40話 孤児院2
孤児院に着くと、そこには人気が感じられなかった。
孤児院の内部を見ると、全ての部屋の扉にロープで開けれないよう工作され、各部屋には子供たちと大人が隔離され囚われていた。
ニーヨは、ナイフでロープを切り部屋を開放していった。
孤児院の子供たちは、ニーヨの姿を見て助けに来たのだと喜んだ。
「「ニーヨお兄ちゃんありがとう」」
助かった安堵から涙を浮かべている子も多かった。
「メイベル!! 助けに来てくれたのかい?」
とメイベルに抱き付く人が居た。
もう老齢に差し掛かると思われる女の人だった。
「シスターアン、お久しぶりです」
メイベルは珍しく丁寧な言葉使いで言った。
「助かったよ。ありがとうメイベル」
シスターアンは、涙を浮かべてメイベルに感謝していた。
メイベルは、シスターアンには逆らえないんだろう、困った顔をしながらも退けようとはしなかった。
「あら? こちらの人は?」
とシスターアンは、今気づいたかのように巧に顔を向けた。
「こちらは、勇者候補者のタクミです」
とメイベルはウィンクをしながら巧を紹介した。
巧は、その仕草になにやら嫌な予感がした。
「まあまあ。勇者様が助けに来てくださるとは。これは神のお導きだわ。さあ勇者様、ここには何もありませんがくつろいで行って下さいな」と有無を言わさぬ圧力で巧を奥へ引っ張っていった。
これを見て巧は、シスターアンは思い込みで強引に物事を進めるタイプだなと思った。
そして、シスターアンは、話が止まらないタイプの人間でもあった。
現状の孤児院の状況。
メイベルがお金を支援してくれていること。
過去巣立った者達のこと。
それらをひたすら話し続けるのだった。
それらを黙って聞いていた巧は、退屈な話も多かったが、メイベルの事が知れたことは良かったと思った。
そろそろ夕食の時間となったことで、巧はシスターアンから解放された。
もう一人のシスターレイという人が、シスターアンに夕食の準備をしようと声を掛けたのだ。
「少し待っていてね。夕食をごちそうするわ」
とシスターアンは言って、調理室へ向かって行った。
やっと解放された巧はふぃ~とため息をついた。
「シスターアン、良い人でしょ?」
とメイベルは言った。
「ああ、そうだね。でも、まさかメイベルがこの孤児院を支援しているとは思わなかったよ」
と巧は言った。
「言ったって、信じてもらえないからね」
とメイベルは言った。
「俺、メイベルはお金に汚い人間だと思っていたよ。でもそれは誤解だった。ごめん」
巧は、メイベルに金に汚い人間と思っていたことを謝罪した。
それを聞いてメイベルは、気にしていないわと一笑に付す。
「メイベルに謝罪と孤児院への支援の意味を込めて、魔法剣の代金はチャラにするよ」
と巧は言った。
するとメイベルは目をキラキラさせて
「タクミって良い人ね」
とのたまった。
それを見て巧は、やっぱり金に汚い人間かもと再度思い直すのだった。
それから、巧とメイベルは今後について話し合った。
その結果、スージーが戻ってくるまでここで待機することになった。
メイベルは、薬草や回復ポーションの持ち合わせもなかったし、それらを買うお金もない。
スージーなら初級の回復魔法が使えるため、スージーを呼んでくればケガは回復できるとのことからだ。
夕食が終わり、メイベルは同じケガ人のキキと同じ部屋で療養することになった。
巧は、知り合ったばかりだがニーヨと一緒の部屋だった。
そこで巧は、ニーヨにリオに宛てた手紙とスージーに宛てた手紙を渡した。
ニーヨは、明日巧の店に手紙を届けてくれることを約束してくれた。
巧が何故フローク語の手紙を書けるのかだって?
そんなの指輪の力に決まっているではないか。
日本語で文を思い浮かべ変換と念じるとフローク語の文が頭に浮かぶ。
それを手紙に写すだけであった。
――次の日
巧は、孤児院の子供たちにもみくちゃにされながら遊び相手になっていた。
丁度その頃、スージーは王城に居た。
すっかりおめかしをして騎士の正装を着用したスージーはまるで別人のようだった。
スージーは騎士団長と共に控室におり、出番を待っていた。
そこに近衛兵がやってきた。
「準備が整いました。こちらへ」
2人は近衛兵に連れられて、王宮へ入った。
そこには、既に王、王妃、第一王子、宰相などの重臣達、この王国の重要人物が揃っていた。
2人は、高台の上にいる王の前まで進んだ。
そして、跪き首を垂れた。
「良い、面を上げよ」
と声が掛かった。
「「ははっ」」
近衛騎士団長のラファエルとスージーは揃って顔を上げた。
もう50を超える歳だというのに、相変わらずの精悍さを感じさせる王だった。
「そなたがスージー・ゼタンか?」
「ははっ。私がスージー・ゼタンにございます」
その定型のやり取りが終わると、大臣から今回の活躍のあらすじが語られた。
それが終わると周りの重臣達からも称賛の声が上がった。
「悪魔の出現を察知し無事退治したそなたの活躍、誠に天晴れであった」
とこれまた定型の言葉が発せられた。
「有難きお言葉にございます」
「此度の活躍に感謝の印として、勲章と褒美を取らせる。何でも言ってみよ」
と王が言った。
スージーは少し考えて
「この度の悪魔退治は、私だけでは到底解決できませんでした。仲間であるメイベル、そして、勇者候補者のタクミが居なければ解決できなかったでしょう」
「ほう。勇者候補者か、久しぶりにその名を聞いたな」
「はい。タクミは強くありませんが、特殊な能力を持っており。それを生かして問題を解決する能力があります。
今回の件も特殊な魔法を使い悪魔の居場所を特定しています」
「ふむ。そうか」
王は、少し考えていた。
異世界人は、意外にも使えるようだと認識し始めていた。
「それで、その話と褒美はどう関係があるのだ?」
「ははっ。褒美は、タクミと関係がありますのでお話ししたのです」
スージーは一呼吸置いて要望を話し始めた。
「私の望みは、騎士団のためにもタクミの店を騎士団認定の取引店にしてもらいたいのです」
とスージーは意外なことを言った。
騎士団長は少し驚いた顔をしてスージーを見た。
騎士団長はてっきり、家宝となるような宝物を要望するものと思っていたからだ。
王は、
「ほう。スージーよ。何か役に立ちそうな物があるのか?」
と言った。
王は、レオードからタクミが異世界の品物が出せるということを聞いていたので、少し興味が湧いて聞いてみた。
「ははっ。例えば、テントです。タクミのテントは従来のテントの1/3以下の重量でかつ大人数を収容できます。
それ以外にも、背負い袋があります。これは……」
スージーは得意になって王に説明する。
一通りの説明を聞いた王は、騎士団長と財務大臣に向けて
「お主らに命ずる。スージーの話が本当か確かめよ。本当ならば、褒美にするまでもなく採用するべきだな」
と言った。
騎士団長と財務大臣は承知致しましたと言って頭を垂れた。
「スージーよ。お主の望みは分かった。だが、調査してからになるな」
「ははっ。有難きお言葉」
スージーは頭を垂れた。
「下がって良いぞ」
「ははっ」
こうして、スージーの褒賞式は終わった。
結果的にスージーは何も褒美を貰わなかった。
だが、それで良いと思っていた。
この身は、王国騎士団に捧げているのだ。
騎士団の為になることを要望するのが、最終的に自分の為になるとスージーは思っていた。
そして、スージーは実家へと帰るのだった。
「ハハハ」
王は思い出し笑いをしていた。
「どうしましたか?」
と宰相が聞いた。
「いや、あの異世界人の事だ。使えぬヤツと思っていたが、そうではなさそうだなと思っていた所よ」
「使えないわけではないという所でしょうか?」
「そうだな。まだ最低から低に評価が変わっただけだな」
王は、真面目な顔に変えて言った。
本来は、この世界を魔王の脅威から解放する程の力を期待していたのだ。
これくらいの活躍では、満足などできるはずもない。
そのことを王は思い出したのだ。
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