12話 カオンへの道中2

―真夜中


野営場が寝静まった頃、数人の動く人影があった。その人影は何かを探しているようだった。そして、1人が何かを見つけてリーダーに報告した。


「アニキ、ここですぜ。あいつらが建てていたテントは」

人影の一人が指さしたのは、巧達が寝ているテントであった。


「お前ら、テントを奇襲しろ。あの黒髪の男を殺し、女を攫ってくるんだ。女は間違っても殺すなよ?」

リーダーと思わしき男がそう厳命した。

「ぐふふ。俺は万が一のために逃げ道を塞ぐ」

リーダーの役割は逃げ出した獲物を捕まえることらしい。


「「へい」」

部下の男たちは早速、テントの入り口に移動した。だが、奇妙にも夕方にあったはずの入り口が無かった。本当はジッパーで閉められた入り口が存在するのだが、ジッパーの存在を知らないのと暗闇のためそれを見つけることができなかった。


「本当にここなんだろうな? 入り口は」

背の高い男が小太りの男に聞いた。


「間違いない。ここのはずだ。あいつらここから入っていったのを見た」

小太りの男は、巧がテントを張る所からずっと監視を続けていたのだった。


「入り口を探すぞ」

背の高い男が言った。


小太りの男と背の高い男が辺りを探り始めた。小太りの男がとある場所に差し掛かった時、突然警報が鳴り響き、光が男達を照らし出した。


「なっ!」

その警報とライトに驚いた3人は一斉に逃げ出した。


「何事だ!」


周囲の冒険者や夜の護衛達が集まり始めた。警報に起こされた巧もテントを出て周囲を見渡した。だが、そこには既に誰も居なかった。冒険者や護衛達は巧のテントに目を向けながらも自分たちの場所に帰っていった。巧もテントの中に戻っていった。


「ヤバかった。あれは何だ?」

リーダーの男がテントから遠く離れた場所で安堵の声を出した。


「どうしやす?」

と小太りの男が言った。


「あの2人は多分魔術師ですぜ。警戒の魔術を使ってやがる」

と背の高い男が言った。


「仕方ねえ、付けて行って隙を伺う。あんな上玉逃す手はねぇ」

リーダーの男はそう言った。



――次の日の朝


巧とリオは昨日の警告音に起こされてから不安で眠れなかった。襲撃されたのかもしれないと考えたら寝れなかったのだ。寝不足気味となったが、巧は襲撃の対策をしてよかったと思った。その対策はというと、人感センサー付き警報機とライトであった。それをテントの入り口付近に設置、その警報機に近づいた襲撃者達は、その光と音に驚き退却したということであった。更に心配性の巧はもう一つ……。


巧とリオは、眠れなかったこともあり、朝早く昨日助けてくれた商人の元へ行った。


「おはようございます」

と巧は護衛の人たちに挨拶をした。


「ああ、あんたか。昨夜の音は警戒の魔術でも掛けてたのか?」

と護衛の一人が言った。


「その事で、商人さんとプレートメイルの人に相談があります」

と巧は真剣な表情で言った。


「むっ? 雇い主とリーダーか? それならあそこだ。案内しよう」

と護衛の一人が馬車がある場所を指さした。

そして、巧達を先導してくれた。


「リーダー、この者たちが昨日の音の件で相談があるってさ」


「ほう?」

プレートメイルの男としては、なぜ巧達がここに来たか見当が付かなかったのだ。


「はい。昨日の夜中襲撃してきた犯人を捕まえるための協力をお願いしに来ました」


「「なっ!」」

巧達の周りにいる護衛達がざわついた。その理由は、巧が犯人を知っている素振りであったからだった。


「お前は、犯人を知っているのか?」


「はい。知っています」


「誰だ?」


「昨日絡んで来た3人組です」

また周りの護衛達がざわついた。


「それを証明できるのか?」

プレートメイルの男は厳しい目で問うた。それもそうだ。なんの確証もなく、ただ怪しいだけで断罪などできない。


「はい。これを見てください」

と巧が取り出したのは、人感センサー付き防犯カメラだ。実は昨日、このカメラもテントの上に設置していたのだった。朝、巧がこれを確認した所、あの3人の顔がハッキリ写っていた。


「何だこれは?」

とプレートメイルの男は見たこともない道具を訝しげに見ていた。


「これは、人がこれに近づくとその人物を記憶するという魔術が掛けてあります」

巧は、この現代の利器をすべて魔術で片づけるつもりだった。これらの道具を一から説明しても理解はしてくれるとは思えなかったからだ。


巧はこのカメラに写っていた画像数枚をプレートメイルの男に見せた。そこには、あの3人が暗がりの中で剣を持って歩いてくる所や光に驚き逃げる姿が映し出されていた。そう、このカメラによって昨夜何が起きたのか、その一部始終が明らかにされたのだった。


「……………………」

そこに居るすべての人間が無言でその画像に見入っていた。


「このような魔術が存在するとは……、これを見せられては信じざるを得えんな」

とプレートメイルの男が驚き慄きながら言った。

「だが、作戦を行うなら雇い主にお伺いをたてておかないといけない」

とプレートメイルの男は商人の所に行った。

プレートメイルの男と商人が二言三言話した後、プレートメイルの男が帰ってきた。

「OKだ。作戦を立てる」


それから、商人の護衛5人と巧、リオの計7人で、3人の捕縛の作戦が立案、実施された。


「俺はこの冒険者パーティー、シルバーウルフのリーダー、フィートと……」

プレートメイルの男が自分のチームメンバーの紹介をした。


「俺は巧、こちらがリオです」

巧とリオは軽く自己紹介をした。


「それでは、作戦だが……」


それから1時間程して、昨日絡んで来た冒険者風ゴロツキ3人が野営場に入ってきた。

朝の狩をしてきたらしく、手には鳥がぶら下がっていた。外で狩りをして、昨日の件がうやむやになるのを待っていたのだ。


巧とリオ、そしてシルバーウルフの5人のうち4人が男達の行く手を塞いだ。


「お前ら3人にテント襲撃の容疑が掛かっている。ご同行願いたい」

とシルバーウルフの1人が言った。


「ふざけるな! 俺たちはやってねぇ! 誰がそんなことを言ってやがる!」

とゴロツキ3人のリーダーが言った。


「こちらの襲われた2人だ。お前らを見たと言っている」

その一言が発せられた途端、3人はビクッと反応した。


「お前ら冒険者だろ? 同業者の言葉を信じてくれ。俺たちはやってない」


「お前らが襲った時の魔法映像記録がある、言い逃れはできんぞ」

シルバーウルフの1人が人感センサー付き防犯カメラを見せながら決定的な事を言った。


「!!」

言い逃れできないと感じたゴロツキのリーダーが手下の2人の背中を押し、手下を盾にして逃走を図った。

「逃げたぞ!」

シルバーウルフの4人は、手下2人を抑え込み取り押さえた。しかし、ゴロツキリーダーは身体強化の持ち主と見え、あっという間に野営場の出入口に到達しようとしていた。だが、その行く手にフィートが現れた。


出入口に人影を見つけたゴロツキのリーダーは剣を抜き放った。

「どけぇ! ソニックブレード!」

ゴロツキはソニックブレードを放った。


それを見たフィートは口元に笑みを浮かべると、その場からかき消えた。そして、ゴロツキのリーダー近くに出現するとその腹を強打した。

「うぐぅ」

フィートは、うずくまったゴロツキのリーダーを縛り上げた。


ゴロツキ3人は手足を縛られ地面に放り投げられた。それから、野営場の全員でゴロツキ達の処分をどうするかを決めようとした。そうした所、野営場を使用していた別のパーティーの1つがゴロツキ達の財産を貰う代わりに処分を引き受けると申し出た。


「どうもすみません」


「なぁに、良いってことよ。野営場の安全を確保できる訳だし、こいつらの財産も頂戴することができるしな」


巧は、野営場うんぬんよりも財産をゲットすることが目当てだろうと思ったが、ともあれ処分してくれることに感謝した。どう処分されるかは知らないが、良い結果ではないことだけは確実だろう。

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