16話 カオン3
――次の日(3日目)
市場の隅っこで御座を敷き(他の人は羊毛の絨毯)品物を並べ始めた。
その品物とはリンゴだった。
前の日、巧は市場でりんごを見つけた。そのリンゴは青く小ぶりであった。時折、リンゴを買ってかぶり付く人がいるが、あまり美味しそうな顔をしていなかったことに気が付いたのだ。そこで、巧もリンゴを買ってみた。1つ銅貨1枚。巧は2つ買って、果物を売っている露店のおじさんにお礼を言い、2つのうち1つをリオに手渡した。
早速リンゴを齧ってみた。
「すっぱいなこれ」
「りんごね。生だとすっぱいの。普通は焼いたりするわね」
どうやら生ではすっぱい物のようだ。
「これだ! これを売ろう!」
巧は、これなら売れそうだと当たりを付けたのだった。
その日、宿に帰った巧は、スキルを起動した。そして、甘い日本産のりんご、葉取らずサン〇じを50個購入した。そのお値段1万ポイントである。1つ200ポイントだ。利益を考えると1つ銅貨4枚は貰いたい。市場で売られているりんごの4倍の値段である。市場の端は、1日の場所代が銅貨10枚であるため、1日最低でも3個は売らないといけない。
「いけるかな、これ?」
巧は、その値段設定に不安を覚えた。味を知らなければ売れないだろう。
「どこでこんなのを仕入れてきたの?」
とリオは散らばったリンゴを見て言った。
「スキルで出したんだ」
巧は、覚醒の儀で得られたスキルは、巧の故郷の物を魔石と交換で出すことができると説明した。何故だかは分からないと理由は不明と説明した。
「そうなの。タクミのスキルはそんなことができるんだね。
あの義足もスキルで出した物?」
「そうだ。あれもスキルで出した物だ。
ただ、このことは黙っておいてくれ」
黙って頷くリオ。
「明日からは、これを売って生活費を稼ぐつもりだ」
50個を持ってきていたバッグに詰めて眠りについた。
巧は、朝市場の受付に赴き銅貨10枚を支払ってお札を受け取った。そして、市場の一番端に御座とリンゴを並べ始めた。だが、いつまで経っても買う人が現れなかった。
当然である。他の店の4倍の値段だ。味を知る術が無い以上、購入をためらうのが普通だった。
「大きくて良い匂いがするんだけどね~、この値段じゃね~」
と見物に来た太ったおばさんが言った。それが、答えだった。
「「売れないな(ね)」」
そろそろ日が傾き始めていた。結局1つも売れなかった。
「銅貨10枚の損だな。どうするかなぁ」
巧は天を仰いだ。
「おっ、赤いりんごなんて始めて見たぜ」
と冒険帰りと思われる3人組の男達が、リンゴを見て言った。
「おい、店主。何故こんなに高い?」
淡く光る銀色の金属鎧を着た背の高い男が聞いてきた。
「これは、特別な育て方をしたりんごです。
その甘さは世界最高峰、生で食べる用に魔法で育てられた物です」
と巧は適当なことを言った。
「ほう、魔法で育てたのか。面白い。今回は稼ぎも良かったし、1つ貰おう」
とその背の高い冒険者が言った。
「ラディック。そんなウソに騙されるなよ。俺はそんなウソには騙されないぞ」
と小柄な冒険者が、巧を胡散臭い目で見ていた。
「ありがとうございます。こちらです」
巧は、サン〇じを1つ手渡して、銅貨4枚を貰った。
ラディックと呼ばれた冒険者は、早速手渡されたサン〇じにかぶり付いた。
「!!」
その瞬間ラディックの時間が停止した。
「どうしたラディック? まさか腐っていたのか?」
仲間の淡く光るプレートメイルを着た冒険者が、心配そうに声を掛けた。
そのラディックは、無言でりんごをプレートメイルの男に差し出した。まるで食べてみろとでも言うように。その意図を汲んだプレートメイルの男は、りんごを受け取り反対側を齧ってみた。
「!!」
その男もラディックと同じように動きを止めた。
「おい、どうした二人とも!」
小柄な冒険者は、何が起きたのか理解できていなかった。
そして、りんごを齧った2人はこう言った。
「「5個くれ」」
と。
「はぁ?」
小柄な冒険者は、さらに混乱した。何を言ってるんだこいつらはというような顔をしていた。
「ありがとうございます。5個で銅貨20枚です」
売れたことに気分を良くした巧の声は少し弾んでいた。
りんごを買った2人はホクホク顔、買わなかった1人は頭にハテナマークを頭に浮かべながら、3人組は町の中心部へと去っていった。2人の冒険者が合計11個買ってくれたことで今日の場所代をペイできた。
「なんとか場所代は稼げたぞ。だが、昼夜のご飯代を考えるとトントンだな」
前途多難だった。
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巧からリンゴを買った3人組は冒険者ランクAのPT:ウィンドストームの冒険者達であった。カオンの南東にある町まで遠征しA級モンスターの討伐を終えてきた。そこで大金を稼いで帰ってきた所に、巧のリンゴを見つけたというのが事の始まりだ。
ウィンドストームの3人はそれぞれ、
背の高い銀色鎧の男:リーダーのラディック
小柄な皮鎧を着た男:コルド
背の高いプレートメイルを着た男:シール
と言った。
ウィンドストームは5人で組まれたパーティーである。ここに名前のない2人は、疲れたと言って先に自宅へ直行した。自宅へは南門から入った方が早いため直接南門へ向かったのだ。残りの3人は、金回りが良くなったことから、市場で酒と美味しい物でも買ってから帰ろうと思い立った。そして、東の門へ遠回りして町に入り、件のリンゴを発見したという訳だ。3人はリンゴを買った後、酒とつまみを調達し自宅へと帰っていった。
高級住宅街にある自宅へと帰ってきた3人は、先に帰っていた2人の部屋を訪問し宴会をしようと誘った。仕事が無事に終わったので、慰労会をするつもりなのだ。
呼びはしたが、3人は残りの2人が来るまで我慢ができず、買ってきた酒とつまみを食べ始めた。そこに残りの2人が入ってきた。その2人は女性であった。1人は魔術師のローブを着た緑色の髪の女性。もう一人は聖職者の服を着たブロンドの髪の女性だった。
「もう、揃うまで我慢できないの?」
と緑色の髪の女性が苦言を呈した。その女性の名はレイナと言った。
「いつものことで慣れてしまいましたわ」
とブロンドの女性が呆れ声で言った。その女性の名はフローラと言う。
これでウィンドストーム全員が揃い慰労会が始まった。男3人が買ってきたつまみはチーズ、パン、肉などガッツリ系の物が多く、疲れていた女性陣はそれを見て食べる気を無くしていた。
「食べないのか?」
とラディックが女性陣に聞いた。
「ちょっと疲れていて、こういう物を食べる気がしないのよ」
とレイナが言った。
「なら、リンゴがあるぞ」
「すっぱいのも食べる気がしないのですわ」
とフローラもだいぶお疲れな様子だ。
「これは、凄く甘いリンゴだぜ。市場の端で売っていた魔法で育てたという特殊なリンゴだ。
食べてみろよ。疲れが取れるぜ」
とラディックがフローラにリンゴを勧めた。
ちょっと興味をそそられたフローラは、そのリンゴを手に取り齧った。
「!!」
驚くフローラ
「これは本当にリンゴですの?! とっても甘いですわ!!」
「だから言ったろ」
とラディックは得意げな顔をした。
2人のやり取りを見ていたレイナもリンゴを手に取って齧ってみた。
「何これ?! こんな美味しいリンゴが存在するなんて!
ラディック、これどこで買ったのか教えなさい!」
とレイナが凄い剣幕でラディックに迫った。
「あ、ああ。市場の東門の近くだ。黒髪の男と茜色の髪の女の子が売っていたぞ」
レイナの迫力に押され気味のラディックが答えた。
「東門の近くね」
レイナの目が光った気がした。
そして、次の日の朝となる。
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