第2話 放課後に先輩と後輩
「先輩行った行ったー」
「三守ちゃん、おかえりー」
「ただいまっす」
「窓から見てたけど、距離感おかしいよー」
「距離感がおかしいのはわかってはいるんすけど、今更変えるに変えれないすからね」
「いいなぁ。晴海せ……ごほん。白城先輩かっこいいし、優しいしでほんと羨ましい!」
別に顔目的でいつも一緒にいるってわけじゃないんすけどね。一定数、そう思われているのは知ってはいます。けど、やっぱりこちらとしてはそう思われたくないっすからね。しかし、先輩もなかなかにこの学校では有名人ですし避けて通れないっすけど。
「まぁ、先輩の後輩は私だけっすから。にしし」
こういう無邪気な返信がこういう場合は無難っすかね。言い方次第で、敵は多くなりますが、生憎、私はそういう事言いそうと思われているようですから、これだけじゃあ、波風は立たないっすね。それに、私たちは付き合ってると勘違いされています。だからある程度は仕方ないかと容認されるっすね。個人的には都合がいいので否定して周ったりはしないっすよ。
しかし、交友関係とはなかなかに難しいっすね。これは戦略的な読み合いをしているようで、疲れる。早く、先輩と無駄話したいっすよ。
「そうだ! この後、どっか行かない?」
「これから?」
「うんうん」
「すみません。先約があるんす」
「もしかして」
「たぶん思ってる通りっすね」
「ずるーいずるいー」
「仕方ないじゃないすか、もう約束してるんすから」
まぁ、気持ちはわからないでもないっす。あー、やめてほしいっす。服が伸びるー。
「でも仕方ないか。付き合ってるんだもんねー」
「あはは…」
と苦笑いで誤魔化すのが精一杯っすけど、いつか肯定できたらいいんすけどね。私は先輩の事好きっすけど、先輩はどうなんすかね。拒否されないのは少なくとも嫌いではないと思ってるっすけど。先輩基本、表情筋かたいっすからね。
「じゃあ、行ってくるすよ」
「いってらー。後で詳しく聞かせてねー」
「はは、言わないっすよ」
「あー! 教えろー!」
これ以上聞いてると、クラスの女子全員が入ってるメールアプリのグループで赤裸々に話さないといけなくなるっす。さすがにまずいっすよ。前、これで赤っ恥かいたっすから同じ過ちは繰り返しません。
それに『逃げるが勝ち』という言葉もあります。これは戦略的撤退なんすよ。
◇◇◇
「先輩先輩、だーれだ」
「だ、ダレダロウナー。ワカラナイカラ、ニオイヲカイデミルシカナイナ。ウン。シカタナイカラナー」
「……うっわ。きんも。まじキモいっす。半径1メートル以内に近づかないでください」
「仕方ないじゃないか、匂いを嗅がないとわからなかったんだから」
「もっとやりようはあったはずっす! てか、絶対わかってたっすよね!」
「あははは。何のことやら」
「目を逸らさないでくださいっす。もう白状してるようなもんじゃないっすか」
「さて、帰るか」
「先輩、ほんとバカっすね」
「バカゆうたやつがバカやねん」
「何故にエセ関西弁」
「昨日、バラエティ見てたら芸人さんが使ってた」
「ミーハーすね。ま、わからないでもないっすけど」
先輩は、顔はいいはずなのに絶妙にキモいのがほんと面白いっすよね。たぶん、先輩も狙ってやってるんだと思うんすが、そのおかげで本音をぶつけてもいいラインまで関係を落としてくれるっすからこちらとしては大変助かるっすよ。
「さて、今日こそは負けへんで」
「エセ関西弁続行なんすね」
「意外に使ってみると楽しいぞ。三守も使ってみな」
「いやー、遠慮させていただきます」
「敬語使われると虚しくなるじゃん」
「先輩は、もう少し頭を使いましょう。いいですね」
「え?」
「いいですね」
「はい……」
「ならいいっす。さて、先輩のうちすね」
「さ、入って入って」
『入って入って』じゃないっすよ。ほんとに! 毎回、結構緊張してるんすからね。女子をうちに連れてくるのってだいたいあれじゃないっすか。しかも私たちそういうお年頃なんすよ! 結構緊張してるのに毎回何もないまま終わるから心情複雑なんすよ。まったく。恋人じゃないから当然かもしれないっすけど……。
「おじゃまするっす!」
「げ」
「うわ」
「ん? どした?」
「な、何でもないっすよ」
「そっか」
『そっか』じゃないが!?
何でここは鈍ちんなんすか! 私がちょっとおかしいのくらい気付いてくださいよ! 先輩!
しかし、何でよりによって先輩の妹さんいるんすか! 私たち結構相性最悪すよ。というか、私は近づきたいのに、妹さんが威嚇してくるんすよ! しかも、先輩の見てないところで。かんじわるいっすよ! まじ!
「何しにきやがった、メス猫」
先輩に聞こえないように、ボリューム小さめで私が隣通った時に耳元で言われたんすよ。恐怖すよ!
「遊びにっすよ! 遊びに来ちゃだめなんすか! て言うか、毎回言ってるっすよね!」
私も先輩に聞こえないように必死に抗議をするがダメなようで、怪訝な顔をされた。もう嫌だ。この子ほんと怖すぎるっす。
「お兄ちゃーん。この人が睨んできてこわーい」
怖いのはあんたっすよ! 何、猫被ってるんすか! これだからこの子は信用できない。
「あ、あぁ。そうだな。よし、三守、俺の部屋行くか」
「そ、そうすね。今日も勝ちますよ!」
さすがに、猫被っている事は先輩も薄々気づいているようっすね。よかったっすよ。味方がいて。もう、リビング怖いんで、早く先輩の部屋行ってゲームするっすよ! 今日も吠えずらかかせてやるっす!
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