Back Space

のう

Back Space

うーん……」

 私は、パソコンの画面の前で首をひねった。

「なーんか、違うんだよなぁ」

 映し出されたWordの文書の中で会話する登場人物達。みんな可愛くて愛しい、私の大事なオリジナルキャラクターだ。

 このままでも悪くはない。ほわほわしていた空気感で、キャラの味も出ている。

「だけどなんか……ここはもっとコミカルに……テンポのいい会話にしたいというか……」

 スクリーンにそっと触れる。「めっちゃわかるなぁ」で止まった会話。続けさせてあげたい、けれども。

「……ごめんね」

 私はバックスペースキーに人差し指を乗せる。十数行にも連なった場面。労力もかかったし、消してしまうのは惜しいけれども。

「今度はもっと、いい会話にしてあげるからね」

 人差し指に少し力を乗せると、上へ上へと文字は消えていく。白紙へと、どんどん返ってゆく。

彼らの過ごした時間はこうして、何度も無になる。次に紡ぐ時間は、今よりももっと良くなるという可能性のために。そして彼らの時間の命運は、他の誰でもない、私自身にかかっている。

 


数秒の後、バックスペースキーから手を放す。画面には、大部分が白くなってしまった文書。気がめいりそうになるけれど、私はゆっくりと深呼吸して、キーボードに手をかけた。

頭の中にありありと、彼らの人生が浮かび上がる。これから彼らは遊園地にいって。この子とあの子の悩みが解決して。だけどピンチが発生して。

 まだ決定じゃない。また消すことになるかもしれない。それでも。

「……さあ、もういっちょ頑張りますか!」

 また紡ごう、何度でも時間を巻き戻して。より良い人生を、彼らに過ごしてもらいたいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Back Space のう @nounou_you_know

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ