第3話 覚醒の儀

――次の日


巧は、夜明けと共に目が覚めた。

そして、周りを見渡すと、

「やはり自分の家じゃない」

と落胆した声で言った。

巧は、寝たら自分の家に戻っているんじゃないかと期待していた。

だが、そうなってはいない。


(ここはどこなんだろう? まさか、あの夢の世界?)

巧は、夢に出てきたあの世界のことを思い出した。

(確か救援を求めていたはず……)

色々原因を考えてみるが勿論結論なんか出る訳がない。


(あの世界に来たのなら、滅亡が近づいているはずだが……)

この村は平和そのものだ、滅亡の気配すら感じられない。

(だが、ヤマトは滅亡していると言っていた。そのヤマトの方から脅威が来ているということか?)

巧は、答えの出ない思考を止め再度眠りについた。



朝の食事をしているとリオが顔を出しに来た。

今日の朝ご飯は、固いパンと昨日のスープの残りだった。

ここの食事は朝、夕の2回が基本だ。

その理由は、食べ物が少なく3食にすると蓄えが無くなるからだということをニージェスから聞いた。

ニージェスは、旅の途中で食べ物を補給しにこの村にやってきたらしい。

だが、貴重な食糧をただでは渡せないとのことで、対価として魔物退治など村の護衛をしているとのことであった。

その約束は1か月とのことで、もう出発できるとのことだった。


「おはよう」

と巧が言うと


「ふん」

とリオはそっぽを向いた。


巧は嫌われたかなと気分が沈んだが、仕方ないと思うことにした。


そして、リオはニージェスの世話を焼き始めた。

そうこうしていると遠くで司祭が到着したとの声が聞こえた。


「来た!」

と言ってリオは外へ飛び出していった。


やれやれと言ってニージェスは飛び出していったリオを見てはため息をついた。

巧は昨日の話で、覚醒の儀の結果によっては、ニージェスはリオを連れて行かなくてはならないのだったなと思い出した。


「覚醒の儀とは?」

と巧は、改めてニージェスにで聞いた。


ニージェスはそれなら見た方が早いなと言い、巧を連れて村長の家に向かって歩きだした。

その道すがらニージェスは覚醒の儀の説明を始めた。


ニージェスの説明では、覚醒の儀は15歳になると受けることができる儀式のことだった。

その儀式を受けると、1人に付き1つのスキルが必ず付与される。

例えば、身体強化、魔力強化、神聖力強化などである。

その付与されたスキルによってどの職業に付くか考えるという訳だ。

ある意味、1人前になるための儀式とでも言ったら良いのかもしれない。

この世界では、己がどの職業に就くかは自由である。

職業選択の自由があるのだ。

たとえ魔力強化をスキルとして持っていたとしても、戦士になることができる。

ただ、そのままでは役に立たないのであるが。


「ということは、15歳以上であれば必ず1つはスキルを持っているということ?」


「大抵はな。だが、状況によってはスキルを持っておらぬ場合もある。山奥に住んでいて儀式を受けてないとかな」


そうこうしている内に、ニージェスと巧は村長の家に到着した。

そこには、人だかりができていた。村人の大半が見物に来ているようだ。

その中心には、キーリン教の司祭と思われる男が子供の背丈ほどの台の前に立っていた。

司祭の手には水晶玉のような物が埋め込まれた杖が握られており、覚醒の儀を前に精神を統一している様子であった。


「さあ、準備が整いました。どなたから行いますか?」

とキーリン教の司祭の男が言った。


この村で、15歳以上で儀式を受けていないのは、2人だけだ。

その2人とは、この村の警備隊隊長の息子であるベイルと件のリオだ。

というのも15歳になる子供が居れば、王都に申請書を出し司祭を派遣してもらうのが習わしだ。

そのため、この村のような小規模の集落だと、1人か精々2人しか儀式を受ける人が居ないというのが常なのだ。

教会が村から派遣要請を受けると、司祭が派遣先一帯を順繰り廻って儀式を行う。

司祭としては手間だが、スキルを身に付ければ国への貢献度が格段にあがるため、王宮から少なかろうが派遣せよという命令が下っていた。


最初は、警備隊隊長の息子のベイルが儀式を受けるようだ。

ベイルは司祭の男に近づいた。


「さあ、目をつぶって神に祈りを捧げなさい」

とキーリン教の司祭の男が言うと、ベイルは目を閉じて祈りの仕草をした。


そして、司祭は呪文のような文言を唱えると、杖の先にある水晶玉が光りだした。

司祭は杖の先をベイルの頭に置いた。

すると、水晶玉の光が強くなり、ハロゲンランプくらいの光となった所で光が収束していった。


そして、光が消えた所で司祭が言った


「おめでとう。君には身体強化のスキルが与えられた」


ベイルの親族と思われる集団から喜びの声が上がった。

やはりなという声も聞こえた。

予想通りだったのだろう。


聞くとベイルの両親は共に身体強化のスキルを持っているとのことだった。

遺伝が影響するのだろうか。


「さあ、次は誰かな?」

と司祭が次を促した。


リオが手を挙げ、前に進み出た。


「では、目をつぶって神に祈りを捧げなさい」


リオは司祭に促されて目を閉じてベイルと同じように祈りの仕草をした。

司祭が呪文を唱えると、ベイルの時と同じように光が溢れた。

司祭は杖の先をリオの頭に置いた。

すると、水晶玉の光が強くなった。

しかし、ベイルの時と違ってキラキラときらめく光であった。


「おお、これは」

と司祭が軽い驚きを顔に浮かべた。


光が収束した後、司祭は言った。


「おめでとう。君には付与術のスキルが与えられた」


おおっ!という声が聞こえたが、その言葉を聞いたリオは絶句して村長の家を飛び出していってしまった。

リオからすれば、魔力強化、魔術適性といった魔術師スキルが欲しかったのだろう。

だが、聞きなれない付与術という魔術師スキルではない物を手に入れてしまったため、ショックを受けたのだ。


「リオ!」

ベイルがリオを追っかけて行った。


「付与術というのは?」

と巧はニージェスに聞いた。


「付与術とは道具に魔法効果を付与するスキルだ。直接戦うには不向きだが、熟練者となればその道具の有用性は大きい」

ニージェス曰く魔道具や魔法剣などを作成するスキルとのことだった。

それなら、リオが落胆するのも無理はないなと巧は思った。

ニージェスと一緒に行く夢がここで断たれたのだから。


最後にアクシデントが発生したが、2人の儀式が終わって皆が家に帰り始めた。

それを見た司祭も片付けを始めようとしていた。


そこで、巧は司祭の所に行き

「私にも儀式をしてもらえませんか?」

とお願いをしてみた。


「見たところあなたは20歳以上と見受けられますが、儀式を受けたことがないのですか?」

と司祭が聞いてきた。


「受けた記憶がありません。なので念のため受けてみたいのです」

と巧は言った。


巧は、覚醒の儀式などという物を人生で1度たりとも受けたことはない。

当たり前である。202Xの地球にスキル覚醒などという不思議なものがあるはずもない。

魔力の無い現代人である巧にこの儀式の効果はない可能性もあるが、それはやってみないことには分からない。


「分かりました」

と司祭は請け負ってくれた。


片付けようと箱に入れた杖を持ち上げ、司祭は言った。


「では、目をつぶって神に祈りを捧げなさい」


そこで、ふと巧は疑問に思った。

それは、どの神に祈れば良いのか? だった。

キーリン教の神など知らないし、巧が思い浮かぶ神といえば日本神話の神か、キリスト教、イスラム教、ヒンズー教などの神だ。

だが、信じているかと言われるとそういう訳でもない。

なので、仕方なくネットに居ると言われているモナー神に祈ることにした。

それが、巧にとって最も身近な神だったのだ。


巧は、祈りの仕草をした。

そして、司祭が呪文を唱え、杖の先を巧の頭に置いた。

すると、光が右左へ行ったり来たりしていた。


「なんだこれは?!」

と驚愕に染まる司祭。


現代人なら、それを見て光通信の信号みたいだなと思うだろう。

それをニージェスは、覚醒の儀式を何十回も見た経験から、巧は何か特別な星の元に生まれた人間ではないかと思った。


光が収束すると司祭は


「ネットショップ??? のスキルが与えられたようです」

と戸惑いながら言った。


「ネットショップぅぅぅ?」

と巧はどういうことだという風に叫んだ。


それを聞いた司祭は、私にも分かりませんとスキルの詳細を説明できずにいた。


ニージェスも聞いたことがないと首を横に振った。


巧は何故ネットショップなんかがスキルとして出てきたのか不思議に思った。


「どうやって使えば良いのですか?」

と巧は聞いてみた。


すると司祭は、通常使いたいと念じれば使い方が自然と頭に思い浮かぶと回答した。

巧は、司祭にお礼を言いニージェスと共に村長の家を後にした。


帰り際、司祭はお供の信徒に、今日は不思議なことが多かったなと言った。

お供の信徒は、この地から救世主が出たのかもしれませんねと冗談を言った。

そうだと良いねと司祭は笑い、次の村へと急ぐのだった。


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