マリア学園


「ここはなんて名前の街?」


「マリア、学園と同じように」


 色んな文化が混ざっているような、見方によって印象が変わる街。


「城はない?」


「学園の王子が実質的な国王だからね」


 王子達がここを仕切っているなら、大罪人の王子は見つけておくべきかもしれない。


 ローラは「アレが学園だよ」と指差す。


 一際大きな構造物を示していると直感で分かる。



「へー」


「部屋はどこ?」


「今日からお世話になるので分かりません」


 ローラが俺の手を握って立ち止まる。


「セン王国に居て、編入する人って……」


『言わないで』



 ローラの横に並んで肩を抱いて牽制する。


『王子、お忍びで一目見てから好きなんです』


 可愛い声と見た目でそう言われても。



「どこの国ですか」


『ロンド王国の王子です』


 俺はローラの首元を掴む。


「嘘でも言っていい事と悪い事があるだろ」


「ごめんごめん、その怒り方は本物の王子だね」


「……私はロンド王国を潰す為に来ました」


 コホンと可愛い声で状況を取り戻す。


「王子は身を隠すのに必死だから大変だよ」


「でしょうね」


「確かめるにはこうやって怒らせるしかないけど、王子を怒らせると何が起きるやら」


 しばらく歩いてマリア学園に着いた。



 本当にデカい建物を見上げる。


「縦にも横にも……」


「後、あれとこれも学園の建物」


 ローラの指の中にはコロシアムのような建物も含まれていた。


「面白そうですね」


 ローラについて行くまま学園の敷地を跨ぐ。



「また後でね」


 ローラは大きい建物に入っていった。


 俺も手続きをする為に公務員室を探した。


『あなたは? 見たことない顔ですが』


 召使いから貰っていた巻物を渡すと女性の態度が変わる。


『ようこそ、王女』


 女性がお辞儀をすると同時にその手の巻物が下から上に燃えて消え失せる。



 編入生ということで別室に案内された。


「名前はハルカでよろしいですか?」


「はい」


 ある程度の学園のルールを聞かされる。


 ローラから聞いた話と合わせて充分。


「そろそろ授業が終わるので入っちゃいましょう」


 女性に連れられて廊下を歩く。


 階段を何個か上がってまた廊下。


 見えてくる教室には可愛い女の子。


 あれが全員、男なんだから恐ろしい。



「この教室ですね」


 言われた教室には窓際の席が一つ余っている。


 教師が俺達に気づくと授業を止めて、入ってくるように合図する。


 ドレスの重たいスカートを摘んで堂々と入っていく。


『今日から皆さんと一緒に学園生活をする、ハルカ王子です』


 よろしくお願い致します。


 俺は屈むように丁寧なお辞儀をした。


「あそこの席を」


  空いている席に向かう。



 話し声は聞こえない。俺の靴の音だけが響く。


 剣を机の横にかけて席に着いた。


「それでは授業を終わります」



 教師が出ていくと教室がドッと盛り上がる。


 話し声に紛れて何人かが俺を囲む。



『ねえねえハルカってあのハルカ?』


『めっちゃ可愛いじゃん!』


『下着の色教えて!』



 押し寄せる質問に答えれずに居ると隣からスッと綺麗な手が伸びる。


 シルクの袖からシルクの手。


『困ってるじゃない』



「あ〜そっかー」


「また後で質問攻めしてあげようね」


「そうしよ!」


 染み入るような優しくて柔らかい声。


 簡単に引き下がっていく女子達。


 あの人もこの人も本当に男なのだろうか。


『私はカノン、よろしくね』


 どうもとこちらも頭を下げる。


 その時に膨らみを帯びた胸に気づく。


 本当に男なのか?


 顔を見ても分かりようがない。


「どうかした?」


「ドレスが綺麗だと思いまして」


 真っ白な服を着るには手入れを欠かせない。


 わざわざ選ぶ美しさというものもカノンにある。


「……ドレスだけ?」


「顔も綺麗です」


「どれくらい?」


 カノンは王女としても通用する程度には整った顔立ちをしているように見えた。


 化粧だけでは到達できない生まれ持った美しさ。


「初対面でもキスしてみたいくらい」



「それはちょっと嬉しい……」


 目を逸らして下向きに顔をウロウロさせる。



 その姿は完全に女の子であった。


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