17話 カオン4

――次の日の朝(4日目)


巧とリオは、今日も市場の端に行って御座を広げ、リンゴを並べ始めた。


すると、1人の女性が近づいてきた。

「そのリンゴを全て貰えるかしら?」

その声は女性のものだった。


「ありがとうございます。1つ銅貨4枚です。いくつご入用でしょうか?」

巧は、その女性を見上げて聞いた。


「全部よ」

と緑色の髪の女性が答えた。


「はい? 全部?」

と巧はその言葉の意味する所を理解するのに時間を要した。


「そう。全部」


「えっ?! 全部ですか?」


「そう言ってるじゃない」


巧は、女性の言っていることをやっと理解した。わたわたと計算し始めた。


「39個ありますので、銅貨156枚となります」

昨日50個出し、11個売り上げたので残りは39個であった。


「分かったわ」

と緑色の髪の女性が代金を支払った。


巧が、リンゴをバッグから出し始めた。そこで、緑色の髪の女性が質問した。


「このリンゴはどこで取れたものかしら?」


「申し訳ありません。言えないのです」

巧は、そう回答した。


「このリンゴをどうやって育てたかも?」


「言えません」

巧は、この人にスキルのことを言ったらまずそうだと思った。


「そう、ならこのリンゴをもっと沢山欲しいって言ったら売ってもらえるのかしら?」

と緑色の髪の女性は、リンゴの秘密に迫ることを諦めた様子だった。あまり追及して逃げられる方が不味いと判断したのかもしれない。


「それはもちろんです」

巧は、そう答えた。


「ありがとう。その答えで十分よ」

そう言うと、39個のリンゴを小さな皮袋に入れ始めた。


「そんな小さな袋じゃ全部入り……」

と巧が言い掛けた所、


「あれ、魔法袋だぜ」

「嘘だろ? あれが小さい袋でも白金貨1枚はする魔法袋なのか?」

と周りの人達が噂していた。魔法袋とは、袋の大きさの数倍~数十倍の容量を収容できる袋のことである。更に超レアなものとして、時間停止機能が付いている物もある。まあ、そんな伝説級の物は個人ではなく、国か宗教団体が所持していることが多いのだが。


巧は、そんな超高級アイテムを持っているこの人は、相当な高位ランクの魔術師なのだろうと思った。そして、全てのリンゴを袋に入れ終わった緑色の髪の女性魔術師は、町の中心部へと去っていった。


「ふぃ~~。何故だか敵に回してはいけない気がした」


「同感……」

巧とリオは強いプレッシャーを感じていたようだ。


「まあ、ともあれ全部売れたぞ」

「うん。そうだね!」

巧とリオは3日分の宿泊費を稼げたことにひとまず安堵した。



次の日から暫く市場でリンゴを売る巧とリオ。だが、リオは忙しくなければ御座の後ろで勉強をしていた。高価であるが故に、新規客にはたまにしか売れない。今は、買っていってくれた人がリピーターになってくれるのを期待するしかなかった。リンゴで稼いだお金は、場所代と宿代に消えていく。そのため、夕飯は巧のスキルで出すことにした。コスパが良いのは麵料理だ。ブルートに聞くと厨房の窯は使っても良いとのことで、そこでラーメンを作ることにした。作るのは生麺を使用した2食入りの醤油ラーメンだ。市場で安く購入した野菜を付け合わせにして、丼の代わりにスープ皿を借りてラーメンのスープを作る。そして、最後に麺を茹でる。茹で時間は自分の体内時計だ。


「さあ、出来たぞ」

と巧は2つ分のラーメンが入ったスープ皿をテーブルに置いた。リオは箸を使ったことがないだろうと思ってフォークを手渡した。


「これは何?」

リオは見たこともない黒色スープに入った麺の塊を見て言った。警戒しているのか、フォークを手にすることも躊躇しているようだ。


「ラーメンだ。うまいぞ」

と巧は言って、フォークで麺を掬ってフーフーしながら器用に食べた。


「う~ん、うまい! やっぱり日本人ならこれだな!」

何とも美味しそうに食べる巧。


それを見たリオも恐る恐るラーメンの匂いを嗅いでみた。

「良い匂いね」


匂いが合格点に達したのか、リオはフォークで麺を掬ってフーフーし口に入れた。

「!!」

信じられない様な目をして、ラーメンを見つめた。

「こんな美味しいの、今まで食べたことない……」

衝撃であったのか、それからのリオは無我夢中でラーメンを口に入れていく。その様子を見ていた巧も食事を再開した。


「ご馳走様でした」

とスープ皿を空にした巧が言った。


「この料理は何て言うんだっけ?」

とラーメンを食べ終えたリオが聞いてきた。


「ラーメンだ」


「これもタクミの故郷の料理なの?」


巧は頷くとリオは

「ヤマトって美味しい物があるのね。滅亡したのが残念でならないわ」

と心底残念だという風に言葉を漏らした。


だが、明日からはスキルで出した料理が夕飯となると巧が言うと、リオは楽しみと嬉しそうに言った。


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