川と白鳥
のう
白鳥を愛した川
白鳥は美しかった
川を静かに泳ぎ
きめ細やかな純白の羽で
水面を優しく撫でる
そんな白鳥は
どこの誰が見ようと美しかった
白鳥は隠していた
己の脚を川の下に
白鳥の脚は決して美しくなかった
短く、黒く、バランスの悪い脚は
外には見せることのなく
川の下に収められていた
川はさらさらと流れていた
白鳥を優しく浮かべながら
毎日静かに流れていた
川は白鳥が好きだった
清らかな雰囲気を漂わせながら
すいすい進む白鳥は
川の一番の自慢だった
川は知っていた
白鳥の脚が黒く短いことを
そして人々が「美しい」と言う上半身は
水面にうっすらと映っているのでしか
見たことがなかった
それでも、川は白鳥が好きだった
それでも、川は白鳥を美しいと思った
いつしか白鳥は川に言った
「貴方には見えないでしょうけど、
私の羽はとても白いのよ
私の脚しか見えていない
貴方にはわからないでしょうけど、
私はとっても美しいのよ」
川はすぐに答えた
「僕には君の羽が見えないけれど
その汚れのない白さは想像できるよ
僕は君の脚しか見えていないけれど
君が美しいことはちゃんとわかっているよ」
白鳥は川を睨んだ
「嘘つき
貴方は……貴方は
私のあの黒い脚しか知らないくせに」
すると川は可笑しそうに揺らめいた
白鳥は少しむっとした
川は優しく凪いだ
「そうだよ、僕は知っているよ
君の美しい黒い脚を
僕だけに見せてくれる
あのとても愛らしい脚を」
白鳥は思わず口を閉じた
二人の間には沈黙が訪れた
暫くして、白鳥が再び口を開いた
「……嘘つき」
白鳥はそれだけ言うと
また静かに泳ぎ始めた
川も、また静かに流れ続けた
川の中で、白鳥は今日も水を蹴る
黒く短い脚で、白鳥は今日も泳いでいく
川は、ただそれだけを感じて流れる
でも、川はただそれだけで
世界中のどんな誰よりも
自分が幸せだと思っている
川と白鳥 のう @nounou_you_know
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