ベオーク

「その足を何とかすればヒュージベアを倒せるんですか?」

とその黒髪の男は言った。


その時、こいつはこの足を何とかできるのではないかという期待が沸き上がった。そして、奇妙な動作をした後、黒髪の男は金属のような物でできた動物の足のような物を出現させた。王都に居たこともあり、何かを出現させる魔術には見慣れていた。従って、その行為自体に驚きは無かった。


だが、この黒髪の男が出現させた物を見て驚いた。

(この奇妙な足は何だ? こんなモノ見たことないぞ)

俺は以前、王都の騎士団で部隊長をしていた。だが、年齢による体力の低下を感じたことで、引退を申し出た。丁度その時、開拓村の護衛ができる人材が欲しいとボージが騎士団に依頼に来ていた。そして騎士団団長は、俺に開拓村の護衛の仕事を紹介してくれたのだ。俺は、それを受け開拓村に護衛として付いて行くことにした。


長年王都に居たこともあり、道具や魔道具に詳しいつもりだった。それでも、黒髪の男の出した物を見たことは無かった。


「それは何だ?」

俺は奇妙な形をした物を見て言った。黒髪の男は、それを取り付けながら答えた。


「これは義足と言います。義足とは足を失った人が動けるようになるための仮の足のことです」


義足だと? 以前、義足といわれている物を見たことがある。だが、それはこのような形ではなく、木の棒を失った足の代わりに取り付けるだけの簡単な物だったはずだ。それを取り付けても、杖などの補助がなければ歩くことさえままならない代物だ。


「だが、その足は動物のようだぞ?」

と自分が知っている義足とはまるで別物の品を見て感想を漏らした。


「これは運動用の義足です。素早く動けるようこの形になっています」

と巧は答えた。


運動用の義足だと? そんな物が存在するなど聞いたことがない。明らかに、木の棒とは違った複雑な形状をした物を見て、もしかしたら動けるようになるかもしれないと思った。


黒髪の男が義足の取り付けを完了させた。


「取り付け具合はどうですか?」


「問題ないな。痛みなどもない」


「では、動いてみて下さい」


そう言われて立ち上がり動いてみた。

あ、歩けるぞ! 杖もなく歩ける!

そればかりか、走れる! 走れるぞぉ!

動く自由を取り戻した俺の心は歓喜に満ち溢れた。


「確かに悪くない」

と喜びを抑えて黒髪の男に言った。


「良かった」


「まだこの足には慣れないが、早くリゲル達を助けに行かないとな」

森の入口まで走っていけば、慣れていくだろう。問題ない。


そして、俺は剣を持って森の入口目指し走り出した。

「身体強化+発動」

と小さい声で唱えた。すると、通常の3倍の走行スピードになった。


「流石に義足は強化されないか」

以前であったら4倍のスピードが出せるのだが、義足は足首や指の力を使えないため、3倍のスピードしか出せなかった。


「だが、これ以上は贅沢だな」

と折角訪れた行幸に不満を言ったらバチが当たると思った。


「むっ。あれか」

走り出して数分。リゲル達が戦っているのが見えた。


「良し、久しぶりの戦いだ。派手に行くぞ」

見るとヒュージベアがリゲル達を追い詰めていた。ベオークは剣を抜き、ヒュージベアに側面から突っ込んだ。


ヒュージベアは、その気配に気付き、近づいて来る人物を右腕で迎え撃った。


「スキル、一閃!」

俺は、振り下ろされる腕を搔い潜りヒュージベアの腹目掛けて剣を横薙ぎに振りぬいた。その剣は淡い光を灯しながらヒュージベアの腹を深く切り裂き、その大きな体を半分に分割した。


ヒュージベアは「ぐぉぉぉおぉぉぉぉ」と咆哮し倒れていく。


「暫く家に籠っていたからか随分と鈍ったな」

完全に真っ二つにするつもりだったが、2/3ほどしか切断できなかったことに自身の腕の鈍りを感じた。


「ヒュージベアが真っ二つになった」

と突然の出来事に驚くリゲル達。


「ベオークさんだ! ベオークさんがヒュージベアを倒したぞ!」



ベオークの視点終わり



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リード、巧、リオが森の入口へたどり着くと、リゲル達がベオークを囲んでいた。


「ベオークさん、助かりました」

とリゲル達がベオークにお礼を言っていた。


「お礼ならこいつに言ってくれ」

とベオークは巧を指さした。


ハテナマークを浮かべてリゲルは何故という顔をした。


「こいつがこれで動けるようにしてくれたのさ」

ベオークは左足の義足を見せつけるように前に出した。


「それは?」


「これは義足と言って欠損した足を補助してくれる物だ」


真新しいカーボンのブレードがキラリと光った。リゲルは納得がいったように笑みを浮かべた。

「良かった。ベオークさんが復帰してくれたら鬼に金棒だ」

リゲルは安堵した。実は、自分が警備責任者として村の安全を守らねばならないことに不安を抱えていたのだ。


「リゲルよ。ヒュージベアに後れを取るとはまだまだ修行が足りないようだな。これからビシバシ鍛えていくぞ」


げっという顔をしてリゲルは苦笑いを浮かべた。だが、それでもホッしているような顔であった。


その話し合いの脇でヒュージベアの解体を行っていたフロウが10cmほどの大きな魔石をベオークに差し出した。

「これはベオークさんのだ」

例外はあるが、討伐に最も貢献した人間が一番価値のある部位を貰えるのがこの世界の慣例だった。そのため、フロウはヒュージベアの素材で最も価値のある魔石をベオークに手渡そうとしているのだ。


「ああ、済まない」

ベオークはフロウから魔石を受け取ると、今度はそれを巧に差し出した。


「これはお前の物だ」


「えっ?」


「大事な資金を使ったのだろう?」


「聞いていたのですか?」

巧が小声でリオに話したことをベオークは聞いて覚えていた。


「この義足はお前のスキルで出した物か?」


「そうです」


「そのスキルを使うには魔石が必要なのだろう?」

ベオークは今までの経験からそう推測した。


「その通りです」

正確には若干違うのだが、概ねその通りのためベオークの言葉を肯定した。


「これはこの義足の代金だ。受け取ってくれ」


巧はこの村を助けるために、行ったことだから代金は要らないと言った。だが、ベオークは義足だけではなく、自分を復帰させてくれたことを含めたお礼だと言って譲らなかった。頑ななベオークに負け、巧は魔石を受け取った。


「さあ、素材を持ち帰って今日は宴会だ」


「熊肉なんて久しぶりだぜ」

リゲルとリードがじゅるりと涎を啜った。


6人が解体したヒュージベアを担いで村に到着すると村人全員の出迎えを受けた。


「ヒュージベアを倒したのか?」

と村長のボージが聞いた。


「ああ、この6人でな」


それを聞いた村人達は安堵と歓喜の声を上げた。


「ベオーク、その足は?」


「ああ、巧がスキルで作ってくれた足だ。これで動けるようになった」


「そうか。良かった」

ボージは涙を浮かべて喜んだ。ボージとベオークはこの開拓村の初期からおり、幾多の苦楽を共にしたメンバーだ。そのベオークの復活は、ボージのとっても喜ばしいことだったのだろう。


「今日は宴会だ。熊肉を食べるぞ!」

とリゲルが言った。


それを聞いた村人達は次々に歓声を上げ宴の準備に取り掛かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る