11話 カオンの町への道中
アムの村を出発した巧とリオは、東に3キーメルテほど進んだ。
すると、小さな街道(街道とは言うものの土が固められているだけの簡易的な道)に出た。
「街道に出たぞ。これを南だな」
と巧は地図を見ながら方向を確かめた。
「巧、あそこにグラスウルフがいるわ!」
とリオが警告を発した。
「街道にも魔物が出るのか!」
と巧は剣を抜いて臨戦態勢に入った。
「魔除けが無いとどこにでも出るわ」
グラスウルフは草原に居る狼型の魔物で、大きさは中型の犬くらいだが、すばしっこく鋭い爪と牙を持つ。
巧は、リオを庇うため前に出た。
「さあ、来い!」
グラスウルフは一直線に巧に向かってくると飛び込んできた。巧は、咄嗟にグラスウルフ目掛けて剣を振った。だが、グラスウルフは空中で態勢を変えると剣先を躱して着地、再度巧の首筋を狙って飛んだ。巧は、間一髪の所でグラスウルフの噛み付きをしゃがんで躱すと、距離を取った。
「グルルルル」
と威嚇するグラスウルフ。
そこから巧と魔物の一進一退の攻防が続いた。
「くっ、素早くて当たらない」
巧は、素早く動くグラスウルフに剣を当てることができない。だが、グラスウルフも巧を捉えきれなかった。
「助太刀するわ。ファイアー」
リオがファイアの魔術をグラスウルフに向かって放った。グラスウルフは視界の外からの攻撃に意表を突かれたが、流石の反射神経でファイアを躱した。
「隙あり」
巧は、態勢が悪くなったグラスウルフに突きを放った。ズンッという手ごたえを感じて、巧はこの戦いの勝利を確信した。ドサッと倒れるグラスウルフ。
「ふ~~、何とか倒せたな。ありがとうリオ」
「どういたしまして」
何とかグラスウルフを倒した巧だが、こんなに苦戦しているんじゃ先が思いやられるなと思った。だが、それからは魔物が出ることもなく、2人は順調に街道を南下していった。20キーメルテほど歩いただろうか。そろそろ日が傾き始める頃になっていた。地図を見ると、この先に野営場があると書いてあった。すると街道の側に看板が設置されているのを発見した。そこには、この先公営野営場と書いてあった。看板の案内の通りに進むと、そこには大きな広場があり、数組が野営の準備をしていた。その野営場の真ん中には祭壇のようなものがあり、小ぶりな魔石が設置されていた。そして、その周りに小粒の魔石がばら撒かれていた。
「これは?」
と巧はリオに聞いた。
「これは魔除け祭壇よ」
リオは先ほど倒したグラスウルフの魔石を祭壇の周りに置いた。
「この魔石は、ここの使用料ね」
この魔除けの祭壇は、魔石を設置することで魔除けの防護が動作し魔物から襲われず安全に過ごせる。この辺の公営野営場は管理人が1か月に1回の割合で訪れ、魔除けの祭壇に魔石を設置、動作を確認して帰っていくのだ。使用者は、この管理者に感謝の印として小さな魔石を置いていくのが慣わしだった。
「それじゃあ、野営の準備をするわよ」
とリオが野営の準備をしようとしたところに3人の冒険者風の男達が横からイチャモンを付けてきた。
「おいおい、そんな少しの魔石でここを使おうとするんじゃね~よ」
と3人のリーダー格と思われる男が言った。
「何よ。魔石の数で野営場の使用許可を決めるなんて聞いたことないわ」
とリオが反論した。
「この野営場は俺たちの縄張りだ。野営場のルールは俺たちが決める」
と左側の小太りの男が言った。
「1人につき魔石1つだ。それ以上はまからん」
とリーダー格の男が言った。
「魔石なんてもう無いぞ。それに、これから真っ暗になる。今から魔物を狩りに行くなんて自殺行為だ」
と巧も怒り顔だ。
「魔石が無いなら、代わりにお前が1晩酌をしろ」
とリーダー格の男がリオを見て言った。
「なっ……」
「ダメだ。リオは貸せない」
と巧はリオが何かを言う前にハッキリと言った。
「はぁ? ふざけるな!」
とリーダー格の男が怒りを露わにした。
騒がしいからか、野営の準備をしていた人達が、徐々に祭壇に集まり始めた。その中から商人風の30代くらいの男が進み出た。
「どうしました?」
「いえ、この3人がこの野営場を使いたければ、1人つき1つの魔石を出せと言うもので困っています」
と巧が状況を説明した。
「野営場を使うのに1人つき1つの魔石が必要と仰るのですか? そんな話は聞いたことがありませんよ?」
と商人風の男が3人に抗議の眼差しを向け言った。
「何だ文句があるのか?」
とリーダー格の男が脅しを掛けた。
すると、プレートメイルの男が商人風の男を庇うように前に出た。
「ここは、公営の野営場だ。それを商売に利用するのはルール違反だということを知らないのか? 悪質な場合は牢屋送りだぞ」
プレートメイルの男がリーダー格の男を睨みつけた。
冒険者風の3人はその迫力に気圧されたのか、後退った。
巧は、プレートメイルの男の実力を測ってみた。正しいか分からないが、それは、リゲル以上ベオーク以下というものだった。因みに3人組のリーダーの男はベイル以上リゲル以下と推測した。後の2人は巧とどっこいだろうと予測した。
「ちっ。お前ら行くぞ」
と不利を悟ったのか冒険者風の3人は自分の野営場所に戻って行った。
「ありがとうございました」
と巧は商人風の男にお礼を言った。
「いえ、公営の野営場を有料にされては私達商人が困りますし、なにより野営場を閉鎖にされたくはありませんから」
野営場が荒れると使用者がいなくなる。そうなると、その野営場は閉鎖となってしまうのだ。野営場が閉鎖されてしまうと、ただでさえ町が少ない地方の過疎地域は安全に宿泊する場所が無くなってしまう。商人にとって、それは致命的とまでは言えないが、行程がより困難になることだけは言えた。より困難になるということは、コストが高くなるということであり、商人としては避けたいことであった。
「そちらの護衛の方もありがとうございました」
「俺は何もしていない、気にするな。だが、あいつらには気を付けた方が良い。何かを狙っているような気がする」
護衛の経験からか、プレートメイルの男は不穏な気配を感じているようだった。
「分かりました。気を付けます」
巧もヤツラが何かを企んでいるような空気を感じていた。
商人たちと別れた巧とリオは急いで野営の準備を始めた。普通、この世界の野営と言えば魔物に後ろから襲われないように大きな木または岩を自分たちの背面にする。そして、落ち葉や枝を集め焚火を前面の備えにして安全を確保するのだ。だが、人間に狙われているかもしれないとなるとそれでは心許ない。そこで、巧はテントを出すことにした。4、5人程度が寝ることができるポリエステル製の中型のテントである。あまりに小さいとどこに居るかが分かってしまい外から攻撃される可能性があるため、中型にして中の様子を分かりにくくする策だ。
「何なのこれ?」
リオが小さく丸まった布を見て不思議そうな顔で言った。
「これはテントと言って、野外で寝るための道具だ。それよりリオは焚火のための枝と葉を集めてきてくれ」
「分かったわ」
リオは、いそいそと落ち葉と枝を集めに行った。
巧は夕日の中、急いでテントを目立たないよう木の間に設置し始めた。
「良し、できた」
巧は、テントを設置し終えた。もうその頃には日はほぼ沈んで辺りは暗くなっていた。
リオは、巧がテントの設置を終わらせる前に焚火と食事の準備を終わらせたようで、ボーっと焚火を眺めていた。巧が、焚火に近寄ると、リオも巧に気付いた。巧がリオの近く、焚火を囲むように座ると、2人は食事を始めた。食事はいつもの硬いパンに干し肉をお湯に入れた簡易スープだ。
「あんな小さい布束が家みたいになるのね」
とリオが感心したように言った。
「俺の故郷の野外に泊まる時に使う道具で、たまに遠出する時に使うんだ」
これはレジャーキャンプのことを言っているのだが、ここでは理解されないと思って遠回しに言った。
「こんな遠くに出たのは久しぶり」
リオは、背伸びをした。どうやら村を出て得た解放感を満喫しているようだ。
「それでは食事も終わったことだし、テントにご案内しましょう」
と巧はおどけた様子で言った。
リオは背伸びからパッと前屈みになった。
「あれの中に入ってみたかったの!」
リオは見たことのないテントに興味津々だった。
「どうぞ」
と巧は高級店のウェイターの仕草でリオをテントの中に案内した。
「う~~~ん。これは快適ね!」
とリオは本能によるものか、ゴロゴロとテントの床に寝転んだ。
「これがあれば野宿も辛くはないわね」
とリオはご機嫌だった。
2人は暫く話をしていたが、疲れていたのか2人はあっさり眠りについた。
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