通りがかりのローラ
街並みは戦争があってもなくても変わらない。
それは今だけかもしれない。
子供の頃から通った道を抜けて広場へ。
噴水の前で足を止める。
手を噴水の飛沫に向けて力を込める。
その瞬間から、水の小さな塊が垂直に落下してポンポンと水面に落ち込む。
浮かび上がる氷の欠片。
『こんな遊びも終わりですわ』
可愛い声で呟いてみた。
それから召使いに渡されたメモを頼りに歩く。
迷わないようにということですが。
俺の事を理解し過ぎている。
武器屋、防具屋、肉屋に魚屋。
今回ばかりは誰も俺に声をかけない。
『ここですか』
確かに馬車がそこにある。馬も居る。
門の近く、隣が酒場、馬の色が紫。
メモの通りだが本当にこんな色の馬が居る。
これに乗って学園に行くらしいが目立ちすぎる。
『もしかして、マリア学園の人?』
声に振り返ると可愛らしい女性が立っていた。
俺と似たようなドレスで高級感も漂う。
「そ、そうですけど?」
俺も対抗して可愛い声と仕草で迎え撃つと。
女性は一礼して俺に近づいてきた。
「私もそうなの」
ということは、こいつは男らしい。
あるいはロンド王国の王子。
「この馬をどう見ますか?」
紫の馬を指差しながら女性を見る。
緑色の短い髪の凛とした雰囲気。
「何か、作戦の合図かもしれないよね」
やはりそう見るか、という模範的な答え。
「二人で乗れば怖くありません」
「そうかも!」
「そんなわけないでしょ」
俺はピシャリと言い返して後にする。
探索してみると学園への馬車は他にもあった。
『これにしよう!』
この引っ付き姫はローラと言うらしい。
俺はハルカと応えたが偽名に思われている。
「なんで居るんですか?」
「あれに乗りたくない」
しかし、もしこいつが女だったら?
馬車の中で暗殺されてもおかしくない。
こいつの性別を確かめるまで乗れない。
「お先にどうぞ」
「まだ時間はあるし……」
そう言ってどこか素知らぬ顔のローラ。
同じことを考えているとしたら不毛。
「ローラ、休憩しません?」
近くの2人用の長い椅子に座る。
できるだけ密着して顔を見ても男っぽくない。
「な、なに、なにかな……」
「あれ見て! セン王国の王子が来てらっしゃる!」
「どこどこ!」
俺が適当に指差すとローラは興味津々で探す。
その隙にローラの股間に手のひらを押し付けた。
「やっ……」
俺の手に更に手を重ねて高い声を漏らすローラ。
特に何かを言うわけでもなく、ローラの足が微かに開き、手が深く入る。
その手には柔らかくて覚えのある感触が残った。
「本当に男だったとは……」
この見た目、この声、なのに男。
実際に直面すると頭が痛い。
「は、ハルカのも……」
「どうぞ」
ドレスの上からポンポンとローラが触る。
他人に触られる感触というのは不思議なモノ。
「こんなに可愛いのに」
「それはお互い様ですよ」
これで安心して同じ馬車に乗れるだろう。
「じゃあ乗りましょうか」
「そうだね」
馬車に乗って学園に向かう最中、ローラからマリア学園について教えてもらった。
全員もれなく確実に男だけの場所ということ。
学ぶ内容は礼儀作法以外は王子向け。
そして学園全体がザワついているらしい。
「ザワついてるってなんですか」
「最近、セン王国が宣戦布告されたけど」
ローラは俺の耳元で囁く。
『そんなことをしたロンド王国の王子は誰かって』
世の中の流れによっては指名手配犯を探したこともあると言った。
「だからセン王国に?」
「ハルカ王子はマリア学園に来るだろうから」
「確かにそうかもですねー」
「ハルカも、ハルカ王子を気にしてるってことは分かる!」
馬車に揺られてマリア学園の街に到着する。
安全に過ごせる女装を少しだけ気に入った。
「はい、ローラ」
俺が先に馬車を降りて、ローラに手を差す。
「そうそう、王子はそうやって王女をエスコート」
手を摘んで地面を踏みしめる。
「私も王子だから!」
「でも可愛いですよ」
俺達は街に入った。
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