プロローグ(中)

2年前:


「せいー!」

「わきが甘いわよー!そこー!」


バコ―!

「ぐわッ!?」


ゴド―!

……


スー!


マリア姉さんに脇腹を突かれただけじゃなくて、木刀も突き飛ばされ、派手に転げ落ちた俺の方へと近づいてきた彼女は、俺に木刀を突き付けてきた。勝負あり、だな。あーははは......


「降参。やっぱり、姉さんにはまだ敵いそうにないね」

「そう?こっちからすれば、5分以上も持ちこたえられただけでも大したことあるわよ?」


それもそうか。


なにせ、このバークウィッチ王国では将来、優れている魔剣使いの女騎士になれるってちやほやされている、ガードネル魔法学院の1年生トップ成績にして優秀な我が自慢のマリア姉さんが言うんだからな。


「兄様、お兄様!」

「ん?」


たたたー。


屋敷の中から、この中庭の芝生で倒れたまま差し出された姉さんの手で引きあげながらの俺の方へ走ってきたのはー


「はい、差し入れ。まだ続けるんですよね?お姉様も」

「ええ、そうね。...でも、予定ではもっと弟と戯れたかったんだけれど、生憎とー」


リリリリン~!

かちゃー!


「はい、マリアだよ。........はい。...んんッ。そう?......じゃ、待っててね。すぐ行くから」


マリア姉さんは自分の布でできた騎士装束のスカートのポケットから小型魔導通信筒を取り出すと、誰かと用事でも出来たのか、通信を切ると同時に、


「じゃ、学院指導の『リニヤン討伐任務』に参加しに行かなきゃいけないから、先にいくわね」


「ま、またリニヤンですって?あの過去に何千人もの都民の命を奪ったことあるっていうー」


「あの時、暴れてたのはSクラスのものだったらしいわ。本で読んでたじゃない、セシー。今回は普通なCクラスって報告だけよ」


「言われてみれば、たしかにそうだったようなぁ、そうでもないようなぁ...」

俺も首を傾げ、本で読んだ知識を妹のセシリアと同じように考え込んで思い出そうとすると、


「そういうことだから、マリアお姉ちゃんが先にいくけれど、あたしがいない間、二人はどこかお店にでも行って、楽しんできていいわよ?ふふふ、水入らずな兄妹タイム、しかとこの耳、今晩の夕食タイムで話を聞かなくちゃね、ふふ...」


「「ほえー!?」」

きょとんとした俺達二人に、


「じゃ、もう行くから、ちゃんと二人で町に出かけに行くんだぞ?帰ってきた時に行かなかったって言われたら、厳し~い罰を与えるからね~~」

たたたー!


「い、行った、......んですよね」

「...ああぁ...」


罰されるって脅かされたら、最早行くしかないな。マリア姉さんは怒る時、怖いからね。


「じゃ、じゃ。俺達も、...行こうぜー?」

「は、はいー!お兄様!...え、...えへへへ.....」


なんというか、普段ならいつも俺に懐いてきて、一緒にお屋敷のあっちこっちでいっぱい遊んでいて、おバカ騒ぎしてきた俺達二人だったのに、今この瞬間で二人だけで出かけるって展開になる時だけで、もじもじしたり、俯いてばかりいて、なんか緊張してないかなー?


「セシリ?」

愛称で呼ぶと。


「だ、だって...」

「ん」

「お兄様と二人だけでお外のお店へ行くのって、2ヶ月ぶりだったんですもの。......緊張もしますよ?」


「で、でも。......その、俺達の仲じゃないか?...え、えっと、その。......お父さん達に拾われてから5年も経ってきたけど、今までで、た、たくさん遊んだり―」


「そのどれもがわたし達が幼い頃ばかりで、どれもが小っちゃい子だった時の話でしょう?それもわたし達がいつも一緒にいる時って、ずっとお屋敷の中だけだったり、外出しててもお姉様やお父様も一緒だったばかりでしょう?で、でも、今回は...」


...あ。


い、言われてみれば、確かに俺達が二人っきりで街に出かけるのって、今日があの、なんていうのかな?カイリンー?」


「カイリン祭の開催日ですから」

そ、そうだった!


拾った時からのお父さんが言うには、当時は俺が5歳に見えたって魔術計算機からの応用で判明したので、今は10歳になってるらしいが、確かにー


「思い出した。確かに、お父さんから聞いた話によればー」


「10歳の男の子のお友達と、...もしくはお家族の男の子と一緒に、二人っきりだけでカイリン祭が開かれた町に年齢が一年も下の女の子が行くとー」


「『たとえどんなことであれ、二人は永遠に強い絆で結ばれ、お互いはイリアシス様からご利益』をもらえるんだっけ?」

「うん!」


俯いていたままだったセシリが顔を上げて、はにかみながらも満面の笑みで頷くと、


「じゃ、その話が本当かどうか、一緒にいってみて、試そうじゃないか?」


「はいです!というか、試しにとかではなくて、その話は本当なのですよー!イリアシス様のことを信じてないとは言わせませんよ?」


そう。


確かに俺は元々、この国の人間ではなくて、どこか別の大陸で生まれたらしくて、そして何がきっかけなのか、5歳の時だった俺がいきなり記憶も失くしたままこの北大陸のバークウィッチ王国であるここのクライスラー家の屋敷の森近くの裏で見つけられた。まるで自分の意志じゃなくて遠い地から転送させられてきた、みたいな......


そして、お父さんである神父アルバートが真っ先に発見してくれたから、それで俺が運よく優しいお父さんも、そしてそれよりも最も優しくて甘やかしてくれてた大神官にして侯爵夫人クラリス母さんもが俺のことをー


ぎゅっと~!

「行きましょう、カイルお兄様!」


白い手に自分の黒い指先がきつく握りしめられて、引っ張られていくので、


「あ、あ!うん!行こうー!」


そして、出会った最初の日から、違う肌色の俺を見て最初は怖がっていたこの愛らしい妹のセシリアのことを今ー


今は、何か大切な存在のように、


なってくれたって確信したあの当日だった。


あの、


幸せに満ちた、


カイリン祭だった日で。


でも、

まさか2年も先に、


セシリアが11歳になり、俺も12歳になってる今で、


あの悲劇が襲ってきて、


セシリアをあんな連中にー!


......................



..........



「......で、あんたは何者なんだー?死んだはずの俺を、こんな意識体の存在としての俺を呼んで復讐する機会までくれようとしてー!」


たとえ、あの『神様らしき』声のおかげで復讐できる機会を貰えても、絶対に何か裏があるはず!


それに、たとえ俺がこの神様によって蘇られたり、死体としての俺が全回復したとして、俺が育ったあの国では.....


「あら?まあ、これは失礼わね。自らの姿も見せずに話しかけてしまうだなんて、あたしとしたことがドジっちゃったね、うふふ~」


パチー―――!

「--!?」


くッ!いきなり眩しく光ってんだけど、何なんだよー!


魂状態のはずなのに、まるで目が合って晦まされちゃうみたいな感覚にしてくれちゃって!


......


「...ふぅぅ...、これでどうかしら、カイル・ド・クライスラーちゃん~? 」


「あー。ああぁ、そ、その格好はー?」


一瞬、目?を疑ったが、やはり何度も瞬きをこの意識体で繰り返しても見えてくるものが同じ!


なんつぅーか、とにかくエロい―!


だってだって!


胸元が大きく開いてる大胆な青色のドレスは、片脚だけで殆ど隠されずにスリットみたいな状態なあれが、臍も見えちゃうよう穴が開いてるお腹の布が。


いっそうその妖艶さを倍増させるのに十分な役割を担う!


って、いかん!セシリアのために、そして大恩の元で育ててくれた母さん達の復讐に集中しなくては!


「あぁんッ~?『その格好』とはご挨拶わね、カイル君~。あたしはフェロチン。冥界の三人女神の内のフェロチンよ~」


「なに!?あの冥界の女神だとーッ!?」


た、確かに、冥界の三人女神ってことは、あの教科書で読んだっていうあれがー!? 


そのぅー、俺らのバークウィッチ王国民が国教として信仰にしている白刃の女神ルヴェナ様と対立関係にあるあの有名な『冥界の三人女神』一柱だとは!


「ふふふ、驚きすぎよ、カイルちゃん~?...『まあ、きみが育てられてきた国のことを考えると無理もないけれどね』」


そ、そうかぁ.....

まあ、やっぱりそうなんだな。


このフェロチンさんは、内の国の民を導いている義務を持つルヴェナ様と事を構えるリスクを犯してまで、争いの種が撒かれるのを承知で俺の事を蘇らせようとしてる!そうなんだよな!?


そしてその意図が分からないけれど、どうやら理不尽に殺されたセシリア達の無念を晴らそうとしたい俺への協力に、きっと何らかの見返りを期待するはず!


「難しく考える必要もないわよ、カイルちゃん~。あたしはきみの復讐を手伝ってあげる。その代わり、きみは『あたしたち』のために、とある任務について、頑張ってお仕事してもらいたい。それだけなのよ~」


白い肌をほんのりと朱に染める、その銀髪ショートのドリル髪を揺らしながら俺のすぐ目の前まで歩いてきたフェロチンさんは、


「大丈夫よ。あたしはただの連絡係に過ぎないから、きみの蘇生を実際に行うのは一番若いミルファよ。だから、」


すー。

「んー?」


なんでかいきなりこの意識体がまるで金縛りにあい、動けなくされてしまった!


ぐい!

そして、『あご』を掴まれた!


「蘇生と復活魔法を嫌うルヴェナちゃんであっても、南方大陸を出身地にしているきみの魂の管理をできるはずもないわ。よってー」


いきなりその綺麗な顔してるフェロチンがいきなり至近距離まで、キスできそうなところまで近づいてくるとー


「唯一、きみのことを蘇らせることができるミルファちゃんは、『白刃の人』の魂だけを管理できるルヴェナちゃんからの影響を一切受けないから、安心して蘇生してもらえるわよ?」


「そ、そう、なんだ...」


「ふふふ、だから、きみの身体が再構築され、現世へまたも降り立ったとしても、『白刃の人』ではないきみの魂がまたも『肉の器』に帰って、蘇生させられたっていう証拠と波動を察知できないわよ?」


な、なるほど!

俺が外国ルーツの人で助かった、とも言えるんだね。


これで、心置きなく、


あの蔑んだ目を向けてくれた、ティアラを頭に被ったあの最悪な王女っぽい恰好してたツインテ―ルの女!


俺達の屋敷に侵入してきた集団の指導者っぽい立場として指示を出してたあの女が、

約束も果たせずに殺された俺の一番大好きなセシリア、


そして母さん、父さん、姉ちゃんをー!


なにもかも、


俺からすべての大切な人を奪ったその罪を罰し、


何があっても絶対に殺してやるよー!!


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