第6話 お勉強中の先輩と後輩

「先輩先輩、ここどうやって解くんすか?」


「あー。これとこれでこおしたらいい」


「……先輩、聞いておいてなんですが、説明下手すぎません?」


「そうか? 結構わかりやすめにしてるが」


「これで、わかりやすめな事に私は驚きを禁じえないっす」



 ほんと、先輩は教えるの下手っすね。頭いい人は、教え方も上手いって噂は聞くっすけど、あれは迷信だったんすね。



「先輩にはがっ、かりです!」


「教えてもらおう側が偉そうにしない」


「いっだ。ノートで叩かないでくださいよ! DVだ、DV」


「三守、DVの意味取り違えてないか?」


「何言ってるんすか、『ダイレクト暴力』の略すよね」


「……」



 先輩に、唖然とした顔をされたっす。な、何か、間違えたっすか? 別におかしくないと思うんすけど。



「お前、やっぱ天然だわ」


「?」


「DVはな、『ドメスティックバイオレンス』の略だ。要は、家庭内暴力な。家庭内って事は、俺らが結婚してる事になるぞ?」


「っ!? も、もちろん知ってますよ!」



 さすがに苦しい言い訳っすよね。しまったー!

 今、私は、『DV』の意味を取り違えてた事と、先輩に遠回しなアプローチをされた事(されてない)、この2つの辱めを受け悶え死にそうっす。あぁぁぁぁぁぁ!! 過去に戻ってやり直したいっすぅぅぅ!!

 恥ずいっす! 恥ずい!!



「そっか」



 こんな時に気をつかはないで欲しいっす。余計惨めになるじゃないっすか。もう……。

 しかし、私と先輩が結婚すか……。先輩は法律上ではできますが、私はまだっすかね。その前にお付き合いを私達はしないといけませんね。



「先輩先輩、私達付き合っちゃいます?」


「まだ待て」


「そうすか」



 私は何やってんすか!?!?

 何でこんな事言ったんすか!?!? 恥ずかしさのあまり、気でも動転してんすか!? 恥ずかしい恥ずかしい! 今、家なら転げ回っていましたよ!

 ていうか、振られた判定? それとも脈あり判定? 

 どちらにしろ、恋人にはなれていないです!! とにかく、先輩には冗談で言ったって思われてるっすよね? じゃないと私が、死にます。


 うぅ。空気が妙っす。原因はもちろん私なんすけど……。先輩と2人きりだというのにこんなに静かなのは久しぶりですよ。前は喧嘩した時っすね。そう言えば、喧嘩したのに、何故か疎遠にならずいつも通りにお昼も一緒で登下校も一緒でしたね。あれは、今思えば喧嘩してるとは言えないっすね。いやでも、無言貫いてましたし、喧嘩ですかね。



「な、なぁ、三守」


「は、はい!」


「いや何でもない」


「そ、そうすか」



 ダメですー!! お互いなんか変に意識してるっす!! どうしましょうどうしましょう。こうしてしまった原因は私です! なら、私が、戻さないでどうするんすか。



「せ、せんぴゃい」


「……」



 そんな目で私を見ないでください! 自分でもわかってるっす、変顔晒すのが、乙女にあるまじき事だとか、この雰囲気の中で変顔をしている事とか。いろいろひっくるめて、今めっちゃ泣きたいっすけど、我慢すよ。



「ぷっ、あはははは。まったく……。三守は、いい後輩だよ」


「ありがとうございます」


「こんなの俺達らしくないな。ちょっと待ってろ……ほらどうだ!」


「ちょ! ぷっ、あははははは。似合わないっす!」



 先輩も私のように変顔を晒してくれました。ほんとこの先輩は……。もっと好きになるじゃないっすか。

 しかし、先輩に変顔は似合わない! これだけは言えますね! ほんとおかしい。



「ならこれはどうだ!」


「あはははは!! ダメ! お腹いたいです」


「鏡持ってないか? 自分でも見てみたい」


「あぁ、ありますよ。どうぞ」


「ありがとう。お、おぉ。自分で見るとかなりイタイな」


「でしょー」


「三守に言われると腹立つなぁ」


「先輩、いだいいだいー」


「大人しく、頭ぐりぐりされてろ」


「されるわけないっすよー!!」



 力加減くらいしてくださいよ! 結構痛いんすから。 とりあえず、部屋の中をぐるぐると逃げ回ります。生憎、一瞬されたくらいで、逃げ出せれたのはよかったっす。そのおかげで、私の脳みそは無事です。私の灰色な脳細胞も無事一命を取り留めたっすよ。



「ほら、お茶。走り回って疲れただろ」


「ありがとうございます先輩」


「一気に飲むなよ」


「ぷっはー!! 美味しいです」


「……。いい飲みっぷりだ」


「動いた後の1杯は最高なんすよ」


「……サラリーマンみたいなこと言うな」


「実際動いたんすから、いいじゃないっすか」


「じゃあいいか」


「ほら先輩も」


「なら、遠慮なく」



 先程、私がお茶を飲んだグラスにお茶が注がれ、それを先輩もぐいぐいっと飲み干す。ちょっとくらい意識してくれてもいいのにー。なんで、鈍ちんをここで発動しちゃうんすかね。信じられないっすよ。



「先輩もいい飲みっぷりっすね」


「三守の言った通り、動いた後の1杯は最高だな」


「でしょー。私は、嘘言わないっすー」


「だな」


「さ、勉強再開だ」


「えー、もう疲れたっすからいいっすよ」



 正直、勉強はもういいっす。それよりも、先輩とダラダラおしゃべりしときたいんすよ。この乙女心をわかって欲しいものです。わからないでしょうね……。

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