礼儀作法


 今やっている授業は礼儀作法。


 貴族や王族には避けて通れない分野。


 庶民と我々はそこが違う。


『王女はティーカップを摘んで持ちます、はしたなく指を通しては行けません』


 王子が王女としての所作を学ぶ意味とは?


 みんなそれなりにカップを持っている。


 特にカノンは真剣そのものだった。


 俺はやったことがないので手が震えた。


「そろそろテストも控えています、普段から王女としての振る舞いを心掛けるように」


 だから王子なんだって俺達は。


 なんて言えるわけもなく授業が終わった。



「お前達! 食堂に集合!」


 ドカンと指を上に向けて教室を飛び出す王子。


 まだ男が残ってる王子もいるらしい。


「一緒にお散歩はいかが?」


 カノンのお誘い。


「お供しますわ」


 俺は花びらのような手を取って席を立った。



 学園の広大な庭に連れてこられ、踏まれるだけの草に跡をつける。


 その度に風がふんわりと吹いた。



 カノンが立ち止まって椅子に手をかける。


「ここ、お気に入り」


 俺もカノンの隣に座ってみる。


「良いと思います」


 真横から見る一際大きなカノンの胸。


 落ち着いて前だけ見ていると。


「ハルカって女の子みたいな名前」


「しかも、実際に存在する王子の名前ですね」



 カノンの声が耳元に迫る。


「怪しいのが悪いから」


 そう言って俺のスカートに手を入れるカノン。


「ちょっと、ちょっとちょっと!」


「随分余裕だね」


 手でカノンの手を探そうにもドレスの厚みに阻まれる。


 そのまま指一つに下着を掻っ攫われ、靴に三角の白い生地がかかる。


「あの子には白だったよって教えてあげとくね」


 カノンの手に下半身が握り込まれる。



「んっ……」


 他人の右手に生命の源が収められる。



 こんなに可愛いのにその手つきは男のよう。


 男らしく自分の意思で触っているような感覚。


「はあっ、はあ……」


 握り潰されるかもしれない恐怖に汗と動悸と。


「大きくなってる♡」


 意思に反して体は反応する。



 それに応えるようにスカートの山が膨らんで凹む、ガサガサと布と布が擦れる。


「気持ちいい?」


 答えずに居るとカノンの手がスカートから出た。


「……怖がらせてごめんね?」


「握り潰されるかと思いました」


「そんなまさか!」


 カノンは花柄のハンカチで手を拭いつつ答える。


「ここでは誰もが誰も信頼できない」


 相手が男という大前提すら怪しい。


「だから触って確かめるんだよ、ここでは」



 椅子に深く座り直すカノン。


 横に置いた両手を支柱にして大きく足を開く。



「ハルカも触っていいよ」


 ドレスの下がピンッと半月を張る。


「失礼します」


 左足を左手に這わせてカノンの中に。


 ツルツルの生足よりツルツルな衣類に指の腹が当たる。


 その隙間に指を押し込むとジメッとしていて一際柔らかい感触に当たった。



「これで、信頼できそう?」


「はい」


 相手の性別と敵意の有無を確認できる。


 この学園ではダイヤモンドより価値がある。



「相談があったら教えて、もう仲間だから」


 カノンが片足を俺の膝に乗せて身を寄せる。


「それと、私も初対面でキスしてもいいと思ってた」


 差し迫る唇を受け止める。


 柔らかくて吸着されてしまうような感触。


 暖かい熱がゆっくり剥がれていった。



「でもキスじゃ何も分からないね……」


「したいから、したってこと?」


 カノンは俺の膝から降りると、顔を両手で隠しながら頷いた。



「そろそろ、行きましょう」


 それなりに分かることもあるもんだと思った。

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