14話 カオン

カオンの町は高さ20メルテの壁に囲まれた東西6キーメルテ、南北4キーメルテほどの城塞都市だ。壁の外側には空堀があり、町に入るためには橋を渡る必要があった。

橋は可動式となっており、いざという時は収納される機構を持っている。この町は、魔王討伐後に魔物殲滅拠点として作られたこともあり、防御態勢は万全であった。そして、中央には高さ30メルテはある城が建っている。


「うお、大きい城があるぞ」

巧は城を見てはしゃいでいた。その姿はまるで観光者だ。


「そう、あれがカオンのお城よ」

リオも隣ではしゃいでいた、こちらも観光者そのものだ。


「タクミ、リオ、あの城には近づくなよ? 衛兵に捕まるからな」

とフィートが忠告をした。巧のようにはしゃいでる者が捕まる所を見たことがあるのだろう。


「えっ? 捕まるんですか?」


「当たり前だ。あの城は伯爵様の住む城だ。衛兵がわんさかいるぞ」


「はぁ~。あんな所に住んでいるんですね~」

巧の感覚では、ああいう城は観光用で誰も住んでいないというのが常識であった。フィートの警告が無ければ、平然と入って掴まっていただろう。そして、町の入り口にたどり着いた。入口に衛兵がいるが検問している様子はない、入門に許可証などが必要という訳ではないようだ。


「遂にカオンの町で来たんだね」

とワクワクが止まらないリオが言った。


「そう言えば、これからどうするつもりですか?」

とガバーナがタクミとリオに聞いた。


「実は、何も考えていないんです。近くに安くて良い宿屋はありませんか?」

巧は当然だが、リオも小さい頃1度来た事があるだけでカオンの町に詳しい訳ではない。そのため、何もかもゼロから始めなくてならなかった。巧は、どこか宿に泊まりながら生活基盤を整えるつもりだった。それなら白樺亭が良いとシルバーウルフの面々が言った。巧とリオは、その言葉に従うことにした。


「白樺亭なら近くだ。帰るついでに案内してやる」

とフィートが案内をかって出てくれた。


屋敷の入り口に着くとフィートが

「ガバーナの旦那、俺たちはここで失礼するよ」

と言った。


「シルバーウルフの皆さん、ご苦労様でした。報酬は冒険者ギルドにお支払いしておきます」


「ガバーナの旦那、またのご利用を。タクミ、リオ行くぞ」


巧とリオはガバーナにお礼と別れの挨拶をした。ガバーナと別れた巧とリオは、シルバーウルフの面々に町の中心部から少し外れた場所に連れられていった。そこには、ホテルとまではいかないが大きな民宿くらいの建物があった。


「ここが、白樺亭だ。良いか。店主には必ず挨拶をしろ。

それさえ守れば、悪い人じゃない」

とフィートが脅すように念を押した。


巧とリオは、挨拶をしなかったらどうなるのか恐ろしさを感じながら頷いた。


「あとタクミ、テントを作ったら冒険者ギルドに連絡してくれ」


「分かりました。冒険者ギルドですね」


「じゃあ、またな」

と言い、シルバーウルフの面々は去っていった。


シルバーウルフと別れた巧とリオは、恐る恐る白樺亭の扉を開けた。その扉の先にあるカウンターには顔を斜めに通る大きな傷を持った強面の男が居た。


「「ひぃぃぃ。こ、こんにちは」」

それを見て悲鳴を上げながらも何とか挨拶を絞り出した巧とリオ。


ギロッ

「何の用だ?」


その眼光とぶっきらぼうな言葉に2人は震え上がった。


「ひっ。あ、あの。部屋をお借りしたいのですが」

巧は何とか要件を言ったが、心の中ではシルバーウルフの連中に騙されたのではと思っていた。


「客か、それなら朝食付きで1部屋銅貨50枚だ」

と店主は言った。


「1泊でですか?」


「そうだ」

当たり前だとでも言いたげな顔だった。その顔も誠に不機嫌そうで、元来の強面を更に強烈にしていた。


「ひぃぃぃぃ。すみません」

と巧は思わず謝ってしまった。


「で、借りるのか? 借りないのか?」

とドスの効いた声で言った。


巧は震えながらもリオにどうするか聞いた。

リオはほかに当てもないから借りようと言った。


「じゃあ2部屋で……」


「1部屋でお願いします」

と巧が全て言う前にリオが声をかぶせてきた。


「1部屋だな。分かった」

と店主は、カウンターの奥に入っていった。


どうして?と聞く巧にリオはパオリまで行かなくちゃならないし、お金が勿体無いでしょと答えた。リオが良いなら良いかと巧は思った。店主が奥から戻ってきた。巧は、自分の名前を台帳に書いて、3泊分の銅貨150枚分を店主に手渡した。その後、店主から206号室と書かれた鍵を渡された。


「朝食はカウンターの横のテーブルに出しておくから勝手に食べろ」

どうやら、ビュッフェタイプのようで、出されたモノを適当に選んで食べるようだ。この世界のことだから、あまり良い物が出るわけでは無いだろうが。


「あの、階段は?」

と巧が店主に聞くと、店主は顎で階段の方を指し示した。


巧とリオは階段を使って206号室にたどり着くと鍵を開けて中に入った。


「はぁ~~~。怖かった~~」

と巧は息を吐いた。


「でも、悪い感じはしないよ」

とリオは既に店主の人柄を見抜いているようだ。


「そういえば、そうかも」

と巧が店主との一連の言動を思い返していた。


個性的な店主とのやり取りを思い出し終え、巧は部屋を見渡した。その部屋は10畳くらいの大きさでベッド2つとテーブルが1つ置かれていた。


そろそろ日も暮れてきた。巧とリオは、持っていた残り少ないパンと干し肉を夕食にして今日は休むことにした。久しぶりのベッドである。巧は、2つのベッドの間に仕切りをテラでだして設置した。無いよりは良いかなと判断したのだ。


そして、2人はベッドで落ちるように眠るのであった。


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