秘密だらけの花園
@1lI
プロローグ
『申し訳ないと思っている』
赤いカーペットの上。片膝をつく俺。
『全て私の責任だ』
「いいえ、仕方ありません」
大きな椅子に座る目の前の父親は目の下を黒くしてやつれていた。
父親はセン王国の主。俺はその息子。
最近、ロンド王国に宣戦布告された。
なぜそうなったのか、俺はよく知らない。
「それよりも新しい学びについてはどうだ?」
父親は両手を広げて他愛もない話をする。
俺もそれに合わせて立ち上がる。
「剣や魔術に比べれば簡単でしたが、アレを覚える意味が分かりません」
「もう覚えたのか、なら心配あるまい」
父親はすれ違うように歩き抜ける。
「今後はマリア学園で暮らしてもらう」
「そこは王女だけの学園と聞いています」
布を挟んだ鈍い靴の音が離れていく。
『もし、ロンド王国の王子を見つけたら殺せ』
俺は父親の言っている事が分からなかった。
それから一晩。朝になると召使いがやってきた。
「起きてください」
用意された服は可愛らしいドレス。
「そうそう、この赤くてロリータなのがね〜……」
そんなわけがない。
「王子だぞこれでも俺は」
この服は違うと召使いに押し付けた。
「マリア学園に行くんですから、可愛い服とお化粧は外せません」
「マリア学園は王女向けなんだって」
「し、知らないんですか?」
召使いは目を見開いて俺の顔を覗き込む。
頷くと更に続けてこう言った。
『マリア学園は王子専用の、匿名の学園なんですよ』
召使いが言うには身元を明かせない王子が行く表向きには王女向けの学園らしい。
身分を隠す為に厚く化粧をし、素行を少女の振る舞いに隠し、男らしい体つきをドレスに封じる。
「確かにロンド王国の王子も居るかもしれない」
「だから国の為にもどうか着てみませんか?」
俺はドレスについて教わりながらフワフワのスカートを見下ろすに至る。
「お化粧は分かりますよね?」
「ここ最近、やらされたのがこれか」
特別な粉を塗って赤い線を唇に引く。
目元に黒を引いたり、偽毛を乗せたり。
「お人形さんみたいで可愛いですよ!」
鏡に映る自分を見ると、背後から見ているような感覚がした。
可愛いと言われても自分が言われているわけではない。
『そうか』
「髪も伸ばしましょう、ポーションを頂いています」
カチンとガラスがぶつかる音。
何本かその手に集められた瓶の色は様々。
「まずこれを飲んでください」
緑色の瓶を飲み干すと髪の毛が伸びていく。
「うわ、なんだこれ」
髪を手で抑えても髪が生きてるかのように指を抜けていく。
瞬く間に腰まで髪が伸びてしまった。
「色は〜」
ノリノリな召使いを遮る。
ここまで自分が失われると悲しくなってくる。
「いいよ色なんか」
「これですな!」
渡された瓶を渋々、受け取って飲んだ。
「こ、これは!」
髪という髪の色がごっそり抜けていく。
いや、抜けているのではなかった。
「銀色か」
灰色の銀髪。
「これは目立つな」
「まるで女の子ではありませんか」
「声以外は」
「声も、出せますよね」
俺は化粧とその声の出し方も教えられていたことを思い出した。
『どうかな、かわいいかな』
喉から透き通るような声。
これが一番大変だった。
「さすがです、王女」
「そうか」
全てはこの国を救う為、か。
「王様にも見せてあげましょう」
「嫌だよ」
皮の鞘に収まった剣を背負う。
魔法も兼ねた専用の武器。
「せっかくですから、見せてあげましょうよ」
「分かったよ」
俺は召使いに背中を押されて父親の玉座までやってきた。
「ハルカではないか、随分と可愛らしい」
「最悪だよ」
「それは、そうだな」
暗そうな顔をする王様というのはバツが悪い。
「そういえば、このドレスは?」
「お前の母親のモノだ」
「身元がバレてしまうのでは」
「その国はもうない」
どう転んでも楽しい話はできそうになかった。
「ロンド王国の王子を探してくるよ」
「お前なら殺せるだろう」
「任せてくれ」
父親に手を振ってその場を後にした。
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