。
そして、以前と同じように冒険者ギルドに向かった。
また搬送手伝いの依頼を出すつもりなのだ。
今度は、先に東の防壁の門に行き、置き場所を確保した。
今度は1000個だ、以前より広い場所が必要だ。
1つづつシリアルナンバーを確認するつもりはなかった。
大変だからだ。
そのため、今回は騎士団から追いかけられるという脅しだけにすることにした。
冒険者ギルド内で募集を掛ける。
すると、今回は30人程が集まった。
その中に何人かの知っている顔を見つけた。
前回依頼を受けた人物達だ。
「おっ、タクミか。今回もやるのか?」
背は低いがガタイの良いベテラン冒険者が巧の肩を叩いた。
「今回も数が多いので、お願いしに来ました」
と巧が言うと
「今回も稼がせてもらうぜ」
とその冒険者は、片腕を叩いて気合を入れた。
巧は、店に戻り前回と同様の説明をした。しかし、今回の賃金は1個当たり銅貨10枚だ。
また、運んだ背負い袋は、ゴールで待つリオ、ミルト、リリー、メイベルの4人に見せて個数を数えてもらう事と注意した。
数えてもらわないと賃金が払えないことと、盗めば騎士団から追いかけられるぞと脅すことも忘れない。
巧が説明していると、前回の事を見ていたのか観客がぞろぞろと集まり出した。
「今回は誰が一番運ぶんだろうな?」
という観客の声が聞こえた。
それを予想するかけ事を始めるような声も聞こえる。
そして、ぞろぞろと増えていく観客。
しまいには、こんな楽しいイベントをやるなら周知して欲しいという声も聞こえる始末だ。
いつの間にか、誰が一番運べるか比べるイベントと化していた。
巧は、どうせならとそのノリに乗っかる事にした。
「一番運んだ人には追加で小金貨1枚出すぞ!!」
それを聞いた冒険者達がおおーと野太い雄叫びを上げた。
そして、巧は開始の合図を出した。
「開始!!」
「よっしゃー!」
と声が聞こえたかと思うと身体強化を持つ冒険者達が、一斉に10個以上の背負い袋を持ち上げ、物凄い速さで防壁の東門へ向かって行く。
前回、魔術師に負けたの悔しかったのだろう。
今回は負けねぇと言いながら走っていく。
確かに、今回は魔術師は不利だ。
1つ1つがそれほど重くはない、レビテイトを掛ける必要がないのだ。
それより、なるべく多く持つことと往復できる速さ、持久力の方が重要だ。
すると魔術師達は、筋力強化、速度強化などの補助魔法の呪文を唱え始めた。
こちらも、やる気満々だ。
身体強化組に負けじと物凄い速度で追いかけていく。
ーー2時間後
巧は、観客と共にゴールへ到着した。
早速、リオに結果を聞く。
巧は門の前に立ち、数を集計した紙を持って声を出した。
「今回の勝者を発表します!!」
その言葉を待っていた冒険者達が、一斉に巧の方へ向く。
「勝者: レオナルド!!」
「おおー!!」
パチパチパチパチという拍手が起こる。
「「汚ねぇぞ!! A級冒険者が参加するんじゃねぇ!!」」
という声も聞こえる。
確かに、そう言われるのも分かる気がした。
この依頼は、A級冒険者からするとあまり稼げるものではない。
一位になれば小金貨1枚だが、そうでなければ銀貨4枚がせいぜいだろう。
そんなあまり稼げない依頼にこの国最高クラスのA級冒険者が参加するなんてある意味大人げない。
すると1人の黒髪、碧眼を持つ細身の剣士風の男がこちらに向かって来た。
その男は巧の前に立つと、
「レオナルドです」
と名乗りを上げた。
巧は、レオナルドを見て今まで見た冒険者でもトップクラスと思った。
その佇まい、振る舞い、雰囲気が強者と思わせたのだ。
装備も魔法鉄で固められており、明らかに上級者だ。
「背負い袋運び大会、第一位おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「どうしてA級冒険者がこの大会に参加したのでしょう?」
「ハハハ。実は、歩いている途中偶然この大会に出くわしましてね。そして、この背負い袋を見たのです。これは良いとつい欲しくなりまして、どこで入手したか聞くついでに参加したのです」
とレオナルドはその経緯を話した。
「なるほど。それでしたら、後ほどご案内しましょう。ひとまず、仕事を終わらせます」
と巧は言い、閉会の挨拶をした。
そして、運んでくれた人達に賃金を支払った。
「「タクミ、また頼むぜ」」
と冒険者達がタクミに声を掛けて戻っていく。
そして、巧は背負い袋を騎士団に渡した。
個数は996個と4個足りなかった。
盗まれたか、どこかで落としたかだ。
やはり、シリアルナンバーでの管理が必要かもしれない。
騎士団の担当者に残り4つは明日、届けに来ると約束し巧は店に戻ることにした。
レオナルドに声を掛け、皆で店に戻る。
店に戻った巧は、背負い袋をレオナルドに見せた。
「これは素晴らしい!」
レオナルドは感嘆の声を上げた。
巧は、レオナルドに高級品と普及品の違いを説明し、普及品は銀貨3枚、高級品は銀貨6枚、騎士団に納入した品は銀貨4枚で販売すると回答した。
レオナルドは、高級品と普及品を実際に着用し比べその違いを確認して
「なるほど。それでは、こちらの高級品を5つもらいます」
とレオナルドは言った。
「5つ?」
と確認する巧。
「はい。残りのPTメンバーの分と合わせて購入します」
「でもA級冒険者がこんな背負い袋なんか必要なんですか?」
と巧は聞いてみた。
A級PTのウィンドストームは、装備品以外は魔法袋に入れていると言っていた。
そのため巧は、A級ともなれば魔法袋くらい持っているものだと思っていたのだ。
「そうですね。A級になって長いのであれば必要ないかもしれませんね。でも僕たちはA級になったばかりなので、魔法袋を持っていないのです」
とレオナルドは、PTの現状を話してくれた。
「なるほど。詮索してすみません」
と巧は謝罪した。
「いえいえ。それでは、PT5人分で小金貨3枚をお渡しします。小金貨1枚は、もらった物ですがね」
とレオナルドは笑いながらお金を出してきた。
「毎度ありがとうございます」
お金をもらった巧は、工房側に行きテラで高級背負い袋を5つ出して、店側に戻ってきた。
そして、5つの背負い袋をレオナルドに渡した。
レオナルドは、5つの背負い袋を両手に持って帰っていった。
こうして、冒険者達の協力によりあっさりと背負い袋の搬送を終えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます