41話 孤児院3

――その日の夕方


巧は、夕飯の支度を手伝っていた。

昨日の味気のないスープに不満を覚えたからだった。


シスターアンとレイは昨日と同じスープを作っていた。

近くの畑で取れた野菜と塩のみで作られたスープだ。

それを見た巧は、急いで手伝う旨を伝えた。

喜ぶシスター達。

だが、巧の出したカレールーを見た途端、拒否を示し始めた。

見たこともない材料を入れて食中毒にでもなったらと恐怖を感じたのだ。

巧は、大丈夫です、何回も食べてますからと説得した。

そして、説得の甲斐があり作っていたスープに入れる許可を得た。

巧は、ついでにもう1つ窯を借り、ご飯を1升炊くことにした。

テラで米を出し、水をシスターレイに出してもらい米を研ぐ。

そして、窯に研いだ米を入れ水を入れた。

竈に火を入れてもらい、ご飯を炊く。

その傍ら、カレールーを溶かし入れ、とろみが付くまで煮込む。

先に、カレールーが出来、その後ご飯が炊けた。


美味しそうな匂いがする。

普段と違う匂いに惹かれたのか、子供たちが覗き込んできた。

それをシスターアンが、呼び止める。

皿などの準備を手伝わすためだ。


普段と違うからか、興味津々で手伝う子供たち。

そして、食事をする準備が整った。

シスターレイは、用意が良いのか悪いのか食中毒に効く薬草を準備していた。


全員の目の前にカレールーが入った皿が置かれていた。

それを全員が不思議とも思えるような顔をしていた。

匂いは良いが色が変だからだろう。

そして、希望者にはパンではなくご飯が用意された。

その希望者は、タクミとメイベルだけだったが。


そして、神に感謝のお祈りをして食事が始まった。


子供たちは恐る恐るカレールーを掬って口に入れた。

流石に子供たちは怖い物知らずである。

「「「んっ。おいし~~」」」


子供たちは、それから無我夢中でカレーを食べていく。

皆、お代わりが欲しそうだ。

だが、カレーは欲しい者全員に配るほどは残っていない。

そこで巧は、残ったご飯を全てカレールーの入った鍋に入れた。

そしてかき混ぜる。

そう、カレー混ぜご飯である。

あまったご飯と少なくなったカレーを有効に使うことのできる一石二鳥の一品である。

それを、全員に配った。


子供たちは、それを食べた。

先ほどのカレーを食べたせいか、それほどの忌避感はないのだろう。

一口食べて、味を確かめたあとは口いっぱいに頬ばっていく。

「このご飯ってやつも美味しいね」

と子供の1人が言う。


「パンの方が良いよ」

と反論する子供も居る。


「美味しいならどっちでも良いでしょ」

とシスターアンが言った。


「「それもそうだね~」」

とあっさり諍いは調停された。

食事が終わり、子供たちも満足したようだった。


「「美味しかった~。勇者のお兄ちゃん、ありがと~」」

と子供たちは巧にお礼を言った。


「どういたしまして」

巧もそれを返した。


それから巧は、今日のカレールーを50箱、シスターアンに手渡した。

箱に説明が書いてあるが、日本語のため読めないだろうと思って調理の説明をした。

まあ、スープを作った後、火を止めて溶かしその後煮るだけではあるが。

シスターアンとレイは大変感謝していた。

子供たちに好評だったからだ。


その日の夜、巧はニーヨと話をしていた。

ニーヨは、昼間巧の店に行き昨日渡した手紙を置いてきてくれたらしい。

そのお礼として、熊撃退スプレーをニーヨにあげた。

「あの時、ジャミルを苦しめた兵器だ。ただ、気を付けろよ。噴射した付近に居る全員に被害を及ぼすからな」

と巧は、ニーヨに使用時の注意を話した。


ニーヨは、必殺技を会得したような気分になっていた。

そして、あのメイベルすら勝てなかったジャミルを倒した巧をちょっと見直していた。

「分かった。これでここを守るよ」

とニーヨは巧に誓いを立てた。


「ああ、任せたぞ」

巧はそう言ってニーヨに孤児院の守りを任せた。


――2日後


スージーが孤児院に来た。

ニーヨがスラム街の外でスージーが来るのを待っていてくれ、案内してくれたのだ。


孤児院に入ってきたスージーは、

「メイベルはどこ? 大丈夫なの?」

と言って心配していた。


ニーヨがスージーをメイベルの部屋に案内した。

メイベルがスージーを見ると

「スージー、いらっしゃい」

と吞気に言った。


「メイベル大丈夫?」


「大丈夫とは言えないから、早く回復魔法を掛けて欲しいんだけど」


「わ、分かったわ」

スージーがそう言うとメイベルは傷口の布を取り払った。

「これは痛かったでしょう。早く来れなくてごめんなさい」

スージーは、謝罪しながら回復魔法を掛け始めた。


「そんなの良いから早くしてよ」


「でも、貴女に手傷を負わすなんて余程の手練れね。どうやって勝ったの?」


「タクミが倒したわ」


「ええっ!!」

とスージーが驚いた。

その驚きがあまりに大きいため回復魔法が途切れてしまった。

そのリアクションを見て、巧はまあそうだろうなと思った。

スージーは、巧がどうやって倒したかを聞きたがったが、メイベルは目潰しを受けていて良く分からないから巧に聞いてと言う。

数分の時が過ぎメイベルの治療は完了した。

傷痕があったというのが信じられない程綺麗な肌がそこにはあった。

これが回復魔法かと巧はその奇跡のような効果に感動していた。

「スージー、ありがと~。あと、もう1人ケガ人が居るからその子の治療もお願いね」

とすっかり痛みもなくなり元気になったメイベルが言った。


スージーは、同じ部屋に居るケガをしているキキの方を見て分かったと言った。

そして、キキの傷を治療し始めた。

暫くして全ての治療を終えたスージーは、疲れたのか少し休んでいた。

その間、メイベルはキキに何やら話をしている。

巧もニーヨに何かあれば店に来るといいと言い、ニーヨはそれに頷いた。


スージーの休憩が終わると、巧達は家に帰るつもりであることをシスター達に話した。

さすがに3日も開けている、店もあることだし帰らない訳にはいかない。

シスターアンとレイは、助けに来てくれたことを再度感謝していた。

巧達3人は別れの挨拶をして、孤児院を後にした。

先導はメイベルだ、巧とスージーはまだ道が分かっておらず蟻地獄に陥りかねない。


暫く歩くとスラム街を出た。

「ふ~~。やっと家に帰れる」

と巧は安堵の声を出した。


するとスージーが

「タクミ、今回は大活躍だったみたいじゃない」

と言った。


「まあね」


「どうやってあの敵に勝ったの?」

とスージーが興味津々で聞いてきた。

巧はかくかくしかじかで……と説明した。


「な、なるほどそういう方法があるのね」

とスージーが考え込んだ。


「そうなると、ウォーターの魔法で水を掛けるとかありかも」

とスージーが言った。


「そうね。だけど水は透明だから分かりにくいわ。できれば色付きが良いわね」

とメイベルが会話に乗ってきた。

メイベルもまた似たような技を持つ敵が来た場合の対策を考えていたのだろう。

3人は家に帰る間中、ずっと議論をしていた。

そのため、家に到着した時はもう到着したのかと思ったのであった。


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