15話 カオン2

――次の日の朝(カオン2日目)


久しぶりのベッドで良く眠れたのか2人は幾分スッキリした顔をしていた。そして、朝食にカウンターまで行き、硬いパンに野菜と肉を取ってきた。巧は、朝食にしては良い物が用意されていたので、シルバーウルフの連中がお勧めと言ったのも分かる気がした。朝食を食べ終え、2人は今日はどうするかを話し合った。その結果、宿周辺の探索、魔法語と付与術に関する情報を手に入れることで一致した。それともう一つ、ここでお金を稼ぐ方法を知る必要があった。ボージに貰ったお金も沢山ある訳ではない、食事を考慮すると追加で5日宿泊したら無くなる計算だ。


つまり8日以内にお金を稼がなくてはならない。


2人は早速、白樺亭を出て周辺の探索を開始した。白樺亭を出て5分くらい歩くとカオンの中央を東西に走る中央通りに出た。この中央通りがこの町の中心だ。そこにはメイン通りにふさわしく商店や劇場などの大きな建物が立ち並ぶ。そして、街の北側に存在する大きな城カオン城、その正門から南に延びて町の中心を通り抜けるのが大手通りである。この通りは軍が城に出入りするために作られた通りであり、軍のためのものである。その通り沿いには、武器、防具、服などの軍関連の大商店が並んでいる。そこから少し奥に入ると、個人商店やギルドといった小型、中型の建物が広がっていく構造だ。そして、中央通りの東の外れにあるのが露店が集まった大市場である。


巧とリオは、まず中央通りを眺めて歩いた。お金が無いので、あくまでも覗くだけであるが、アムの村とは違い3、4階建ての大きな商店が並んでいた。


「すげ~」

「大きい~」

2人はポカンと口を開けて建物を見上げていた。その姿はまるで上京してきた田舎者である。巧は前の世界で大都会に行ったことがあるくせに、このポーズをしていた。西洋風の石建築は迫力があり、思わず見上げてしまったのだ。暫く歩くと、書店を発見した。早速中に入って眺めると、なんと魔法語の本が売っていた。


「リオ、リオ、魔法語の本があるぞ!」


「どこどこ?」


「これだ」


「良いね。これ欲しい」


その本は、牛革で包装された見るからに高級そうな本であった。これを持って歩いているだけインテリと判断してくれそうだ。2人は早速目的のモノが見つかり喜んでいた。が、巧が値段を確認した途端意気消沈した。お値段なんと金貨1枚であった。


「たっかぁ」


「これは無理だね」


2人は魔法語の本を丁寧に元にあった所に戻し、苦笑いをした。その書店は、質の高い本のみを売っていることで有名な書店であった。今で言う高級専門店といった所か。この世界では本は貴重品だ。コピー技術もないため、本は全て手書きである。著作に時間が掛かる上、製本にも時間が掛かる。だから、本は高いのだ。


「付与術の本はどうだろう?」


「こっちにあるわ」

と今度はリオが見つけた。


「これも良さそうな本だけど」

リオが中身をざっと見て言った。


巧が本を開いて中身を見ると、フローク語で付与術の基本から応用まで丁寧に書かれた良本だった、


「これも素晴らしい本だけど……」


「金貨2枚ね」


「無理だな」


こうして、本を入手するという当初の目的は残念な結果に終わった。


「あっ、あれがあるじゃない」

とリオが妙案を思いついたように叫んだ。


「あの、魔法映像記録のヤツ」

リオが思いついたのは人感センサー付きカメラのことだった。


「あれか、あれをここで使ったら、コピーしているってバレると思うぞ。

そうなったら、捕まって牢獄行だ」


「え~、良い案だと思ったんだけどなぁ」

リオはガックリしていた。


巧がふと目線を感じて、そちらを見ると、守衛と思われるガタイの良い人物がこちらを睨んでいた。お金を持ってなさそうな身なりであったし、2人で相談していたことから盗みを働こうとしていたと思われたのだろう。巧はリオに目線で外へ出るぞと促し、急いで本を元に戻し外へ出た。


「どうしたの?」


「守衛が睨んでた」


「それはマズイね」


2人はそそくさと書店を離れた。


「でも、勉強のあてが無くなっちゃったな」

リオは無念そうに呟いた。


「こんなに本が高いとは知らなかったよ」

巧は、現代日本の感覚だったので銅貨10枚か、高くても銀貨1枚程度だと思っていたのだ。


「これからどうしよう?」

リオが心配そうに言った。


「まずは生活基盤を整えよう。金を稼がないと宿にも泊まれないからな」

巧は最悪、テントに宿泊することも考えていたが、それは最終手段だ。


巧とリオは、とぼとぼと歩いて市場にたどり着いた。アムの村と違って、カオンの町では朝、昼、夕の3食が基本であった。歩き疲れた上にお昼時なので、市場で休みながら何か食べようと思っていた。また、市場の調査も行うつもりだ。巧は、スキルで出した物で稼ぎを得ることを考えていたのだ。だが、何を売ったら良いかが分からなかった。そのため、市場を調査してそれを探すつもりなのだ。


市場は盛況だった。お昼時ということもあり、カオン中の人が集まっているのではないかと思う程の人混みだった。あちらこちらから宣伝文句が聞こえてくる。覗いてみると、野菜や果物、パン、ワイン、バター、チーズ、スープなどが売られている。だが、不思議なことに肉が売られている店は見つからなかった。巧は、この世界に来て初めて見る柔らかい白いパンにチーズ、野菜を挟んだサンドイッチのような食べ物を見つけた。とても美味しそうだったので、それを2つ買ってリオに渡した。代金は比較的高く2つで銅貨15枚であった。


「高いけど、美味しそう」

じゅるりと唾をのみ込む音が隣から聞こえた。巧もそれを目の前にして我慢できる気がしなかった。


「頂きます」

2人はサンドイッチにかぶり付いた。


「「うんま~」」

この世界に来て、これほど美味しい物を食べたのは初めてだった。


「高いだけのことはある」


「うん。うん」

2人は夢中でサンドイッチを頬張った。あっという間に食べ終えた2人は、名残惜しく指を舐めていた。


「こんなに美味しい物があるんだね」


「流石都会だ」


昼食を終えた巧は、市場で売られている物を観察していた。

そこでふと目に入った物があった。


そこで閃いた。これを売ろう。

早速、市場で商売するにはどうすれば良いか調べることにした。市場の守衛所へ行き、市場で商売するにはどうすれば良いか聞いた。すると、市場では誰でも好きに商売することができるとのことだ。ただし、肉を売ることはできないということと、場所代を払う必要があるとのことだった。

 肉を売ることができないのは、肉の取り扱いは貴族の専売特許であるからだった。場所代は、町の中心に近い所が最も高く、離れた所が最も安かった。だが、最も離れた所は町の出入口(東側の出入口)に近いため、そう悪い場所でもないとのことであった。


 つまり、市場で商売したければ、当日市場の受付に行って場所代支払い、札を受け取って商売する所に出しておけば良いとのことだ。市場の場所を1年間確保することのできる年間契約もあるそうだが、巧は年間契約をする程この町にいないため、日単位で支払う方を選んだ。一通り市場でのルールを学んだ巧は、一旦宿に帰ってその準備をすることにした。

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